「リガ・ミリティアの機体だと! どこから来た?」
「本艦の後方! ダミーで隠れていた模様です!」
カリスト級巡洋艦のブリッジで、ザンスカールの将校が驚きを隠せずに叫んだ。
全く予期していなかった攻撃……リガ・ミリティアは、ベスパの地球侵攻作戦を阻止する為に動いていると思っていた。
リガ・ミリティアから見たら緊急時の状況で、ブルー3の宙域にいる筈がない。
「我々がエンジェル・ハイロゥのパーツを運んでいる事に気付いているのか? どこから情報が漏れた? いや……そんな事より、迎撃だ! モビルスーツ隊、出撃!」
「間に合いません!」
管制官の声が終わると同時に、ブリッジが大きな横揺れに襲われる。
「推進機関に直撃! 第2波……来ます!」
ビームの束が、ブリッジの前方に雨の様に降り注ぐ。
上下対称に設定されたカタパルトデッキがビームに晒され、激しい音を立てて爆発する。
「くそっ……遊んでいるのか! 残っている兵装で一矢報いろ! いや……脱出! 脱出だっ!」
カタパルトが使えない為、モビルスーツ・デッキから直接出撃していくラング……
そのラングの部隊が次々とダブルバード・ガンダムに破壊されていく光景を見て、艦長は反撃を諦めた。
「艦長、エンジェル・ハイロゥのパーツはどうします? アレを放棄したら、我々の首が確実に落ちます!」
「知るかっ! このまま戦って、あの化け物に勝てるのか? 奴が止めを刺しに来る前に逃げるんだ! 代わりのパーツは、木星の連中に運ばせればいい!」
モニターには、ダブルバード・ガンダムがラングを簡単に撃墜する光景が映し出されている。
それと同時に、ミリティアン・ヴァヴに向けて回頭するカリストの姿が見えた。
「馬鹿が! ブルー3の部隊に援護を要請すれば、本国にリガ・ミリティアの動きを伝えられるというのに……こうミノフスキー濃度が濃くては、何も出来ん!」
悪態をついた艦長は、そのまま脱出艇へと急いだ……
「奇襲で一隻は墜とした! 次は?」
ニコルは爆発しない程度に破壊したカリストと、そのカリストから出て来たラングが動けなくなった事を確認し、次の目標を確認する。
ダブルバード・ガンダムに向かって来るカリストが一隻、もう一隻はミリティアン・ヴァヴに向かっていた。
ダブルバード・ガンダムが正対するカリストは、既にラングを展開中し臨戦態勢をとっている。
「あっちは、リファリアさんに任せるしかない! こっちも手早く済ませないと、厄介な事になる!」
ニコルはエボリューション・ファンネルを飛ばし、サイコミュの感覚に身を委ねた。
ラングの動きが、頭の中で感覚的に再生されていく。
「そこだ! ファンネル!」
一瞬……その一瞬で、ラング8機は同時に破壊され、戦闘不能に陥った。
残ったラングも、ダブルバード・ガンダムから直接放たれるビームによって、次々と各部を破壊されていく。
その間も抵抗を続けていたカリストだったが、ダブル・バスター・ライフルの高エネルギーのビームによって推進機関を破壊されて動きが止まる。
「終わった! 次は、リファリアさんのフォローを……」
ダブルバード・ガンダムを転身させたニコルの脳裏に、何か感じるモノがあった。
「そこ……なんだ?」
ダブルバード・ガンダムの手が伸び、直線的に動いている物体を掴んだ。
掴まれた飛行機の様な形をした物体……それは、先に墜とされたカリストの艦長達が乗る脱出艇だった……
「あれがニコルの戦い方か。戦場では、甘い……と言わざるを得ないが、木星から来た戦艦であれば、捕獲できれば色々と分かるかもしれんな。こちらに、そこまでの余裕はないが……」
リファリアお手製の自動追尾ビームシールドとIフィールドに守られたマグナ・マーレイ・ツヴァイの防御を、ビームライフルが主兵装のラングが抜ける筈もなく、着実に数が減らされていく。
ニコルの戦いとは違い、効率良く敵に止めを刺していくリファリアの戦いは、敵に逃げる隙も与えない。
隙を作ったら、コクピットに無慈悲な一撃が加えられて終わってしまう。
カリストも、また然りだった。
弾幕が薄くなった瞬間、ブリッジにランチャーが直撃する。
結局、ミリティアン・ヴァヴは戦闘に参加する事もなく終わってしまった。
残ったのは、漂うラングの残骸と、カリスト3隻……そして脱出艇……
カリストの運んでいた物と、カリストの艦長への尋問で、ニコル達は驚愕の事実を知る事になるのだった……