機動戦士ガンダム ダブルバード   作:くろぷり

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ラゲーン侵攻24

 

「で……艦長、これからどうすんの? 宇宙細菌を取り戻すのか、地球侵攻を阻止すんのか、ケネスさんの仕事を手伝うのか……」

 

「まずは、宇宙細菌を取り戻します。いえ……取り戻す必要は無いわ。傭兵部隊の手から離れれば、それでいいでしょう。それに、細菌を強奪した時の傭兵部隊の中心にいた人物……ナイトハルト・エバンスで間違いない。そうですね?」

 

 スフィアは確認の為にリファリアを見て、その視線を感じてリファリアは頷く。

 

「間違いないな。傭兵部隊のリーダーは、ナイトハルト・エバンスだ。リースティーアを卑劣な作戦で殺した男……個人的な恨みで悪いが、私は奴を討つ為に動かせてもらう」

 

「個人的な恨み? この艦のクルー全ての人の恨みの間違いじゃないの? そのエバンスって野郎がリースティーアさんを殺ったってんなら、オレもリファリアさんに付いて行くぜ!」

 

 ニコルは、リースティーアが墜とされたところを見た訳ではない。

 

 味方を犠牲にする事によるサイコミュでの攻撃……更にジュンコを人質にされた状態で戦い、最終的にはエバンスにボロボロにされた機体でビッグ・キャノンのエネルギー供給ユニットを破壊した事で、機体が爆発してしまった……

 

 その顛末を聞いた時、ニコルは怒りを抑えきれなかった事を思い出す。

 

 そして、それは……今、思い出しても同じであった。

 

 正々堂々戦って敗れて亡くなったのであれば、仕方ないとも思う。

 

 しかし……

 

「そうですね。私も、エバンスだけは許せません。サナリィの時からの因縁、今回で決着をつけてみせます。艦長、私にも出撃許可を頂けますか?」

 

「もちろん、いいですよね? 私達全員、リースティーアさんの敵を討ちたいと思ってます! なんなら、宇宙細菌をエバンスって人の口の中に突っ込んじゃいましょうよ!」

 

 普段は大人しいクレナとニーナも、珍しく目を吊り上げて怒りに身を奮わせている。

 

「そうね……私達は戦争をやっている。殺されても文句は言えない。でも、人質をとって……卑劣な手段でリースティーアを討った男を許せる程、私もできた人間じゃないわ。だから追います……宇宙細菌というより、仲間の敵を取る為に!」

 

 スフィアの宣言に、ニコルとクレナ、それにニーナも力強く頷く。

 

「感情で動く連中ばかりだな……帝国が地球侵攻を行おうとしている今、大局的に状況を見る事が必要だが、それが出来ていない。だが……」

 

「その通りだ少佐。物事を大局的に見るのは、大人や上に立っている人間がやればいい。局所的な動きが信用出来ない人間と、大きな事は成し遂げられない。その点では、彼らは好感が持てるよ。少なくとも、私はね……」

 

 マデアの言いたい事を予測し、ケネスは言葉を続けた。

 

「そうだな……しかし、時間が無い事も事実だ。オレとザンスバインも使ってくれていい。悪いが、早急に敵を討ちを終わらせてくれ」

 

「回り道に見えても、蟠りを持ちながら進むより、懸念事項を消してから進んだ方が早くなる事もある。集団で動いている時は、特にな……それに短い時間だが、チームとして成熟しなければ帝国の地球侵攻に楔を打つ事など出来やしない。必要な事さ……」

 

 ケネスは信じた……局所的な繋がりが、いずれ大きな波となる事を……

 

 

「トライバード・バスター……良い機体だな。レジアくんの専用機になると聞いていたが、なる程な……」

 

「オーティスさん……バスターの調整、手伝ってくれていたんですか? ありがとうございます」

 

 コンデンサの調整をしていたオーティスは、クレナの声を聞いて頭を出した。

 

「なに、電気系統を少し見ていただけだよ。しかし、トライバード・バスター……愛情を込めて造られた事が良く分かる。これを組んだメカニック達の丁寧な仕事……忙しい最中ここまで丁寧に組むなんざ、よほどじゃない限り出来ない。これなら、高出力のビームも安定して撃てるだろう」

 

「はい、操縦していても感じます。この機体の安定感……きっと多くの人達が、レジアさんの為に大切に造った物なんだなって……それを、私なんかが……」

 

 俯いたクレナに、オーティスは首を横に振る。

 

「何を言っているのか……そもそも、本当にレジアくんの為に造った機体なのかねぇ? 一度だけ、彼の使っていたジャベリンを調整した事があるが、彼の場合は少しぐらい遊びを残してあげた方がいいんだ。機体の不安定な部分も武器にして戦えてしまう……それがレジアくんの強さだった。リガ・ミリティアの機体を整備しているメカニックなら、そんな事は分かっている筈だ」

 

「なら、この機体は誰の為に? でも、レジアさんのアサルトは限界だった……バスターがレジアさんのでなければ、乗るモビルスーツが無くなってしまいます。まさか、ガンイージを使えって事もないでしょうし……」

 

 オーティスは整備士用のベンチに腰をかけると、トライバード・バスターを見上げた。

 

「私は一度しかレジアくんと会った事はないが、彼は限界だからと言って自分のモビルスーツを放棄する様な男じゃなかった気がする。限界な機体の限界を見極めて戦える男だ。それに、新型のミノフスキー・ドライブ搭載のコクピット・ユニットは2つ開発されているらしい。ニュータイプの感覚的な操縦に対応出来るコクピット……そして、オールドタイプの理論的な操縦に対応出来るコクピット……間違いなく、ニコルくんとレジアくんの為に開発が始まったのだろう。だとすれば、彼は繋ぎでモビルスーツを乗り換える様な事はしないと思うんだ……」

 

「なら……まさか、バスターは……」

 

「安定した射撃、パワー・コントロールの負担を軽くするような調整……明らかに、射撃が得意なパイロットの為に組まれている。おそらく、長距離射撃のサポートでレジアくんの負担を軽くする為に……な」

 

 オーティスの考察は、おそらく正しいのだろう。

 

 クレナも静かにトライバード・バスターを見上げる。

 

 トライバード・バスターを受け取った時……始めてメガ・ビームキャノンを撃った時、確かに私はリースティーアさんの名前を口にした。

 

 無意識に口にした……でも、きっとそうなのだろう……

 

 意識した瞬間、クレナは凄まじい程のプレッシャーを感じた。

 

「気負う事はないさ……リースティーアって人が凄腕のパイロットだったとしても……これだけのモビルスーツを託される程の人物だったとしても、その人の思いを背負って戦っている人達の艦に配備され、その人達に託されたパイロットが貴女なのでしょう? コイツを組んだエンジニアも、コイツも不満は無い筈だ」

 

「そうでしょうか……でも、そう考えてしまう事自体が失礼だって事は分かります」

 

 クレナは一瞬オーティスを見て……そして、再びトライバード・バスターを見詰める。

 

「だからこそ、一緒に討ちましょう……私の大切な仲間を……そして、あなたの主になるべき人を殺した人を……私に力を貸してね、バスター……」

 

 クレナは、なぜだかトライバード・バスターが頷いてくれた様に見え……そして、少しだけ微笑んだ……

 


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