機動戦士ガンダム ダブルバード   作:くろぷり

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最終決戦2

「ここは……どこ?」

 

 円柱形の容器から出された一糸纏わぬ少女は、クレナの手によって医務室のベッドに運ばれていた。

 

 目が覚めた少女は、辺りを見回す。

 

 無機質な病室……なんとなくは見覚えがある。

 

 こんな場所で生活をしていた……そんな、朧気な記憶。

 

「目、覚めましたか? 良かった。ごめんなさいね……私も貴女と同じ身体なのに、あまり知識が無くて……」

 

 目の前に座った物腰の柔らかい女性は、穏やかな笑顔を私に向けてくる。

 

「グレミー……様……は?」

 

「グレミー? 貴女のマスターの名前かしら? 貴女が生まれた時期が分からないのだけれど……コールドスリープされて随分と年月が経っているから、探すのは難しいんじゃないかしら。もう亡くなっている可能性も……」

 

 申し訳なさそうに声を出す女性の言葉を聞いているうちに、記憶が少しづつ戻ってきた。

 

 反乱軍としてネオ・ジオン軍のゲーマルクと戦闘して……そして……

 

 その戦闘の映像が脳内にフラッシュバックして、私は思わず頭を抱えた。

 

 大切だった姉妹が、次々とゲーマルクに撃ち墜とされていく……

 

 私も、墜とされた。

 

 偶然にも反応した脱出ポッドが、私を戦闘宙域から離脱させる。

 

 そして無情に放たれたメガ粒子砲が、私達の愛機キュベレイを消し去っていく。

 

 私は何も出来ず、漂うしかない脱出ポッドの中でモニターに拳を打ちつけていた。

 

「どこか痛みますか? 起きたばかりなのだから、無理はしないで下さいね」

 

 心配して私の顔を覗き込んでくる女性の顔を見て、その時に頬を流れる雫に気付く。

 

 静かに……しかし確実に、瞳から流れ落ちる雫は多くなっていた。

 

「私は……私だけが、助かったの?」

 

「そうでもない……もう1人いたようだぞ。映像が残っていた。ここの住人にとって、大切な人だったのかな? このメモリーも、厳重に保管されていた」

 

 部屋に入ってきた銀色の仮面を被った男が、映像端子にメモリー・スティックを突き刺す。

 

 少しの静寂の後、画面に表示される荒い画像。

 

 劣化もしているのであろう……所々、音声や映像が抜け落ちたりする。

 

「トゥエルブ……なの?」

 

 大人びた顔立ち、落ち着いた表情……自分の知っているトゥエルブじゃない。

 

 でも、間違える筈がない……同じ身体の構造を持つクローン同士なのだから。

 

 映像の古さが、とてつもなく長い時間の流れを嫌でも感じさせてくる。

 

「50年以上も過去の映像だ。マリーダ……と呼ばれているようだな。私は見ても分からなかったが、彼女には分かったらしい。貴女と同じクローンだ。だから分かったのかもしれないが……」

 

「貴女が目覚めるまでの間、少しでも情報が欲しくて……ここのデータベースでプル・シリーズを検索したら、直ぐに彼女がヒットしたわ。ごめんなさい……こんな映像を見せられても混乱すると思うし、辛い過去を思い出してしまうかもしれない。でも……今の貴女が、今の状況に向き合う為に必要な事だと思ったの」

 

 差し出されたハンカチを、私は受け取った。

 

 目の前の女性から、敵意は感じない。

 

 敵だったとしても、何も出来ない……そんな風に、諦めていたのもあるし、何より涙が止まらなかった。

 

 借りたハンカチで涙を拭くと、少しだけ心が落ち着いていくように感じる。

 

「トゥエルブは……生きてた。幸せに……生きれたのかな……」

 

「ここの廃墟っぷりを見ると、分からないがな……50年も前の話だ。だが……この映像を撮られた瞬間は、少なくとも幸せだった筈だ。この後に悲劇があったのか、希望があったのか……それは分からんが、幸せ時間があった……それは間違いない」

 

 無機質で感情の篭もっていない声の中に、温かさと優しさを感じた。

 

 グレミー様……マスターはいない。

 

 それでも、トゥエルブは幸せに見えた。

 

 そう……生きれるのかな? 

 

 瞳を閉じると、11人の姉妹の顔が鮮明に思い出される。

 

 許してくれる? 

 

 生き延びてしまった私の事を……

 

「私はね……同じ顔をした姉妹を何人も殺してしまった……心を操られて、大切な人を殺してしまった……でもね、それでも生きてる。その人の想いも背負っているから……そして、私を生かす為に犠牲になってしまった人に、幸せな人生を送れました……ありがとうって伝えたいから。そうじゃなきゃ、申し訳がない……」

 

 あの時……脱出ポッドが射出された時……

 

 なんで皆、メガ粒子砲に焼かれたのだろう……

 

 全員じゃなくても、何人かは回避出来た筈なのに……

 

 そうか……

 

 止まった筈の涙の雫が、また流れていく。

 

 私も、生かされたのかな? 

 

 生きていいよって、言ってくれていたのかな? 

 

 目の前の女性は、私を静かに抱き寄せる。

 

 その柔らかい胸の中で、私は声を上げて泣いていた。

 

 止まらない涙で服を濡らしながら、その女性はゆっくり私の髪の毛を撫でてくれる。

 

 人の温もりの中で、私はこの人達と歩んで行こうと決めた。

 

 強化人間だと分かっているのに、人として向き合ってくれる……

 

 今まで気にもしていなかった筈なのに、私は何故かとても大切な事に思っていた……

 


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