機動戦士ガンダム ダブルバード   作:くろぷり

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ラゲーン侵攻17

 

「数が多過ぎる! オーティスさん、まだ時間がかかるのか?」

 

「いや、もう少しだ! リファリアのファクトリーに戻れるのならば、直ぐにでも出せるが……」

 

 ブルー3の憲兵は50人程が集まり、オーティスのファクトリーの周囲を取り囲んでいた。

 

 自国の女王が攫われたのだ……最善の救出作戦を行う事は、当たり前だろう。

 

「ケネスさん、女王を救う目的なら……何か違和感がないか? 女王を無事に救出したければ、交渉から入るのがセオリーだろう。だが、コイツ達は始めから銃撃戦を選択している。オレ達が女王を殺さないと決めつけているのか……」

 

「もしくは、女王が死んでも良いと思っているのか……どちらにしても、時間は無い! 女王を盾に出来ないのならば、ファクトリーに侵入されたら終わりだ! ザンスバインを動かせるようにしておけ!」

 

 銃声は激しさを増していく……傍から見たら、どちらが女王を守っているか分からない程に、ファクトリーに銃弾が集まる。

 

「ちっ! 限界だ……オーティスさん、ザンスバインを出す! ここで死ぬ訳にはいかない! クレナさん、ケネスさんもザンスバインの近くに集まってくれ!」

 

「少佐は行ってくれ! ここは私が引き受ける! 抵抗する人間がいなくなったら、ファクトリーに雪崩込んでくる。ザンスバインを動かすまでの時間ぐらいは、稼いでみせるさ」

 

 身体の半身を壁から出すと、ケネスは憲兵に向けてマシンガンを乱射した。

 

 ブルー3の憲兵は戦争の経験が無い為、射撃の精度も連携も良くはない。

 

 一人一人が相手なら、マフティー動乱の時代から戦い続けているケネスに敵う筈もなかった。

 

「しかし……オレ達が逃げたとして、マリア達は無事でいられるのか? このゴタゴタに紛れて、女王を殺すつもりじゃ……」

 

「マデアさん、マリア様も連れて行きますか? ノーマル・スーツさえあれば、ザンスバインの手に乗せて……」

 

 ファクトリーに戻って来たマデアに、クレナは声をかける。

 

「ああ……確かに、このままファクトリーに置いておくのは危険な気がするな。だが……オレ達と逃げた事が帝国に伝われば、女王の身に危険が及ぶ。どうすればいい?」

 

 マデアは自問自答するように、言葉を発した。

 

 ここでザンスバインと一緒に逃げたのなら、命は助かる可能性は高い。

 

 だが、二度とマリアが帝国に戻る事は出来ないだろう。

 

 そうなると、狙われるのは地球に亡命したマリアの娘……アシリアだ。

 

 そもそも、アシリア捕縛の目処が立った為に、マリアを暗殺する可能性もある。

 

「マデア、大丈夫です。ブルー3のサイキッカーに、救援を求めました。賊に捕われてしまいましたが、救援に来てくれている部隊も私達の命を無視していると……もう少ししたら、ブルー3の自警団が来てくれる筈です。マデア達は、先に脱出を!」

 

「ブルー3の自警団? どういう事だ? ブルー3の憲兵がマリア救出に来て、ファクトリーの外を囲んでいるんだろう?」

 

 マリアは頷くと、マデアに歩み寄った。

 

「ブルー3の憲兵は、ズガン将軍の息のかかった者達で構成されています。もしかしたら、私より自分達の意のままに動く者を女王の座に着かせようとしているのかもしれません。ですが……させません。私も、歩み出す事を決めたのだから……」

 

「そうか……憲兵と自警団は違う組織か……マリア、自警団の人をこちらの指示するポイントに誘導する事は可能か? そのポイントで保護してもらおう! アーシィ、これを!」

 

 マデアは2人を縛る縄を切ると、アーシィにマシンガンを手渡す。

 

「アーシィ、なんとかマリアを守りながら、指定ポイントまで行ってくれ! 合流を確認するまで、ファクトリーに立て篭もってみせるさ」

 

「そうと決まれば、憲兵の囲いに穴を開ける必要がありますね。裏口側の憲兵を沈黙させましょう。ケネスさんの頑張りで、憲兵はファクトリー正面に集まってますから」

 

 クレナの言葉にマデアは頷くと、瞳を閉じているマリアを見る。

 

「サイキッカーとコンタクト出来た。きっと大丈夫……指定ポイントに来てくれるわ」

 

「よし……」

 

 マデアはマリアとアーシィを連れて、ファクトリーの裏口まで移動した。

 

「オレとクレナで逃走を援護する……が、表面上はマリア達に向けても発砲しないと、マリア達が帝国に疑われる事になるだろう。オレ達を信用して、全速力で走り抜けてくれ。必ず無事に指定ポイントに辿り着けるように援護してみせる」

 

「少佐、心配なんてしていませんよ。次に会う時は敵かもしれません……戦争の無い平和な世界を作る……物語の主人公が掲げそうな壮大な夢は叶わないかもしれないけど、人々の心に熱い想いを取り戻させて、マリア様の祈りで人々の中に少しでも平和の心が芽生えてくれれば……それだけでも、私達の戦いに意味はある……意味は、ありますよね?」

 

 アーシィの震える声に、マデアとクレナは頷いた。

 

「アーシィさん、きっと争いは無くならない。人が人である限り……だけど、私は信じています。強制的に従わされる世界を間違いだと感じ、恐怖で押さえ付けられる世界で恐怖に打ち勝つ為に立ち上がる人々の姿を……そして、その事を知っている人達が生きている間は、無意味な争いは起きないと……私は信じています。その時間を……その熱量を作る為に、今を紡ぎましょう。私達で……」

 

「難しいね……でも、何となく分かる気がする。誰かがやらなければいけないのなら、私達が……」

 

 クレナとアーシィの手が絡み合い……そして、お互いが強く握る。

 

「行ってくれ! マリア、アーシィ! 頼んだぞ!」

 

 マデアが裏口の扉を勢いよく蹴り開け、マリアとアーシィが飛び出す。

 

「くそっ! 逃がすな! 足を狙って、動きを止めろ!」

 

 マデアの叫び声に合わせて、走り出したマリアとアーシィの足元に銃弾が飛ぶ。

 

「なっ……女王?」

 

「憲兵に保護させる訳にもいかない! マデアさん、先に憲兵をっ!」

 

 不意を付かれたブルー3の憲兵の腕に……足に……的確に銃弾が当たる。

 

 裏口に集まっていた数名の憲兵など、マデアとクレナの敵ではなかった。

 

 簡単に囲みに風穴が開き、マリアとアーシィは憲兵達の脇をすり抜けて行く。

 

「ちくしょう! 裏口だっ! 裏口に人を回せ! ぐわっ!」

 

 叫ぶブルー3の憲兵の足が、マデアが放った銃弾に貫かれる。

 

「よし……後はブルー3の自警団とやらに任せよう。オーティスさん……ザンスバイン、出せるか?」

 

「ああ……これ以上粘っても仕方ない。エンジン出力の調整は終わっている。急いで起動しよう」

 

 マデアとクレナはコクピットに飛び込み、ノーマル・スーツを着たオーティスは、ザンスバインの手の上に乗った。

 

「ケネスさんも! 急いでザンスバインに!」

 

 コクピットの中からクレナは大声を出して、ケネスに戻って来るように促す。

 

 走って来るケネスを確認したマデアはザンスバインのコクピットを閉じて、ザンスバイン起動のシークエンスを開始する。

 

「ケネスさんがザンスバインの手に乗ったら出るぞ! オーティスさん、ノーマル・スーツの予備は持ってるな?」

 

 オーティスが予備のノーマル・スーツを持ち上げたのをモニターで確認すると、ケネスがザンスバインの手に飛び乗ると同時に動けるようにマデアは操縦管を握り締めた。

 

 が……ケネスは全速力でザンスバインの横を走り抜けて行く。

 

「なっ……ケネスさん、ノーマル・スーツはある! 途中で着ればいい! 早くザンスバインの手に……」

 

「少佐、出れるなら行け! 裏口から憲兵が入って来ている! ザンスバインの手に乗っている余裕はない!」

 

 マシンガンを乱射しながら裏口に走るケネス……

 

 マデアはモニターの端に映るオーティスをチラッと見て……険しい表情のままザンスバインを起動する。

 

「マデアさん、ケネスさんを見捨てるつもりですか? まだ間に合います! ケネスさんを助けましょう!」

 

「このままケネスさんを待てば、ザンスバインが銃撃に晒される。中にいるオレ達は問題ないが、下手したらオーティスさんに当たる。いや……銃弾がノーマル・スーツを傷つけるだけで、宇宙に出れなくなる。そこまで考えてケネスさんは裏口に走って行った。無駄には出来ない……あの人の覚悟を……」

 

 バーニアに火が燈り、ファクトリーの屋根を破壊してザンスバインが外に飛び出す。

 

 最高のエンジニアをその手に、ザンスバインは宇宙へと旅立った……


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