「とんでもねぇ場所に隠れてるな。まるで廃墟じゃねーか!」
「仕方ないだろ。リガ・ミリティアの戦力が隠れてる事に気付かれちゃいけないんだ。だからこそ、こんな場所がいいんだよ」
モビルスーツが1機辛うじて搭載出来る小型艇から、ガルドとエルネスティがパラオの大地に降りてきた。
「よく来てくれましたね。連邦軍の士官が作戦に参加してくれる事に、感謝します。後に続く者達に、凄く意味のある事だから……」
「艦長……我々連邦軍こそ、たいした力になれず申し訳ない。だが……この作戦を見た後に、心が奮い立つ奴は必ずいる。上の命令に抗おうが、自分の心に向き合おうとする奴らがな。そんな連中の背中さえ押せれば、未来は変わるさ……」
エルネスティの力強い言葉に、スフィアは頷く。
「それで、完成したんですか? フェニックス・ガンダム……」
「まぁ、最終調整直前の段階まではな。サイコフレームにナノスキン装甲……対ニュータイプ用のデストロイモードも搭載させた特盛モビルスーツだ。あんた達が以前使ってたアームド・アーマーだけをドッキングさせた奴とは、耐久性が段違いよ。無理矢理パーツをくっつけた未完成品では、ウチのエルネスティにまともな操縦は無理だからな」
リースティーアが最後に使ったモビルスーツ……コード不死鳥。
レジアもリースティーアも、限界ギリギリの機体で戦ってくれていた。
彼らに今のモビルスーツを託せたら……スフィアは首を振って、そんな考えを頭から消す。
「当たり前だ。あんな不安定な機体を扱えるのは、命懸けの戦場で腕を磨き続けた戦士だけさ。だが今回の戦闘では、彼らと同じような働きをしなくてはいけない。その為のフェニックス・ガンダムだ。連邦軍の連中の心に火が灯るまで、何度でも立ち上がらなきゃいけないからな」
搬入されていく純白に鮮やかな蒼で塗装された機体を横目に、エルネスティは自らの覚悟を口にした。
フェネクスを小型化した様なフォルムを持つフェニックス・ガンダムは、貴重なナノスキン装甲を使用する事で軽微な損傷であれば自己修復が可能であり、長期戦を想定している。
リースティーアがビッグ・キャノンを撃ち抜いたモビルスーツに似た機体にした理由……それは危険なモビルスーツと認識されている筈なので、無視出来ないだろうという考えもあった。
ニコル、マデア、リファリアといったパイロットと比べて、エルネスティは劣っている。
実際は分からないが、本人はそう思っていた。
それでも、彼らの様に戦えなくては意味がない。
それに元々フェネクスは連邦軍にデータが残っている機体であり、またアームド・アーマーもリースティーア機の予備パーツがあった為、新規開発するよりはコストを抑えられるメリットがあった。
その分、性能面にコストをかけられた訳である。
「フェネクスか……否が応にも、思い出させてくれるな。そして非道な傭兵にを雇い、卑怯な方法でリースティーアを討ったザンスカールを許せぬと思い返させてくれる。閃光の二つ名を体現させてくれるモビルスーツ、期待させてもらおう」
「リファリアさんですね? コイツの最終調整、ガルドと一緒にお願いします。モビルスーツの性能を限界の更に1段階上げるという貴方の腕、楽しみにしていました」
仮面の姿に躊躇する素振りもなく、エルネスティはリファリアに握手を求める。
「出来る限りやってみるさ。我々の戦力アップになるなら、何でもな。向こうの機体も、目処が付いたとこだ……」
エルネスティと握手したリファリアの視線の先には、大型のモビルスーツがロールアウトしようとしていた。
「アステーラ、無理はするなよ! 昔の機体とは、システムも操作方法も違うんだ! しかも、リファリアが無茶な改造をしやがったからな……チャフを撒いている宙域からは出ないように、注意しろ!」
「大丈夫ですよ、マスター。この子となら……きっとやれる。マグナ・マーレイ・トリプルシックス、でまーす!」
パラオから飛び出した黒の塊……モビルスーツを覆い隠す程の大型バインダーを6基も装備したマグナ・マーレイ。
クシャトリヤのサイドバインダーにリファリアが更なる改良と小型化を行い、ファンネルコンテナやメガ粒子砲といった兵装を装備しつつ、AMBACユニットやフレキシブルスラスターを搭載する多機能ユニットである。
それが6基もマグナ・マーレイに取り付けられた。
プロペラントタンクも備える大型バインダーは、その防御力も相まって長時間の戦闘が可能となっている。
更に各バインダーに手持ち用の兵装も隠されており、バインダーをパージした後もマグナ・マーレイ単体での戦闘も可能だ。
強化人間であるアステーラの順応力は凄まじく、直ぐにマグナ・マーレイとトリプル・バインダーを使いこなしてみせる。
「いけーっ! ファンネル達!」
バインダーを蝶々の様に広げ、36基のファンネルが飛び立ち、ファンネルから放たれたペイント弾が、目標に次々と色を付けていく。
「あの量のファンネルを操るって……どーなってんの? 強化人間ってのは、こんなに凄いのかよ!」
「強化人間って言い方はよせ! 少なくとも、アステーラの前では言うなよ。なりたくてなった訳じゃない。それに、あれはアステーラの力だ。強化人間の力じゃない。だが……」
ニコルを注意したマデアは、そのままモビルスーツ・デッキに行きザンスバインのコクピットに収まる。
「あんな事をしていたら、頭が先にやられちまう! ザンスバイン、出すぞ!」
「マスターが出てきた! 模擬戦でもやるの?」
ファンネルがザンスバインに目標を変え、ペイント弾を発射した。
「チャフのおかげで通信出来ない! お肌の触れ合い回線じゃなければ……このファンネルの森を越えるしかない!」
ペイント弾が降り注ぐ中、ザンスバインのミノフスキー・ドライブが唸る。
紅い光が翼になった、その瞬間……
ザンスバインはペイント弾に被弾する事もなく、マグナ・マーレイの懐に入っていた。
「はや……い……」
回避行動をしようとするマグナ・マーレイのバインダーを、ザンスバインの腕が掴む。
「アステーラ! 無茶な事をするなら、マグナ・マーレイから下りてもらうぞ! 過去のお前のマスターの方針は知らんが、今……オレをマスターと呼んでくれるなら、無理をする事は許さん! ファンネルの数だって、長期戦になっても大丈夫なように多く積んでいるだけだ! 同時に使えば、データのフィードバックで脳が破壊される! そんな事、誰も望んちゃしない!」
「えっ……でも……でも……」
アステーラの瞳から、何故か涙が込み上がる。
戦う時は、いつも全力……
今までは、ずっとそうしてきた。
でも、怒られた。
それでも……今まで自分に向けられてきた怒りと、何か違う……
その怒鳴り声に、温かみを感じる。
「アステーラ、大丈夫だ。もう少しだが、時間はある。今、分からなければ覚えればいい。君の姉妹達が君の為にした……次に繋げる為の戦いというヤツを……」
マデアの言葉に、アステーラはマグナ・マーレイのコクピットの中で頷いていた……