機動戦士ガンダム ダブルバード   作:くろぷり

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ラゲーン侵攻22

「敵部隊が艦内に入り込みました! 狙いは恐らく……宇宙細菌でしょう! 艦長、どうします?」

 

 宇宙海賊との戦闘中、トライバード・バスターを射出したミリティアン・ヴァヴは、一時的に無防備になった。

 

 更に、宇宙海賊がトライバード・バスターを搭載したポッドを狙った為に、ダブルバード・ガンダムとマグナ・マーレイ・ツヴァイが艦を離れていた。

 

 その隙に、どこに隠れていたのか分からない部隊がスーっと現れ、ミリティアン・ヴァヴの装甲を破壊する。

 

 まるで、狙い澄ましたかの様に……

 

「奴らの狙いが何にしても、ブリッジに向かって来るなら、白兵戦を仕掛けるしかない! 戦闘要員をブリッジ前に集めろ! ここを死守しなければ、地球に降りたシュラク隊や、外で戦っているニコルやリファリアに顔向け出来なくなるぞ!」

 

「了解……ですが、例の宇宙細菌が狙いならば……ただ奪われるだけになりますよ!」

 

 ミリティアン・ヴァヴを操船しながら、マッシュが叫ぶ。

 

「くそっ……どこの部隊か分かれば! いや……あの機体、リグ・ラングか? ならば、敵はリースティーアを殺った連中か?」

 

「そうですね。リグ・ラングは、基本傭兵部隊に与えられる機体だと聞いています。リースティーアさんを倒した人達かは分かりませんが、傭兵である事に間違いはないと思います!」

 

 ニーナの返答に、艦長のスフィアは頷きながら考える。

 

「相手が傭兵ならば、宇宙細菌はくれてやれ! 最短で宇宙細菌を握らせれば、白兵戦などしない筈だ! 戦闘中に間違って艦内に細菌が撒かれ、防護服が傷つけば奴らも死ぬ。傭兵が、そんなリスクを冒す事はないだろう。そもそも、細菌を無事に持ち帰らなくては意味がない!」

 

「ですが、宇宙細菌を傭兵に奪われます! 帝国の連中ですら、機密にしている細菌です。そんな物が、傭兵の手に渡ったら……」

 

 マッシュの大きな声を聞きながら、スフィアは無言でモニターに目を移した。

 

 白き閃光が宇宙海賊のモビルスーツを次々と破壊し、黒き蝶が戦場を舞う。

 

 その後方からは、皆で守り通したトライバード・バスター……

 

 そして、異変を感じミリティアン・ヴァヴに猛スピードで戻って来るダブルバード……

 

「マッシュ……危険かもしれないけど、私はクルーの命も守りたい。それに、信じているのです。奇跡が起こせるパイロット達を……ニーナ、侵入した傭兵共を宇宙細菌の保管庫まで案内して差し上げて! クルー達は、傭兵達に近付かないように通達!」

 

 スフィアの命令を聞く間でもなく、ニーナはミリティアン・ヴァヴの内部の扉を操作して、傭兵達を宇宙細菌の保管庫に誘導していく。

 

「ダブルバード、本艦に到達します! 傭兵部隊の足を止めれるタイミングですが……どうしますか?」

 

 扉の操作をしながらモニターを確認したニーナが、声を上げる。

 

「ニコルに、傭兵部隊のリグ・ラングを撃たないように通達して! 傭兵部隊を刺激すれば、余計な血が流れてしまう可能性がある。傭兵部隊が本艦を離れたら直ぐに追えるように、宇宙海賊の部隊を潰します!」

 

 艦長スフィアからの指示を聞いたニコルは、ミリティアン・ヴァヴに張り付いたリグ・ラングと小型艇に気付かないフリをして宇宙海賊に照準を合わせた。

 

「艦長、信じますよ! 宇宙細菌も、心を奪う行為も、宇宙から地上を焼くビームも……どれも使わせる訳にはいかない! だから戦うんだ! オレ達は!」 

 

 ニコルの声に応えたエボリューション・ファンネルが、宇宙海賊のモビルスーツ達を貫いていく。

 

「ニコル、ザンスバインとトライバード・バスターが敵部隊を分断してくれている。後はミリティアン・ヴァヴを狙っている奴らを墜とせば終わりだ。一気に蹴散らすぞ」

 

 マグナ・マーレイ・ツヴァイも宇宙海賊の攻撃を難無く躱し、的確にビームを当てて数を減らす。

 

 撃ち漏らした敵は、トライバード・バスターから放たれたビームがピンポイントで狙い撃つ。

 

「しかし……大したモノだな。射撃精度は、リースティーアにも負けていない。この面子なら、やれるかもしれん……我々の、最後の悪あがきがな……」

 

 リファリアは呟く……戦場で光っては消える命の灯を見ながら……自分達の行動が正しいと信じて……

 

 

「エバンス隊長、こりゃ罠じゃねぇですか? こんな簡単に、ブツに辿り着ける訳がねぇ!」

 

「どうかな? ここの連中も、そのブツを手放したいだけかも知れんぞ? 帝国の連中にとっちゃ大事な物でも、ここの連中には大した物じゃない可能性もあるしな」

 

 エバンスは仲間に持たせている金属容器を見ながら、とにかく傷つかないように注意していた。

 

 強奪しに来た物が宇宙細菌である事は、エバンスしか知らない。

 

 そして、伝える気もなかった。

 

 このまま帝国に持って帰って報酬を得るか、他に売るか……

 

 間違いなく、売ってしまった方が金にはなる。

 

 だが、部隊の中には帝国の息のかかった奴が確実にいるだろう。

 

 全員消して儲けを独り占めすれば、一生豪遊しても使いきれない程の金が手に入る。

 

 エバンスの考えは、少しずつ固まっていった……

 

 


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