「これは良い機体だな!!エステルのばぁさんはイイ仕事するぜ!!」
宇宙空間をバーニアの閃光が輝く。
その閃光の先…
白と青のコントラストの美しいモビルスーツが目に飛び込んできた。
「あたり前だろ!!その機体にはリガ・ミリティアの命運がかかってるんだ!!中途半端なメンテはしないよ!!なぁ、ミューラさん」
豪胆なもの言いで隣りに立つ金髪の女性に話かけた老婆は、漆黒の宇宙を飛び回るモビルスーツを目で追いかける。
「ミノフスキーフライト搭載型の機体を開発出来るなんて、記念すべき第一歩さね!!これを量産出きれば、ザンスカールなんて怖かないっ!!」
老婆ながらに健康的な二の腕を持ち、さらには力瘤まで作るエステルの上半身を眺めながら、ミューラと呼ばれた女性は浮かない顔をしながらも少し笑みを浮かべた。
「そうですね………量産機のガンイージもロールアウト間近です。元サナリィの技術者達も頑張って作業してくれてますから………」
そう言うと、ミューラは白いモビルスーツを、懐かしい友に久しぶりに会ったような………でも、どこか曇った瞳で目で追いかけた。
「ガンダム………」
その小さく呟いたミューラの言葉は、重く深く、そして小さく、宇宙の闇に吸い込まれる。
「トライバード・ガンダム!!良い名じゃないか!!今の私達には、ピッタリのネーミングさ!!」
ミューラの浮かない表情を察してか、エステルは少し大きめの声と、母親のような温かい笑顔を作り出す。
挑戦する鳥………挑戦する為に飛翔する………レジスタンスが帝国に対抗する無謀な挑戦に対して、その壁を乗り越える為のガンダム。
そんな意味が込められたガンダムのコックピットから、声が聞こえる。
「そうだな!!このトライバード・ガンダムは、俺たちに希望をくれるはずさ!!こいつをベースに、早いトコVの名を冠するモビルスーツを開発してくれよ!!」
「レジア!!大声出すな!!やかまし!!!」
白いモビルスーツ………トライバード・ガンダムより通信されてくる大きな声に、これまたエステルが母親のような声で叱咤した。
レジア・アグナール。
レジスタンスであるリガ・ミリティアのエースパイロットである。
ザンスカール帝国建国直前に、リガ・ミリティアの前身にあたるレジスタンス組織と連邦軍がサイドⅡに軍事介入をした事件があった。
ガチ党が武闘集団と言われていた由縁に、ギロチンと最新モビルスーツ[ラング]の存在がある。
ラングはミノフスキーフライトを標準装備し、重力下において俊敏な動きを可能にしたモビルスーツであり、連邦のジェムズガンを圧倒した。
その戦いの中で、始めて動かした旧式のジェムズガンでラングを5機堕としたエース、それがレジアである。
後のリガ・ミリティアがV(ヴィクトリー)計画を発案し、高価なモビルスーツ開発に乗り出したのも、ガンダム伝説を復活させようとしたのも、彼の存在なくしては語れない。
「レジアさん。トライバードはVガンダムの雛型です。大事に扱って下さいね」
「もちろんだ!!オレがガンダムパイロットになれたのは、ミューラさんのおかげだ!!出来る限りのデータと、戦果をあげてみせるぜ!!」
ミューラの言葉に、レジアが再び大声を出す。
「だから、うるさいって言ってるだろ!!イイ年して落ち着きのない!!」
エステルは大きなため息をついて、トライバードのバーニアが放つ閃光を眺める。
「この機体………それにヴィクトリー計画のモビルスーツだけじゃ勝てないわ………でも、私の考えるミノフスキードライブは羽が長すぎて彼ではとても扱えない………余剰粒子を外に排出させる機能………あれを装備しても使いこなせるパイロットがいれば…」
そんなミューラの憂いの声も宇宙の闇は静かに吸いとっていき、トライバードの奏でる音だけが辺りに響いていた………