機動戦士ガンダム ダブルバード   作:くろぷり

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ラゲーン侵攻11

「では、行かせてもらうぞ。少なくとも、戦艦3隻を相手にしなければならん。ダブルバードとマグナ・マーレイ……敵を倒すだけなら充分だが、ミリティアン・ヴァヴを防衛しなくてはいけないからな」

 

 そう言いながら、スフィアの横を通り過ぎようとするリファリア……

 

「マグナ・マーレイじゃなくてもいいわ。別の格納庫に、アレが眠っている。あなたがリファリア・アースバリなら、使えるんじゃないじゃないから?」

 

 そのリファリアの耳元で、スフィアが小さな声で囁くように伝える。

 

「アレ? そうか、まだミリティアン・ヴァヴに搭載しているのか……だが、本当に使えるのか? もし使えるのなら、既に使っている筈だろう? 保管しとくだけなど、そんな無駄使いする余裕がリガ・ミリティアにあるとは思えんな。だとすれば、専門的なパーツが破壊されている可能性がある……例えば、ミノフスキー・ドライブとかがな」

 

「アレで、そこまで予測が出来るなら……本物のリファリアだと思っていいのかしら? そうね……ウォーバードはミノフスキー・ドライブのパーツが破損して使えない……けど、あなたがリファリアなら、直せるんでしよ?」

 

 リファリアは一度頷いたが、足を止めてから首を横に振った。

 

「今のタイミングでは……無理だな。それに、直したところで使い道がない。ミノフスキー・ドライブに関するデータは全て消去する。ザンスカールに奪われる可能性がある物は、全てだ。もしリガ・ミリティアのファクトリーに持っていける事が出来れば、修理してもいいかもしれんがな……」

 

 リファリアは静かに足を前に出し、ゆっくりと歩き始める。

 

「リファリアさん……ゴメン。リースティーアさんも、レジアも守れなかった……リガ・ミリティアの未来に必要な人達を……これからの世界に必要な人達を……サナリィで、リファリアさんが命を懸けて守ってくれたのに……」

 

「そんな事はない。希望はしっかりと受け継がれているだろう? あの日、皆で繋いだ希望を託した私が、再びバトンを受け取っただけの話だ。リースティーアやレジアの想いも一緒にな。リースティーアの最後の想いは、この身に刻み込んだつもりだ」

 

 目の前を通り過ぎたリファリアの背中と、ニコルの背中……

 

 お互いに、顔を合わせずに声を出す。

 

「オレは、何の考えもなく戦争に加わった……目の前の人を救いたい……ただそれだけで、モビルスーツに乗った。リースティーアさんやレジアのように、理念や使命がある訳でもない。それなのに、リガ・ミリティアの全ての希望を乗せたモビルスーツを与えてもらった。世界の平和も……リガ・ミリティアもザンスカールも地球連邦も、どんな思想で動いているのかなんて、何も知らないまま……」

 

 ニコルは、リファリアの顔が直視出来なかった。

 

 生命維持装置を頭に付けないと生きていけない身体になっても、戦場に戻って来たリファリア。

 

 その姿を見て……いや、リースティーアやレジアの死を感じ、自分の命を犠牲にしても何かを守る姿を見て、ニコルは自分自身が情けなく感じていた。

 

 マヘリアさんを守りたくて……マイを救いたくて……でも、戦争が怖くなって逃げ出して……そして、自分の周りの人達だけでも助けたくて戦場に戻って……

 

 それでも……必死に戦ったつもりでも、リースティーアとレジアを失った。

 

「ニコル、迷っているならミリティアン・ヴァヴを降りろ。何も考えていない者が、兵器を扱ってはいけない。だが、大切な人の命を救いたいというのも、戦う理由として充分だ。そしてお前は、敵にも大切な人達がいる事も知っている。だから、理念やら使命なんて事を考えるのだろう。大局を見る事は大切だが、大局だけを見ると本当に大切な事を忘れてしまう事がある。どんな時でも考えろ……自分が追い詰められた時は、特に……な」

 

 リファリアはニコルを見る事なく、モビルスーツ・デッキに向けて地面を蹴る。

 

「ニコル、あなた……」

 

「艦長……大丈夫さ! 迷いは地球に置いて来たつもりだったんだけどね……リファリアさんの姿を見てたら、自分が情けなくっちゃったよ。人の命で出来る事って、小さい。だから、繰り返さなきゃいけないんだ。オレには色々な事は分からないけど、人の心を操る事だけは許せない! だから、ザンスカールを止める! レジアとマイの気持ちも、一緒の筈だから」

 

 ニコルはスフィアに敬礼すると、リファリアの後を追ってモビルスーツ・デッキに向かう。

 

「ニコル、最初は皆一緒だよ……大切な人を救いたい……自分の国を守りたい……でも、その気持ちが戦争を生む。守ろうね、ニコル。私達だけの気持ちを……憎しみをぶつける相手は、人の心を奪おうとする人達だけでいい……あなたの戦いを、私達は精一杯援護するから……」

 

 スフィアはニコルの背中に、自分の想いを口にしていた……

 

 

「マグナ・マーレイ・ツヴァイ、出撃準備よし。ニコルにはミリティアン・ヴァヴの防衛を任せる。私が敵戦艦を叩く」

 

「リファリアさん、冗談でしょ? オフェンスはオレがやる! 電撃戦ならダブルバードの方が得意だ! ミリティアン・ヴァヴはお願いします!」

 

 マグナ・マーレイ・ツヴァイを押し退けるように、ダブルバード・ガンダムがカタパルトに急ぐ。

 

「ニーナさん、ダブルバード・ガンダム……ニコル・オレスケスで行きます!」

 

「ニコル……ダミー隕石をパージしたら、直ぐに敵に気付かれると思います! 充分注意して! 敵戦艦は、本艦の前方。ブルー3索敵範囲のギリギリ外側です。少しでも内側に入れたらブルー3に気付かれて、クレナさんにも危険が及びます。攻撃は慎重かつ迅速に!」

 

 情報を伝えながらも、さりげなくプレッシャーをかけてくるニーナに、ニコルは少し笑ってしまう。

 

「了解! ミリティアン・ヴァヴも牽制よろしく! ダブルバード、出ます!」

 

 ダブルバード・ガンダムのバーニアの光を見ながら、リファリアはマグナ・マーレイ・ツヴァイをカタパルトにつける。

 

「私がディフェンスでいいのか? まだ素性の確認がとれてないんだろう?」

 

「艦長とニコルが信じたんです。私達が疑う必要はありません。それに、最初から気付いてましたよ。サナリィで、ミリティアン・ヴァヴを……私達を守る為に、旧式のF90でマグナ・マーレイに立ち向かった勇姿……忘れる筈がありません! そして、そのマグナ・マーレイが私達を守ってくれる……安心して任せます! マグナ・マーレイ・ツヴァイ、リファリア機、出撃どうぞ!」

 

 リファリアはヘルメットも必要ない、その顔を右手でそっと触れてから操縦桿を握り直す。

 

「安心していてくれ。ミリティアン・ヴァヴは墜とさせはしない。リファリア・アースバリ、出る」

 

 2機の翼が宇宙に羽ばたく……

 

 天使の輪を破壊する戦いが始まろうとしていた……

 


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