「母さん、サナリィが見えてきたよ」
宇宙船の窓越しに、スペースコロニー【サナリィ】の太陽光を取り入れる為の巨大な3枚のミラーが回っているのが見えた。
レジア達は、サナリィの技術研究所が所有している宇宙船に乗っている。
郊外の宇宙港まで戦火は広がっておらず、連邦のジェムズガンを搭載させる意外は簡単に宇宙に出る事が出来た。
レイナは頭に包帯を巻いているが、ガスフィーは意識を失っていた以外の怪我はたいした事なく、2人とも意識を取り戻し、今は宇宙船の座席に腰を下ろしている。
コロニーまでは戦闘は無く、すんなりとサナリィ・コロニーに近付く事が出来た。
「そうね。レジアがジェムズガンで、ラングを倒してくれたおかげね」
少しイタズラっ子っぽい笑みを浮かべながら、レイナはサナリィ・コロニーを見つめる。
「ちょっ!!やっぱ信じてないだろ!!オレって結構やれるんだって!!」
そんな母子のやりとりを見て、隣りにいたガスフィーが豪快に笑った。
「はっはっは。ここはレジア君の武勇伝を信じておきましょう。仮に倒したのが嘘でも、我々を助けて宇宙港まで運んでくれたのは事実ですから」
「確かにそうね。それだけでも凄い事だわ。でもガスフィーさんは、私達に付いてきて大丈夫だったんですか?」
ふてくされてるレジアを横目に、レイナは褐色の肌に連邦の制服を着た、いかにも軍人風の男…………ガスフィーに尋ねた。
ガスフィーは、連邦の正規の軍人である。
正規軍の人間が、任務を放棄して自分たちと行動しているのは良くないとレイナは思った。
「大丈夫ですよ。話を聞く限りでは、サナリィもヤバそうだ。優秀なレジスタンスを助けるのも、我々の重要な任務の1つです」
ガスフィーもまた、窓に映るサナリィ・コロニーに視線を移す。
サナリィの状況は、宇宙船への通信で明らかになっていた。
モビルスーツ、ラングが飛来し、次々と研究所を襲っているという事……………
そして、ガチ党のモビルスーツの開発を強要されているという事……………………
「着いたら、私がジェムズガンで援護します。必要な物をとったら、スグ退避しましょう」
必要な物………………それは、ミノフスキー・ドライブの基礎設計書である。
ミノフスキー・ドライブの技術がガチ党に利用されたら、それこそ連邦とレジスタンスに勝ち目はなくなる……………
以前、木星帝国と戦った時に使用された[F99レコードブレーカー]の資料も持ち出さなければいけないので、かなりの時間と労力が必要になると考えられた。
ガスフィーはこの話を聞いた時、命を救われたという気持ちもあったが、それ以上にガチ党にこれ以上のモビルスーツを与えてはいけないと感じていた。
「けど、ガスフィーさん。あのジェムズガン、異音が鳴ってたよ。ザンスカールの連中はギロチンを使うような野蛮人だし、1人で出て戦うの危険じゃないか?」
レジアの言葉に、ガスフィーは視線を船内に戻す。
「野蛮と言っても、ギロチンは見せしめの為に使っただけだしな……………それに、モビルスーツ戦になったら防御に徹するから大丈夫さ」
「そうかな…………ラングの数にもよるけど、難しいかもよ。あいつら、コロニーの中でも平気でビームライフルを使ってきた。今のところ、コロニーには重大な損傷は無さそうだけど………」
ガスフィーはレジアに言われて、アメリアでの戦いを思い出す。
確かに、ビームライフルを使っていた。
「コロニーに穴が開いても、お構いなしってヤツか…………まぁ、多少損傷していても、君も同じジェムズガンでラングを落としたんだろ?なら、正規軍のオレは2・3機は食ってやらないとな」
ガスフィーはそう言うと、ジェムズガンが搭載されている格納庫へ移動し始める。
そして船は、サナリィの宇宙港に到着する。
(オレはアメリアで産まれたから、アメリアの為に戦うのが当たり前だと思ってた。けど、この現状はなんだ?自分達のコロニーでライフルを乱射し、サナリィの技術者に無理矢理モビルスーツを造らせる。物事を外から見ると、こうも疑問だらけになるなんて……………)
レジアは自分の両親が命をかけても守りたい物、それが少しずつ解ってきた。
「戦争………なんだな………」
モビルスーツで人を殺してしまった…………
ビームサーベルでラングのコクピットを貫いた感触が残る自分の手を眺めながら、レジアはアメリアに残るかレジスタンスに参加するか迷い始めていた…………