ヴォー! ヴォー!
ミリティアン・ヴァヴの艦内に、敵発見のアラームが響き渡る。
独房……ではないが、扉の外に見張りが立っている自由の無い個室で横になっていたリファリアは、その音を聞いて身体を起こした。
「キミ……このサイレンは何だ? 敵の艦隊に接触したのか?」
「私には、詳しく分かりません。しかし、戦闘にはならなそうですよ。ダミーのおかげで、やり過ごせそうだと聞いています」
見張りの返答に、リファリアはベッドの端に座ったまま考え込む。
ダミーでやり過ごせる?
ミリティアン・ヴァヴやマデアの動きを察知して行動している艦隊であれば、索敵を強化しながら動いている筈……
ダミー隕石如きで、騙せるような相手ではないだろう……
だとすれば、今ミリティアン・ヴァヴに接近している艦隊は、少なくとも戦闘を目的にしている訳ではない。
ブルー3に向かって来る艦隊の情報はキャッチしていた。
リガ・ミリティアも、自分達も、追っ手だと思っていたが……
「すまんが、艦長を呼んでもらう事は出来るか? 至急、話をしたい事がある。好機を失う事になるかもしれん……」
「いや、しかし……分かりました! おい、艦長を呼んで来てくれ! リファリアさんが、艦長に大切な話があるそうだ!」
見張りは通路を歩いていたクルーを大声で呼び止め、艦長への伝言を依頼した。
「すまんな……こんな素性の知れない人間の頼みを……」
「いえ……黒のマグナ・マーレイ、オールド・タイプでも操縦出来るように改修されていると聞きました。それも、機体性能を落とさずに……そんな事が出来るのは、リファリアさんぐらいしか私は知りません。そしてリファリアさんであれば、疑う必要などない」
リファリアは、仮面の中で少し笑顔を見せる。
疑われても仕方がない状況の中で、かつての仲間に信じてもらえる事……それが嬉しかった。
程なくして、艦長のスフィアとニコルがリファリアの部屋に入って来る。
「話したい事があるそうだな? 敵の艦隊について……でいいのかな?」
「ああ……艦長は、何か気にならないか? と言うより、艦長なら索敵行動中にダミー隕石でカモフラージュする敵艦に気付かない……なんて事があるか?」
リファリアの問いに、艦長は眉をひそめた。
「気付くに決まっているだろう? 隕石に紛れていても、所詮はダミーだ。注意深く見れば、気付かないなんてありえない」
「だとすれば……だ。敵は、索敵行動すら行っていない可能性がある。そもそも、リガ・ミリティアがブルー3に接触している事すら気付いていないかもしれん……」
ブルー3への接触に気付いていない?
そんな事があるか!
そう言おうとしたスフィアは、言葉を飲み込む。
我々がブルー3の存在を知ったのは、マイの心の中でクレナとニコルが感じた事……
ザンスカールの情報を傍受した訳でも、捕虜から聞き出した訳でもない。
ザンスカール帝国が秘密裏に進めている作戦を、リガ・ミリティアが知っていると思って行動するだろうか?
「艦長、接近している敵艦隊の進行予想は出来るか? もしかしたら、地球から出ている艦隊ではないかもしれん。そうだとしたら……」
「そう言う事か……我々を追っていると思っていた艦隊は、行き先が同じだっただけで、別の目的でブルー3に向かっていると思った方が自然だ。ニコル、ニーナに敵艦隊の進路予測を出させろ! もしリファリアの言う通りなら……」
スフィアの視線を感じ、リファリアが頷く。
「天使の輪……マデアと私の仮説では、巨大なサイコミュ兵器であると見ている。人の心を操る兵器……だとすれば、その開発はサイキッカーが多く存在する木星圏で行っている可能性が高い」
「だとすれば、ブルー3に天使の輪のパーツを運んでいる艦隊の可能性もある。しかし、ここで我々の存在に気付かれてしまえば……」
困惑するスフィアを見て、リファリアは首を横に振る。
「気付かれた方がいい。リガ・ミリティアの目的は、ベスパの地球侵攻を遅らせる事。ヴィクトリー計画の量産を行っているファクトリーを守る事が最優先事項の筈だ。ブルー3に天使の輪のパーツを運んでいるなら、その艦隊を襲撃すればズガン艦隊は我々に目を向けるだろう。地球侵攻を任されているタシロ艦隊……ズガン艦隊は、その護衛をしている。ズガン艦隊がブルー3に向かって来てくれれば、タシロ艦隊を背後から叩ける可能性が出て来る」
「それまでに、クレナを回収出来ればな。だが、天使の輪の完成を遅らせて、地球侵攻も手薄に出来るのならば、やる価値はあるか? だが、我々には攻め手がない」
「私もマグナ・マーレイで出る。信用してもらえるならな。ズガン艦隊がタシロ艦隊の護衛をしている理由は、マデアの離反にある。その片腕の私がブルー3の宙域にいれば、ズガン艦隊は必ず来る」
だが……
たった2機のモビルスーツで仕掛けて良いのだろうか?
スフィアは、悩みながら扉の方を見た。
そこには、ブリッジから戻ったニコルが自信に満ちた表情で親指を立てていた……