「母さん!!なんで!!」
母に近づいたレジアは、その出血の量に足が震えた。
もう助からない……………直感でそう分かるぐらい、撃たれた腹部から止めどなく血が流れている。
銃弾で貫かれた腹部を押さえ、息を荒げながら、それでもレイナは力強い瞳で近づいて来るレジアを見た。
「レジア!!ミューラと…………この子を連れて行きなさい!!本当に止めなきゃいけないのは……………地球を焼く炎と…………人の心を破壊する光よ………」
レイナの血で赤く染まった子供……………スージィを最後の力でレジアの方に押し出しすと、そのままレイナは地面に倒れ込んだ。
「母さん………………卑怯だよ………………子供がいるから、この子を助けなきゃ駄目じゃないか………………母さんを助けられないじゃないか!!」
レジアは大量の涙を流しながら………………母に駆け寄りたい衝動を必死に抑えながら…………血の池に沈んで行くレイナを横目に見ながら……………スージィを抱えると、ミューラのいる場所に戻ってくる。
スージィに付着した母の血液が、レジアには愛おしい物に感じ、スージィを抱きしめずにはいられない。
その血が自分の服を汚していく事も、レジアには母に抱かれている感じがして、気にはならなかった。
「ミューラ、聞こえるか!!」
スージィを抱いたレジアとミューラが身を隠した瞬間、足を撃たれた技術者の1人が声をあげる。
「これでミノフスキー・ドライブを実用化出来る技術者は、もはやオレとお前だけだ!!ミューラ、お前が逃げれば、ベスパはミノフスキー・ドライブを造る事は出来ない!!必ず逃げきるんだ!!」
その男は、そのフロアの全てに響き渡る程の大声で叫ぶと、自分の頭に銃口を突き付けた。
「おいっ!!止めろ!!一体何をしようとしてるんだっ!!」
バンっ!!
レジアの叫び声と同時に、再び乾いた音が周囲に木霊する。
その技術者が、自らの頭を撃ったのだ。
その技術者の言った事は、事実ではない。
しかし、これで倒れている技術者はミノフスキー・ドライブを造れないとベスパのイエロージャケットが認識した筈である。
自分の命を投げうって、倒れている他の技術者を守り、ミューラに逃げる口実を与えたのだ。
ミノフスキー・ドライブを造れなくても、サナリィの技術者はモビルスーツ開発に必要不可欠で殺される事はまずない。
自らの頭を撃った技術者は、そこまで考えていた。
「逃げよう…………ミューラさん。母の………………皆の想いを無駄にしちゃいけない!!」
タブルバードと呼ばれるモビルスーツが…………ミノフスキー・ドライブと呼ばれる代物が…………人の命よりも重いなんて、レジアは考えたくもなかった。
それでも、サナリィの技術者達が………母レイナが…………その想いを自分達に託して散っていく。
だからこそ、その想いを繋げなければいけない……………レジアの気持ちの篭った言葉にミューラは軽く頷くと、倒れているレイナに目を向ける。
赤く染まったその体の主は、もう死んでるかもしれない。
しかし、その体にミューラは誓いを立てる。
(必ず…………必ず、あなたの意思を引き継ぐわ!!そして、あなたの息子も守ってみせる!!ガンダムの伝説を……………絶対復活させてみせるわ!!)
ミューラは動かなくなったレイナの体に一礼すると、涙を堪えて走り出すレジアの後を追って足を踏み出す。
だがイエロージャケットの兵達も、ミューラを追ってレジア達に迫って来ていた………………