「マデア、あなたも来ていたのね……いえ、私が来ているから来たのかしら?」
ブルー3の管制室前で、マデアに銃口を突き付けるマリア・カウンターの兵士と、マリアに寄り添うように立つアーシィ……
仲間達に守られながらも、マリアはマデアの前に立っていた。
本来であれば、裏切り者が女王の前に立てる筈がない。
姿を現しただけで、殺されてしまうだろう。
しかしマリア・カウンターの兵の多くはマデアを慕っており、女王もまた、マデアの事を信頼している一人でもあった。
ザンスカール本国には、マデアは確実に入れない。
マリア・カウンター所属の戦艦の中でも、カガチの監視の目は厳しい……だが、ブルー3とエンジェル・ハイロゥに関してはカガチの監視の目が緩んでいる。
タシロが進めていたクローン計画によってサイキッカーが犠牲になっていた事実が明るみになると、ブルー3は木星人とマリア・カウンター以外の人を拒否するようになった。
これはタシロがエンジェル・ハイロゥを自らの切り札にしたいが為に、カガチの目を遠ざけたくて打った手の一つである。
タシロもブルー3に入りづらくなってしまったが、タシロの考えに寄って来ているマリアが自由に動けるならば、さして問題は無い。
マデアがブルー3に来た理由、それはカガチの目の及ばないところでマリアに会う事である。
「信用はされていない……か。当然だな。だが、オレはマリアの本心を……考えている事が知りたい。タシロは天使の輪を使って、人の心を奪おうとしている! それでも、天使の輪を使うつもりなのか?」
マデアの言葉は、女王であるマリアの心に刺さる筈だった。
「マデア……私もタシロの真意を理解しているわ。そして、ニコルの幼なじみの事も……でも、今はタシロに従うしかないのです。タシロと組めば、最悪の事態だけは免れるのです」
静かに語るマリア……悲しそうな瞳でマデアに銃口を向けるアーシィ……
「アーシィ……お前も、納得してマリアに付いているという事か? 何故タシロに付き従う? あれ程、嫌悪感を示していたのに……」
「少佐……私は、少佐と共に行きたかった。でも、私までいなくなったら誰が女王を守るのです? 少佐はミノフスキー・ドライブの技術とザンスパイン計画を盗んだ者として、指名手配中です。女王を見捨てて、どうして帝国に背いたのですか? 少佐がいなくなってしまったら、女王を守る盾が無くなってしまう事が分かっていて、なんで……」
アーシィの瞳から、静かに……一筋の涙が頬を伝う。
マデアの事は、心から慕っていた……それでも銃口を向けるアーシィは、それだけの覚悟を持っていた。
マデアと決別しても、女王を守る覚悟を……
その涙を見たマデアは一回言葉を飲み込むが、少し考えた後に口を開く。
「アーシィ……それにマリア、人から争う心を奪えば戦争は無くなるかもしれない。だが、その後に残るのは廃人のような人々だけになる。心の中では自分であり続けたいと思っても、それを表出できなくなる。それがどれだけ辛い事か……想像出来るだろ!」
沈黙が流れる……それは、マデアの言っている事を理解しながらも、タシロに付かざるを得ない葛藤が生み出していた。
その形容しづらい……何とも言えない空気感の中で、マデアも感じた事がある。
マリアもアーシィも、タシロの考えに全面的に賛成している訳ではない……しかし、強制的に協力している訳でもない。
2人の様子から、感じ取れた。
「マリア、少しだけ時間をくれないか? アーシィも……オレに捕まったフリをしてくれればいい。それとニコルの友人で、タシロが造ったクローンが捕まっている。女王の権限で、解放してやってほしい。今後の参考になる話が聞けるかもしれん……」
マリアが小さく頷いた事を確認したマデアは、素早くアーシィの小型銃を蹴り上げて、宙に浮いた小型銃を手にすると同時にマリアに銃口を向ける。
「静かにしてもらおうか! 動けば、女王の命が無くなると思え! オレの目的は、クローンの回収だけだ! 管制官、クローンを引き渡してもらおう!」
ブルー3で、マリアの存在は絶大だ。
女王マリアに銃口を突き付けられた瞬間に、勝敗が決まったと言ってもいい。
アーシィの腕を後ろ手に縛り、解放されたクレナを連れて管制室の外に出る。
「マデア、どうするつもり?」
「ここに来る前に、ブルー3で活動するレジスタンスに会った。彼らに合流する。そこで、タシロに従っている本当の目的を話してほしい」
動き出したマデアのポケットの中で通信機が振動していたが、この時はまだ気付いていなかった……