タダダダダダダダッ!!
上の階に近づくにつれて、銃声の音が強く激しくなっていく。
「ぐわぁ!!」
レジアが息を切らしながら4階に辿り着くと、そこは銃撃戦の最中だった。
いや…………銃撃戦と言うには、余りにも一方的である。
黄色のノーマルスーツを着た兵士が、必死の抵抗を続けるサナリィの研究者達にジワジワと近寄っていく。
イエロージャケット……………ザンスカール帝国の帝国軍[ベスパ]に所属し、黄色いパイロットスーツを与えられた、精鋭のモビルスーツ・パイロットで構成された部隊の名称である。
後に、地球侵攻作戦の先発部隊として認知されるが、この時期は地球侵攻作戦に必要な設備や技術の接収にも派遣されていた。
そんなイエロージャケットの部隊は、サナリィの技術者達をわざと生かしながら包囲網を狭めて、少しずつ恐怖を植え込み、抵抗を諦め服従するのを待つかのような戦い方をする。
その包囲網の中にいて、女性ながらに必死の抵抗を続ける金髪の女性…………ミューラ・ミゲルが、レイナを見つけると思わず叫んでいた。
「レイナ!!なんで来たの!!ダブルバードの図面が無事なら、それを持って早く逃げて!!」
「ダブルバードの完成には、ミノフスキー・ドライブの設計図面と、余剰エネルギーを機体外に排出するユニットの設計図面が必要だから…………」
サナリィの技術者として銃撃戦に巻き込まれていたミューラは、分厚い資料の束をレイナに差し出した。
「これ…………これに全部入ってる!!さっきミノフスキー・ドライブの資料は全部爆破したわ。ミノフスキー・ドライブに携わってた技術者も、ここにいるメンバーだけ」
「なら、一緒に逃げましょう!!ミノフスキー・ドライブに携わってる技術者は少ない。イエロージャケットだって、私達を簡単に殺さないわ!!」
サナリィの技術者にしか分からない、秘密の抜け道でもあるのだろうか…………
レイナは近くにあったドアを開けると素早く中に入り、直ぐにミューラの背後にあったドアから現れた。
「ミノフスキー・ドライブの資料、預かるわ。早く裏のドアから逃げましょう!!まだ何とか逃げきれるわ!!」
レイナはミューラの手をとり、無理矢理歩かせようと、その手を引っ張った。
しかしミューラは、その手を無理矢理振りほどくと、首を横に振る。
「私の友人達が、あそこで倒れてる…………彼らを置いて逃げる訳にはいかないの……………お願い、先に逃げて……………」
ミューラの視線の先………………そこには、足や腕を撃ち抜かれ倒れている技術者達がいる。
「私達は、生きて捕まる訳にはいかない。だから、ここで皆死ぬつもり……………でも、私達の意思を受け継いでくれる人も必要だから、あなたがダブルバードを……………ガンダムの伝説を復活させて…………地球を守って!!」
涙ながらに訴えるミューラの言葉を、レジアはやりきれない思いで聞いていた。
「なんだよ、それ…………手足を撃って動けなくして……………こんなやり方で自分達の思い通りに人を動かそうって、そんなの…………ねぇだろ!!」
レジアはその惨状に、状況に、ベスパのイエロージャケットのやり口に、怒りで体が震える。
その時…………………レジアが怒りに任せて、イエロージャケットの1人を殴りつけようとした、正にその瞬間……………
小さな女の子が、レジアの前を駆け抜けて行った。
「スージィ!!そっち行っちゃ駄目だ!!」
慌てる父親の声………………ゲルダ・リレーンは、イエロージャケットの銃口が向けられている空間に飛び出した娘のスージィを守る為に、銃撃戦の中に身を投じる。
「なんで、こんなトコに子供がいるんだ!!」
イエロージャケットの兵は叫ぶが、研究者以外は殺しても構わない…………
そう命令されている為、子供だろうが例外は無い。
まるで遊び場ではしゃぐように歩く2歳ぐらいの子供に向けられる銃口に、父親が必死に守るように、自らの体をイエロージャケットの兵士達の正面に向けて飛び出した!!
しかし、そこは銃撃戦の中…………
子供・大人、関係なく降り注ぐ凶弾に、ゲルダの体は貫かれた。
「ぐはぁ!!」
研究者が飛び出して来た為に狙いを手足に切り替えられ、ゲルダは肩や足を撃ち抜かれて悶絶した。
鮮血は撒き散らしてはいるが、どの傷も致命傷ではなく、命に別状は無さそうである。
「くそっ!!子供の目の前で、平気で銃をブッ放しやがって………………異常にも程がある!!」
さらに銃口は、ゲルダという盾を失った幼い子供に向けられた。
「技術者以外は殺していいとの命令だ!!溜まったストレス、解消させてもらうぜぇ!!」
「馬鹿な!!子供を撃とうってのか!!信じられねぇ!!」
レジアは、銃撃に晒される親子を守ろうと前に出ようとしたが……………
「あ……………れ……………………?」
足がすくみ、まるで動かない。
「レジア!!あなたはジッとしてなさい!!私が行く!!」
レイナは預かったミノフスキー・ドライブの機密書類をミューラに押し付けると、銃口を向けられているであろう場所に飛び出した。
その時間は、ほんの一瞬……………レジアが声を掛けれない、本当に一瞬のはず…………………
だけど…………………レジアには、その一瞬が時間が止まっているかのように長く、そしてスローモーションに見えた。
バン!!
その直後、乾いた音が周囲に響き、レジアの時間は元に戻る。
自分の時間が止まったように感じたその一瞬、母の行動をただ眺めているしかなかったレジアの瞳から、涙が溢れ出た。
そして、ショックで目に入る全ての物が白黒に見える。
レジアの視界の先にあるもの………………
それは、レイナが口から血を流しながら、しかし子供を………………スージィを覆うように抱き護る母の姿だった。
「馬鹿野郎!!あれはミノフスキー・ドライブの権威、レイナ・アグナールだっ!!ブレスタ・アグナール亡き今、我々が一番欲しい人材だぞ!!」
ベスパの……………イエロージャケットの兵士が言い合いを始め、銃撃が止んだ瞬間、レジアは母の元に走りだしていた。