機動戦士ガンダム ダブルバード   作:くろぷり

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ラゲーン侵攻14

「マデア、あなたも来ていたのね……いえ、私が来ているから来たのかしら?」

 

 ブルー3の管制室前で、マデアに銃口を突き付けるマリア・カウンターの兵士と、マリアに寄り添うように立つアーシィ……

 

 仲間達に守られながらも、マリアはマデアの前に立っていた。

 

 本来であれば、裏切り者が女王の前に立てる筈がない。

 

 姿を現しただけで、殺されてしまうだろう。

 

 しかしマリア・カウンターの兵の多くはマデアを慕っており、女王もまた、マデアの事を信頼している一人でもあった。

 

 ザンスカール本国には、マデアは確実に入れない。

 

 マリア・カウンター所属の戦艦の中でも、カガチの監視の目は厳しい……だが、ブルー3とエンジェル・ハイロゥに関してはカガチの監視の目が緩んでいる。

 

 タシロが進めていたクローン計画によってサイキッカーが犠牲になっていた事実が明るみになると、ブルー3は木星人とマリア・カウンター以外の人を拒否するようになった。

 

 これはタシロがエンジェル・ハイロゥを自らの切り札にしたいが為に、カガチの目を遠ざけたくて打った手の一つである。

 

 タシロもブルー3に入りづらくなってしまったが、タシロの考えに寄って来ているマリアが自由に動けるならば、さして問題は無い。

 

 マデアがブルー3に来た理由、それはカガチの目の及ばないところでマリアに会う事である。

 

「信用はされていない……か。当然だな。だが、オレはマリアの本心を……考えている事が知りたい。タシロは天使の輪を使って、人の心を奪おうとしている! それでも、天使の輪を使うつもりなのか?」

 

 マデアの言葉は、女王であるマリアの心に刺さる筈だった。

 

「マデア……私もタシロの真意を理解しているわ。そして、ニコルの幼なじみの事も……でも、今はタシロに従うしかないのです。タシロと組めば、最悪の事態だけは免れるのです」

 

 静かに語るマリア……悲しそうな瞳でマデアに銃口を向けるアーシィ……

 

「アーシィ……お前も、納得してマリアに付いているという事か? 何故タシロに付き従う? あれ程、嫌悪感を示していたのに……」

 

「少佐……私は、少佐と共に行きたかった。でも、私までいなくなったら誰が女王を守るのです? 少佐はミノフスキー・ドライブの技術とザンスパイン計画を盗んだ者として、指名手配中です。女王を見捨てて、どうして帝国に背いたのですか? 少佐がいなくなってしまったら、女王を守る盾が無くなってしまう事が分かっていて、なんで……」

 

 アーシィの瞳から、静かに……一筋の涙が頬を伝う。

 

 マデアの事は、心から慕っていた……それでも銃口を向けるアーシィは、それだけの覚悟を持っていた。

 

 マデアと決別しても、女王を守る覚悟を……

 

 その涙を見たマデアは一回言葉を飲み込むが、少し考えた後に口を開く。

 

「アーシィ……それにマリア、人から争う心を奪えば戦争は無くなるかもしれない。だが、その後に残るのは廃人のような人々だけになる。心の中では自分であり続けたいと思っても、それを表出できなくなる。それがどれだけ辛い事か……想像出来るだろ!」

 

 沈黙が流れる……それは、マデアの言っている事を理解しながらも、タシロに付かざるを得ない葛藤が生み出していた。

 

 その形容しづらい……何とも言えない空気感の中で、マデアも感じた事がある。

 

 マリアもアーシィも、タシロの考えに全面的に賛成している訳ではない……しかし、強制的に協力している訳でもない。

 

 2人の様子から、感じ取れた。

 

「マリア、少しだけ時間をくれないか? アーシィも……オレに捕まったフリをしてくれればいい。それとニコルの友人で、タシロが造ったクローンが捕まっている。女王の権限で、解放してやってほしい。今後の参考になる話が聞けるかもしれん……」

 

 マリアが小さく頷いた事を確認したマデアは、素早くアーシィの小型銃を蹴り上げて、宙に浮いた小型銃を手にすると同時にマリアに銃口を向ける。

 

「静かにしてもらおうか! 動けば、女王の命が無くなると思え! オレの目的は、クローンの回収だけだ! 管制官、クローンを引き渡してもらおう!」

 

 ブルー3で、マリアの存在は絶大だ。

 

 女王マリアに銃口を突き付けられた瞬間に、勝敗が決まったと言ってもいい。

 

 アーシィの腕を後ろ手に縛り、解放されたクレナを連れて管制室の外に出る。

 

「マデア、どうするつもり?」

 

「ここに来る前に、ブルー3で活動するレジスタンスに会った。彼らに合流する。そこで、タシロに従っている本当の目的を話してほしい」

 

 動き出したマデアのポケットの中で通信機が振動していたが、この時はまだ気付いていなかった……

 

 

 


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