「私が神父役を努めよう……オーティスから、牧師の真似事を教わった事がある。いないよりマシだろ」
「オイ・ニュング伯爵、トライバードの近くに行くのは危険です。いつ爆発するか分からない。そんな危険な場所に……爆発に巻き込まれでもしたら、リガ・ミリティアは指導者も失う事になってしまいます」
「レジア君はリガ・ミリティアに多大なる功績を残した……スーパーエースの名に相応しい活躍をしてくれた。そんな彼の最後も見守れないで、指導者など勤まるか? 艦長、私をトライバードに運んでくれ」
オイ・ニュングの確固たる決意を聞き、スフィアはやむを得ず頷く。
オイ・ニュングは、トライバード・バスターと共に宇宙へ上がって来た。
後にカミオン隊のリーダーとなるリガ・ミリティアの中心人物であるオイ・ニュングは、地球の不法移住者を摘発する仕事に就いていた過去がある。
しかし、不法移住者は全て摘発する……どんな理由があろうと摘発するという官僚的な仕事に嫌気が差し、逆に理由があって不法移住するしかない者に手を指し伸べる為にリガ・ミリティアに参加した。
その心意気や崇高な想いがリガ・ミリティアのメンバーに伝わり、伯爵と呼ばれるようになる。
そんな人物が行くと言って聞かないのならば、スフィアには止める事は不可能だった。
「伯爵が結婚の見届け人をして下さるそうだ。だが、これ以上は犠牲者は出せない。トライバードの爆発に巻き込まれないように、最善の注意を払って対応してくれ!」
スフィアの指示の元、オイ・ニュングはトライバード・アサルトに近付く。
「移送はここまでで大丈夫だ。ニコル君、後はファンネルで送ってもらえるか?」
「了解。伯爵、落ちないように気をつけて下さいよ」
「宇宙だからな……落ちたって死にはしないさ。それよりニコル君、残っているファンネルでトライバードの背後に十字架を作ってくれ。やれるか?」
ニコルはエボリューション・ファンネルを巧みに操り、トライバード・アサルトの背後に十字架を作り出した。
「よし……マイ君、ペンダントを貸してくれ。直ぐに式を始めるぞ」
マイと同じく、エボリューション・ファンネルからトライバード・アサルトのコクピットに乗り移ったオイ・ニュングは、マイからペンダントを受けとると、ペンダントのチェーンをマイの指に合うように丸めるとレジアに渡す。
「さぁマイ君、エボリューション・ファンネルに移るんだ。新婦は新郎の待つ場所に行く前に、化粧直しをしなくてはな」
「そんな……私はここを離れたくない……伯爵、このままでいいんです……私達の結婚を見届けてくれれば……」
レジアの腰に手を回し、離れようとしないマイ。
そこにシュラク隊のガンイージが、トライバードの両脇に整列し始めた。
そして、シュラク隊の面々がコクピットから下りて、エボリューション・ファンネルに乗り移る。
「ほら、姉さん達が化粧直しの手筈を整えてくれている。行くぞ、マイ君」
「マイ……皆、俺達のワガママに付き合ってくれているんだ……だから、皆を信じて行ってくれ。伯爵、マイを頼みます……」
レジアの言葉に、マイは涙を流しながらエボリューション・ファンネルに乗り移った。
「マイ、新婦はちゃんと着飾らないとね! これ……リースティーアの物だけど、きっと使ってもらえたら嬉しいと思う」
「あいつ、リファリアと結婚寸前までいってたんだ……だから、ひょっとしたら使えるモノがあると思って部屋を見させてもらった。そしたら、そしたらベールとリースとブーケを見つけたぜ。どれもドライフラワーだが、充分だろ」
トライバードから離れていくエボリューション・ファンネルの上で、マヘリアとヘレンがマイのヘルメットにベールを付け始める。
「結構、乙女だったんだよな……リースティーアは……今度リファリアに会ったら、リースティーアの墓前に結婚を誓わせてやる!」
「ケイト……リースティーアの敵は私がとる。だが今は、お祝い事の前だ……物騒な話は後にしよう。マイ、ちょっとの間じっとしてな。少しは綺麗にしてやるよ」
ケイトとジュンコが、マイのノーマルスーツのヘルメットに装飾を施していく。
「しかし、感情を取り戻すと印象が随分と変わるな。今の方が、何倍もいい。リガ・ミリティアのエースが好きになる訳だ」
「そうですね。やっぱり、マイさんは感情が顔に出た方が素敵です。本当は、私もレジアさんにお礼を言いに行きたい……でも、その役はマイさんに譲りますね。私の分も、よろしくお願いします」
輪の中にペギーとクレナも入って、マイのノーマルスーツが次々と装飾が施される。
「そろそろ始めるぞ! ニコル君、ミノフスキー・ドライブを!」
「ああ……レジア、見てくれよ。この翼が、リガ・ミリティアの希望……アグナール家の皆が繋いで……命を懸けて繋いでくれて完成した、希望の翼だ……」
ダブルバード・ガンダムのミノフスキー・ドライブ・ユニットから、過剰粒子が放出され、光の道を作り出す。
光が舞う幻想的な雰囲気の中、マイを乗せたエボリューション・ファンネルが動き出した。
「マッシュ……トライバードは、後どのぐらい持つ?」
「10分……いえ、5分かもしれません……どちらにしても、もう長くは持ちませんよ! 直ぐに中止にした方が……」
スフィアは静かに首を横に振ると、艦橋からモニターを凝視する。
その場の美しさを見ると忘れてしまうが、絶望の時間は近付いていく。
だが……止める事は出来ない。
リガ・ミリティアがレジアを失った後に、それでも一歩を踏み出す力を残す為に必要な儀式だから……