機動戦士ガンダム ダブルバード   作:くろぷり

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最終決戦3

「アステーラ、それ持ってきて!」

 

「はい……スフィアさん、ちょっとだけ待って下さい」

 

 アステーラと呼ばれた少女は、ミリティアン・ヴァヴのブリッジの中で右往左往していた。

 

 アステーラ・ハウ……マデアが託されたプルタイプのクローンに名付けた名前である。

 

 名前はプルでいいと伝えたが、クレナは強く首を横に振った。

 

 名前は、とても大切なモノだと……自分たちが物ではない証拠だからと……

 

 そこで考えたのが、ギリシャ語で星という意味を持つ名前……アステーラが、自ら希望した名前でもある。

 

 意識が回復し、次第に記憶もハッキリしてきて、そして全てを思い出した。

 

 マスターであるグレミーは既に亡く、姉妹達も宇宙に散ってしまった事。

 

 オリジナル・プルと共に戦ったジュドー・アーシタとルー・ルカに助けられた事。

 

 悲しみの中で、悲しみを忘れるためにコールド・スリープに入った事……

 

 そして目覚めた場所に、ジュドーもルーもいない。

 

 それでも、アステーラにとって居心地がよく感じていた。

 

 強化人間の事も、クローンの事も理解してくれている。

 

 何より、マスターと呼ぶに相応しいニュータイプもいる。

 

 モビルスーツから流れてくる嗅ぎ慣れた機械と油の入り混じった匂いと、クルー達の熱気。

 

 姉妹達と乗艦していたサンドラに空気感が似ている戦艦、ミリティアン・ヴァヴ……

 

 アステーラは様々な部品の入った籠を持ったまま、窓の外の宇宙に視線を移す。

 

 とても静かで、とても穏やか……

 

 常に戦場に身を置いていたアステーラにとっては、戦争の準備をしている状況ですら、穏やかに感じていた。

 

「ちょっとアステーラ! 早く持ってきてよ! こっちは艦長なのに、修理を手伝ってるんだから……」

 

「ごめんなさい! 直ぐに行きますね!」

 

 ボヤいているスフィアの元に、アステーラは小走りで向かう。

 

「艦長、楽しくやりましょうよ! 戦争しているよりも、ずっといいじゃないですか! 戦争の為の準備だとしても、戦場にいるより、ずっといいです」

 

 アステーラの肩口からニュッと顔をだしたニーナが、笑顔でスフィアを見る。

 

「はいはい、ごめんなさいね。確かに人を傷つけるより、はるかにマシだわ……」

 

「そうですよ! それに、何でも楽しまなきゃ! 生きているって時間は、とても素敵な時なんだから!」

 

 そんな2人のやり取りを見て、アステーラは不思議そうな表情をつくった。

 

「どうしたの? 何か可笑しい?」

 

「皆さん、戦争をされているんですよね? どうして戦う事を否定されているのかなって……」

 

 首を傾げるアステーラに、スフィアは柔らかな笑みを浮かべて優しく抱きしめる。

 

「アステーラ……戦争を好きになっちゃいけないんだよ。違うね……人を傷つける事を好きになっちゃ駄目なんだよ。私達だって、戦わなくていいなら戦いたくない。でも戦わないと、多くの人が苦しむ世界になる未来が見えるから戦っているだけ。アステーラも私達と戦ってくれるなら、戦争を……人を傷つける行為を好きにならないでね……」

 

 不思議そうな表情のまま、アステーラは頷いた。

 

 よく分からないが、なんとなくは分かる。

 

 姉妹達が死んだ時の悲しみ……繰り返したくはないし、同じ思いはしたくない。

 

 だけど、守る為には戦わないと‥……

 

「アステーラ、マデアさんとリファリアさんがモビルスーツ・デッキで呼んでるって。行ける?」

 

「あ……はい。スフィアさん、大丈夫ですよ。皆さんが危険にならないように、精一杯戦いますから!」

 

 ニーナに軽く手を振ると、アステーラはブリッジを出て行く。 

 

「艦長の想い、あまり伝わらなっかたみたいですね」

 

「そんな事ないと思うわ。必ず伝わっている。ひょっとしたら、アステーラが私達の想いを受け継いでくれる存在なのかもね……」

 

 スフィアは、アステーラが出ていった通路を少しの間眺めていた……

 

 

「アステーラ、忙しい時にスマンな……ちょっと、このモビルスーツを見てもらいたいんだ」

 

「マスター、そんな……気にしないで、いつでも呼んで下さい。それでモビルスーツって……これですか?」

 

 アステーラの見上げた視線の先に、黒い見慣れたモビルスーツがある。

 

 サイズは、かなり小さくなってはいるが……

 

「キュベレイ? なんですか?」

 

「いや、マグナ・マーレイだ。キュベレイの設計思想に基づいて開発されたモビルスーツだから、外装は似ているが……」

 

 マデアの横に立っている仮面の男……リファリアが、マグナ・マーレイと呼ばれるモビルスーツの説明を始める。

 

「このモビルスーツ……乗ってみてもいいですか?」

 

「アステーラ、無理に戦わなくていい。これは俺たちの戦争だ。平和に生きる手段だってあるんだぞ」

 

 飛び上がろうとするアステーラの肩を、マデアは掴んで動きを制した。

 

「マスターは戦っているんですよね? なら、マスターの為に戦います」

 

「そうじゃなくて……だなぁ……」

 

 マデアは助けを求めるようにリファリアを見る。

 

「キュベレイより操作は複雑だ。それと、この基地にはトゥエルブが使っていたモビルスーツの部品も残っている。そのパーツを使って、モデファイしてみようと思う。より複雑になるかもしれんが、アステーラなら問題ないだろう」

 

「リファリア! 違うだろ! そういう事を聞いてるんじゃない!」

 

 静かな口調と激しい口調が飛び交う不思議な空間に、アステーラは思わず笑ってしまう。 

 

「マスター、私は大丈夫です。私が生かされて、ここで目覚めた事に意味があるって……何だか、そんな感じがするんです。だから、私も……」

 

 アステーラは、もう一度マグナ・マーレイを見つめる。

 

 黒いキュベレイ……アステーラは、運命的なモノを感じずにはいられなかった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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