「思ったんですけど、プラズマ・ブースターでしたっけ? アイツを使って、ビッグ・キャノンに先制パンチ喰らわすってのはダメですかね? 長距離から撃てば、上手くいけばビッグ・キャノンをぶっ壊せるんじゃないかな?」
「どのぐらいの距離から狙うつもりなんだ? レーダーの外の超長距離からじゃ、標的を外す可能性の方が高い。それに、ザンスバインのビーム・ファンは格闘専用の兵装なんだぞ。本来、あんな無茶な使い方は推奨出来ない。あの時は何個もの奇跡と、お前達2人の驚異的な集中力があったから出来ただけだ。そもそも格闘専用兵装で離れた的を狙うなんて、パーツにどれだけの負荷がかかるか分からん。いいか? ザンスバインのビーム・ファンはMDUの大切なパーツだ。戦闘開始直後からMDU無しでは洒落にならん」
ニコルの提案をリファリアは手をヒラヒラさせながら、あっさり却下した。
「そんな簡単に否定しないで下さいよ! いい考えだと思ったんだけどな……それかビーム・ファンじゃなくて、ダブル・バスターライフルのビームを増幅させれば……」
「どうかな? 距離が伸びる程、ビームの威力は落ちる。バスターライフルが強力なのは分かるが、流石に超長距離でビッグ・キャノンに当てても大したダメージにならんだろ。それなら、大人しく奇襲から戦闘に入った方がいい」
今度はマデアにも否定され、ニコルは子供が不貞腐れるかの様に下を向き床を蹴る。
「もぅニコル、子供みたいに……リファリアさん、マデアさん、私はニコルの意見に賛成です。ビーム・ファンが耐えれるギリギリの出力で、ビッグ・キャノン目掛けて撃つ……ビッグ・キャノンを破壊出来なくても、敵の目をこちらに集中させる事が出来る筈です。ビッグ・キャノンを破壊出来る可能性を持つ兵器を所持していると知れば、私達が少数でも無視出来ないでしょう」
「ビッグ・キャノンの護衛艦程度でも墜とせれば、やる価値はある……か? ビーム・ファンの射程を伸ばす改良は必要になる。ビーム・ファンが近接兵装として使えなくなるリスクはあるが……」
クレナの意見を考え込みながら聞いたリファリアは、壁に寄りかかり天井を見つめるマデアに視線を向けた。
「ビーム・ファンを中距離で使えば問題ない。近接はビーム・サーベルもある。まぁ……6本腕のモビルスーツと戦わない事が前提だが。とはいえ、出て来るだろうな。ズガン艦隊に突っかかれば、必ずな」
「タイタニアか……厄介な機体だ。ザンスバインと互角にやれるパワーを持っているし、何より能力の高いニュータイプが操っている。ニコルかマデアに相手をしてもらわん事には……」
アルテミス・シロッコ……
あれだけのギミックを持つモビルスーツを、コンパクトに纏めている。
それでいて、出力を犠牲にしていない。
グリプス戦役時代に活躍したジ・O……
その発展・後継機として開発予定だったタイタニア……
ジ・Oは全高28.4メートルもある……現在のモビルスーツと比べたら、とんでもなく巨大なモビルスーツだ。
タイタニアの大きさも、ジ・Oと大して変わらないだろう……しかし現在の技術を使えば、小型化する事は可能だと思う。
可能だが、難しい事は間違いない。
驚異的なのは、ザンスバインと互角に戦った隠しアームだ。
小型化して収納しているのに、強度が落ちていない。
ニュータイプであるアルテミスの動きに付いていき、更にザンスバインの攻撃にも耐えた。
その開発の舵をとっていたのが、少女という事も驚きだ。
子供っぽさも残っていたが、それだけの頭脳を持つ者が浅慮の訳がない。
「プラズマ・ブースターを使ったビーム・ファンの一撃も見られている。対策されている事も考えて行動した方が良さそうだな……」
リファリアは、まだ静かな宇宙を見つめて小さく呟いた……
「地球降下部隊の第2陣の準備、まだ出来ないの? 相変わらずタシロのM字は使えないわっ! これなら、私達が地球に行った方が早いんじゃないの?」
「そう言うな。カイラスギリーの修復も、思ったより遅れている。それにタイタニア・オーヴェロンのロールアウトも、もう少しかかるんだろ?」
焦りの見せないズガンの顔を見てクスッと笑ったアルテミスは、持っていたタブレットに指を這わせる。
「見て! タイタニア・オーヴェロンの出力バランスは安定したの! このシステムを組み込めば、最強の王が誕生する! 妖精王の力があれば、あの白いヤツに好き放題やられる事も無くなる! 木星の技術力、見せつけてやるんだから!」
「しかし、考えたな。華奢なタイタニアを隠す程の偽装装甲か……中でタイタニアと接続して、モビルスーツに乗ったまま操縦が出来る。長期戦が不得手なタイタニアの弱点を克服出来る訳だ」
タブレットの画面を見ながら、ズガンは改めてアルテミスの才能は妙々たりと思う。
「褒めたって、何も出ないよ! それにアイデア自体は、何十年も前にもやってる事よ。でも違う所は、オーヴェロンのパーツをパージした後も、残ったパーツがタイタニア・リッテンフリッカの追加パーツとして何パターンかの形態変化が出来る事。パージされた妖精王は、私達の母星……木星を護る57の命が宿る衛星の様に、娘を護る剣と盾になる!」
「メインの形態変化が4つ……そこから派生する形態もあるのか。しかし、ここまでやる必要があるのか? 無気力な連邦軍と、レジア無きリガ・ミリティア……その程度の相手、ハイアームド・レシェフとタイタニア・リッテンフリッカだけで充分だと思うが……」
はぁ……と、冷ややかな目でズガンを見たアルテミスは、美しい銀色の髪をかき上げ……決意に満ちた表情を浮かべる。
「敵は連邦とレジスタンスだけじゃない! 地球を制圧したら、今度はザンスカール帝国内に木星の力を……ズガン艦隊の力を示す必要があるのよ! 木星に住む人達の為にもね! それに、忘れてない? マデア少佐や、私を無視してくれた白いヤツ! 戦場を離れて……戦いを忘れているなんて考えられない! 必ず私達の前に現れる……その部隊も殲滅して、無敵のズガン艦隊の名を轟かせるのよ! 地球にも宇宙にも、連邦にも帝国にも……ね」
「マデアと、ガンダム・タイプのモビルスーツか……手を組んでるとも思えんが、同じ時期に気配を消している事を考えると……可能性はあると言う事か」
ズガンはアルテミスの手からタブレットを受け取ると、カイラスギリーから放たれたビームを真っ二つにした映像を再生させた。
「ザンスバインとガンダム・タイプ……この映像だけ見ると、協力している様に見える。そして、この2機の異常なまでの出力……これがミノフスキー・ドライブの力という訳か……」
「そうね。ザンスバインの力をブースターで強化したって感じだけど……それでもモビルスーツたったの2機で、静止衛星軌道上から地球を撃てる程のビームを斬り裂くなんて異常だわ。それに……レジスタンス如きが、ミノフスキー・ドライブ搭載のモビルスーツを開発出来るなんて……私だって、いずれ造ってみせる。けど今は……私のタイタニアが、ミノフスキー・ドライブ搭載型を上回っているって証明してやるんだ!」
小さな肩を小刻みに震わせるアルテミスの姿を見て、ズガンは頼もしく思う。
自分の娘ぐらいの年齢の若者が、木星の未来の為に戦ってくれている。
相手が強大であっても、怯まずに挑もうとしてくれている。
「アルテミス……お前がいてくれれば、連邦だろうがリガ・ミリティアだろうが、恐れる事はない。私とカガチが木星の人々の為に、争乱のない世界を作る。それを成した後は、お前達の時代だ。それまでの間、その力を借してもらうぞ」
震える小さな肩を軽く抱き、そして号令をだす。
エンジェル・ハイロゥの作業の一時中断と、ミリティアン・ヴァヴの……宇宙に残存するリガ・ミリティアの部隊の殲滅作戦を……