機動戦士ガンダム ダブルバード   作:くろぷり

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ラゲーン侵攻30

 

「隊長! 後方にモビルスーツ! 一体、どこから湧いて来やがった!」

 

「落ち着け……今の我々に刃向かって来る奴なんざ、連邦のハグレ者かリガ・ミリティアの雑魚だけだ。レジアのいないレジスタンスなど、もはや烏合の衆……いつも通り、演習のつもりで迎え撃て」

 

 ゾロ6機で構成されるベスパのモビルスーツ小隊は、明らかに緩慢な動きで合体を開始し、ガンイージを迎え撃とうとした。

 

 センサーに引っ掛かっているモビルスーツは2機……連戦連勝中のベスパの部隊にとって、油断する事は仕方の無い事である。

 

 しかし、その油断が仇となった。

 

 2本の閃光が、合体しモビルスーツ形態となった直後のゾロのコクピットに吸い込まれ……貫く。

 

 時間が止まり……コクピットを貫かれたゾロだけが、ゆっくりと機体を「くの字」に曲げて……糸の切れた操り人形の様に力を失って墜落した。

 

「なんだと!」

 

 ベスパの小隊長は、状況を把握しようとモニターに視線を泳がせる。

 

 目が泳いでいる……ピンポイントによる射撃は、油断していたベスパのパイロットをパニックにさせるのに充分であった。

 

「油断している今がチャンスだ! ペギー、一気に畳み掛けるよ!」

 

「了解! 姉さん、接近戦を仕掛ける! 援護頼みます!」

 

 ペギーのガンイージが、小隊の端にいるゾロ目掛けて森の中から飛び出しす。

 

「なっ……下からだと!」

 

「遅いんだよ!」

 

 無駄の無い動きでゾロのコクピットにビームサーベルを突き刺すペギーのガンイージ。

 

 ゾロはビームローターを装備する左腕を掲げながら、プロペラの様に回るビームローターを上に向けないと飛行出来ない。

 

 盾として機能するビームローターを、地上では使えない……寧ろ左腕が使えなくなる分、戦闘では不利になる。

 

 もちろんミノフスキー・フライトの様に浮ける為、制空権を奪える事を考えるとメリットは大きい。

 

 しかし、パイロットの力量に大きな差がある場合……その差は致命的になる。

 

 突然飛び出して来たガンイージに対し、ビームライフルで対応するかビームサーベルで対応するか躊躇したぺスパのパイロットは、最終的にビームサーベルで対応しようとした。

 

 ビームライフルを手放し、ビームサーベルを手にした……その瞬間、ベスパのパイロットは光に飲み込まれていく。

 

 片手でしか対応出来ない為、どうしても手数が多くなってしまう。

 

 その間に距離を詰めて、ビームサーベルを突き刺すなど、ベギーにとっては造作も無い事である。

 

「ミノフスキー・フライトも積んでも無いモビルスーツが、ノコノコ飛んできやがって……仲間の敵をとらせてもらう!」

 

 そう、ガンイージは上空で動き回れる様には出来ていない。

 

 空では多少の方向転換は出来るが、飛び上がればそのまま落ちるしかないのだ。

 

 落ちている間は、敵の格好の的になる。

 

 が……

 

 ペギーのガンイージは左肩から2連マルチランチャーを射出し、そのままビームシールドを展開する。

 

「ランチャーなんぞに当たるかよ! 墜ちろよ、バッタ野郎! なっ……うわぁぁぁぁ!」

 

 ランチャーをビームで破壊したゾロのコクピットに、ビームが吸い込まれた。

 

「ゲリラ組織は、アンタらみたいにポイポイ捨てられないからね……武器は、いつでも使えるようになってるのさ!」

 

 ペギーのガンイージは、右手にビームサーベル、左腕にビームシールド……そして、右足のハードポイントにビームライフルが取り付けてある。

 

 そのビームライフルから、ビームを放ったのだ。

 

 ペギー機に銃口を向けていたゾロも、ジュンコの援護射撃に倒れる。

 

「あと2機だ。このまま牽制射撃しながら、関係無い方向に誘導するよ!」

 

「カミオン隊の方には、マヘリアとヘレンが合流してくれたみたいです。これで、敵さんをしっかり誘導できますね」

 

 ジュンコとペギーは、森の中からビームを放ち、ゾロを基地の無い方向に誘導していく。

 

 今は、これでいい。

 

 ヴィクトリーの生産を整える事だけを考える……それしか出来ない。

 

 大規模な地球降下作戦が行われてしまえば、主要な基地は破壊されてしまうだろう。

 

 だからこその、小規模な基地……その存在は気付かれてはいけない。

 

「ウーイッグの基地は残すんでしょ? 誰が残るんですか?」

 

「ペギー……マーベットを残す事にしたわ。多少の防衛はしないと、他の基地の存在を気付かれてしまうかもしれない。でも、ニコル達がやってくれるさ。半数でも削ってくれれば、やりようはある」

 

 ある程度の場所まで敵を誘導し、森の中でゾロを撒いたジュンコは、無意識に空を仰ぎ見た。

 

 ザンスカールの地球降下作戦が行われた後は、おそらくウーイッグが戦場になるだろう。

 

 ウーイッグ近郊に、リガ・ミリティアの基地がある事はザンスカール帝国に知られている。

 

 そもそも、地球に住む事を許された連邦軍の高官や政治家の住む特別区だ。

 

 狙い撃ちにされる事は間違いない。

 

 だが……ウーイッグで抵抗しなければ、小規模基地の存在に気付かれてしまうかもしれない。

 

 ウーイッグにも、ある程度の機密と部隊を残しておく必要がある。

 

「残される者は、無謀な戦いをしなくてはいけない。残された者に希望を託して……託せるからこそ、戦えるのかもしれないな。私達は……」

 

 小さく呟いたジュンコの言葉は、何故かペギーの心に深く刻まれる事になった……


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