機動戦士ガンダム ダブルバード   作:くろぷり

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ラゲーン侵攻3

 

「艦長、もう一度……最後に聞くぞ。本当に我々は地球に下りていいんだな? 前回の戦いでも、ミリティアン・ヴァヴは墜とされる寸前までいった。モビルスーツの護衛無しで敵のモビルスーツに囲まれたら、戦艦なんて直ぐに墜とされるぞ」

 

「分かっている……だが、ニコルとクレナをブルー3に連れていく足は必要だ。それに、シュラク隊だってザンスカールの支配下になる地域に降下するんだ。危険は同じよ……戦争をしているんだから」

 

 大気圏突入用のシャトルの中で、ジュンコは発進に備えていた。

 

 ミリティアン・ヴァヴの格納庫を見渡していると、どうしても心配になってしまう。

 

 モビルスーツ……シュラク隊のガンイージは、4機の大気圏突入用シャトルに全て収納された。

 

 残っているモビルスーツは、ダブルバード・ガンダムとトライバード・バスターのみ……

 

 広い格納庫に寂しそうに立つ2機のモビルスーツを見ていると、何故か悲しい気持ちになり、胸が不安で押し潰されそうになる。

 

 地球……これから向かう欧州エリアは、ザンスカールの地球降下作戦のターゲットになっている為、スフィアの言う通り自分達も危険だって事はジュンコも充分に分かっていた。

 

 それでも……

 

「せめて、アサルトとアマネセルがいてくれたら……私がもっと上手く戦えていれば、こんな状況には……」

 

 無意識に力を込めて拳を作ったジュンコの腕は、微かに震えている。

 

「ジュンコさん、そんな事を言ってはダメ。レジアもリースティーアも、仲間の為に命を燃やして戦ってくれた。だからこそ、この状況をつくれた。ミリティアン・ヴァヴは健在で、地球にも増援を送れる。ジュンコさんが生きていて、シュラク隊も戦える。ニコルとクレナも戦線に復帰してくれた。レジアとリースティーアが繋げてくれたこの状況、だから……私は全て諦めたくないの。無謀な戦いをしている……そんなの、リガ・ミリティアに参加した時から、ずっとでしょ?」

 

「そうだな……艦長、地球は任せてくれ。リガ・ミリティアの希望……必ず繋げてみせる。私達も……」

 

 ミリティアン・ヴァヴのブリッジに、決意に満ちたジュンコの声が届く。

 

「ジュンコさん、私は覚悟が出来ました。でも、それは諦めた覚悟じゃなくて、恐怖や絶望から目を逸らさない覚悟……前の戦闘では恐怖で取り乱しちゃったけど、そうじゃないんだって……恐怖の中でも、可能性が無い中でも、抗う道を探す……それが、次に繋がるって教えてもらったから……もし絶望的な状況になったって、私は諦めませんから……」

 

 管制官のニーナは、前の戦闘でミリティアン・ヴァヴが墜ちそうになった時、その状況から目を逸らしてしまっていた。 

 

 しかしリースティーアの最後を聞き、レジアの死の瞬間を見て、ニーナの中で変化した事がある。

 

 それは、ミリティアン・ヴァヴのクルー全てに言える事だった。

 

 自分が死ぬ事は、当然だが凄く怖い。

 

 だが……リースティーアとレジアは、最後の時間を仲間の為に使った。

 

 脱出が出来るタイミングもあったのに、最後の力でビッグ・キャノンのエネルギー供給ユニットを撃ち抜いたリースティーア……

 

 自分の救出作業より、マイの心を取り戻す事を優先したレジア……

 

 その行動が……行為が、ミリティアン・ヴァヴのクルー達に伝染していた。

 

「そうか……そうだな。私達シュラク隊も、次に繋げる為に戦おう……自分達が駄目でも、次の人達にバトンを渡せるようにな……」

 

「ジュンコさん、それは死んでも良いって事じゃないわよ。2人とも、自分の命を諦めた訳じゃないと思う。だから……また会いましょう。どんなにボロボロになっても、もう一度ここで……」

 

 絶望だからと、諦める事は簡単だ。

 

 ニーナもスフィアも……そして、ジュンコも思いは同じ……

 

 スフィアの言葉に大きく頷いたジュンコの瞳に、もう迷いの色は無い。

 

「ジュンコさん、降下ポイントに到達しました。降下ポイント周囲……オールクリーン! 全シャトル、発進オーケーです。ジュンコさん、それに皆さん……地球をお願いします」

 

 ニーナの言葉に合わせるかのように、ミリティアン・ヴァヴのハッチが開き、神々しく光る蒼が目に飛び込んで来る。

 

「ああ……地球をザンスカールの好きにはさせない。艦長、それにニーナ……無理はするなよ。降下シャトル、全機発進! 行くぞ!」

 

 降下シャトルを見送る為、メカニック達が並んで敬礼している……その横を、降下シャトルが通り過ぎていく。

 

「シュラク隊……行っちゃいましたね……」

 

 大気圏に突入し、赤く染まる降下シャトルをモニターで見ながら、ニーナは寂しそうに口を開く。

 

「さぁ、我々はブルー3だ。私達は諦めない……敵がどんなに強大でも、抗ってみせる……」

 

 自分に言い聞かせるように呟くスフィア……

 

 そして、居住区の窓から降下シャトルの出発を見送ったニコルは、マイの身を案じていた。

 

「戦争の事は忘れて、地球で穏やかに過ごしてくれ……マンダリアンは、オレが守る。必ず……な」

 

 ニコルは呟くと、窓から離れる。

 

 人の心を好き勝手に弄ぶザンスカール……人として、それだけは止めたい。

 

 ニコルの顔は、決意と覚悟で少し大人っぽくなっていた。

 

 

 


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