機動戦士ガンダム ダブルバード   作:くろぷり

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ラゲーン侵攻21

「何やってんだ、アンタ! ミサイルを……バスターを追ってどうすんだ? それに、その加速は……」

 

 ファンネル・ミサイルを放ったダブルバード・ガンダムの目の前を高速で走り去る悪魔のようなガンダム……

 

 図太いボディに異形の顔……

 

 タブルバードを見た目は緑に光り、何か物悲しさを感じる。

 

 正義に目覚め、正しい事を成す為に覚悟を決めた瞳。

 

 一瞬で流れて行ったその光は、ニコルにクスィー・ガンダムの……ケネスの覚悟を伝えるのに充分だった。

 

 トライバード・バスターを守るミサイルに次々に放たれるビームの雨……

 

 その雨の中に、クスィー・ガンダムはその身を晒す。

 

 電子ジャマーをパージした下から現れたブースターに灯を入れ、更に加速するクスィー・ガンダム。

 

 ミサイルが破壊される度に、ミサイルに組み込まれたチャフが宇宙空間にばら撒かれ、爆発とビームの光を取り込み、一つ一つが光を纏う。

 

 その光の中に身を委ねるクスィー・ガンダムに、軌道を乱されたビームが吸い込まれていく。

 

 ビームを放つ海賊のモビルスーツの腕を斬り裂くダブルバード・ガンダム……そのコクピットで、ニコルは唇を噛んでいた。

 

 何が正しいのか……

 

 自分は何をやっているのか……

 

 仲間の命が危ない時でも、敵の命を奪う事を拒んでいる。

 

「本当に……これでいいのかよ! ゲルダさん! シャクティさん! レジア!」

 

 叫ばずにはいられなかった……そして、叫ばなくても分かっている。

 

 ただ思想が違うだけ……ただ生まれた場所が違うだけ……ただ影響を受けた人が違うだけ……ただ守りたい人がいるだけ……

 

 もし銃口を向けている相手が、学校のクラスメイトなら仲良くなれている人かもしれない。

 

 今、殺そうとしている人が恋人になっていた人かもしれない。

 

 ただ今は……ただ敵なだけなのだ。

 

 ニコルの気持ちに、エボリューション・ファンネルが応える。

 

 ビームの射線上にいるクスィー・ガンダムを守るように、エボリューション・ファンネルがIフィールドを展開した。

 

 ダブルバード・ガンダムとマグナ・マーレイ・ツヴァイが艦を護りながらモビルスーツを減らし、Iフィールドがビームを弾いても、横に広がりながら放たれるビームはクスィー・ガンダムの装甲を焼き、トライバード・バスターを守るミサイルは減っていく。

 

「くそっ! 早く……早く、届けっ!」

 

 ミサイルが剥がされて、トライバード・バスターを乗せるポッドが剥き出しになる。

 

 そこに、ビームが吸い込まれていく……

 

 ドオオオオォォォォン! 

 

 一際は大きい爆発が起き、ビームが止む……しかし、ポッドは前に進み続ける。

 

「良くやったニコル! 後少し……もってくれ、クスィー!」

 

 ビームを受け続けたクスィー・ガンダムのビーム・バリアーは、出力が低下してきていた。

 

 加速に耐えながら、後方から放たれるビームの的になるように操縦していたケネスの集中力も切れかけている。

 

「だが……ようやく好きに生きれるようになったんだ! 自慢の友人に顔向け出来る程度にはっ!」

 

 再びビームの雨に晒されるクスィー・ガンダム……ケネスは、最後のファンネル・ミサイルの位置を確認した。

 

 鳴り響く警告音……揺れるコクピット……

 

「私は……まだ死ぬ訳にはいかんのだ……だが、彼も同じ気持ちだった筈だ! 背負ってみせる! 私だって……」

 

 ビームがクスィー・ガンダムの左腕を奪っていった。

 

 爆発の振動に、ケネスは歯を食いしばって堪える。

 

「こんなのは、絶望でも何でもない! 私には、思いを託せる人達がいる! 彼の絶望と希望を知っている私が、こんな事で止まると思わない事だ!」

 

 赤く点滅するモニターが、大きな衝撃で揺れる。

 

 クスィー・ガンダムのバーニアが破壊され、推進力が失われた。

 

 更なるビームが、クスィー・ガンダムの頭をもぎ取る。

 

 モニターが死に、暗闇がケネスを襲った。

 

「最後も……キミと同じだな……あの時の感情も共有できるとはね……」

 

 手が震え、叫びたくなる衝動が襲う。

 

 今にもコクピットがビームに貫かれ、自分という人間は消えるのだろうな……

 

 静かに目を閉じ、操縦管から手を離す。

 

 バスターはクレナに届いただろうか? 

 

 それだけは、確認したかった。

 

 コクピット付近で大きな爆発が起き、ケネスの身体は上下左右に大きく揺すられる。

 

「静かに死なせてももらえないのか。下手くそなパイロットめっ!」

 

「叫べる元気があるなら、大丈夫ですね。無茶し過ぎですよ……でもケネスさん、ありがとうございました。後は、任せて下さい。そして、見せて下さいね……ケネスさんが思い描く未来を……」

 

 微かな笑い声と共に柔らかな女性の声が聞こえ、ケネスは一瞬だけ天国に召されたかと錯覚した。

 

 安堵と共に息を吐き出したケネスは、目を開く。

 

「私は、まだ生きていて良いらしい……もう少し足掻かせてもらうさ……」

 

 ケネスは深くシートに沈み込んだ……

 

 ケネスの無事を確認したクレナは、トライバード・バスターのコクピットで神経を集中していく。

 

「リースティーアさん、私に力を貸して下さい。皆を守る力を……」

 

 トライバード・バスターの右肩に装備されたロングバレル・メガ粒子砲……メガ・ビームキャノン。

 

 海賊のモビルスーツに、高出力のビームが放たれる。

 

 そのビームを追うように、純白のモビルスーツが光の翼を携えて出撃した……

 


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