「レジア! 今助ける! 整備班の人、早くしてやってくれ!」
トライバード・アサルトに近付いたニコルは叫ぶと、ミリティアン・ヴァヴに向かって通信を飛ばす。
先程まで戦場だった宙域は、まだミノフスキー粒子が影響し通信障害が起きていた。
それでも、ニコルは叫ばずにはいられない。
トライバード・アサルトの破損は酷く、いつ爆発するか分からない状況だ。
下手に動かす訳にもいかず、ミリティアン・ヴァヴの到着を待つしかなかった。
その歯痒さが、ニコルを叫ばせる。
先行して戻ったペギーが座標を伝えた為、程なくしてミリティアン・ヴァヴは到着した。
艦長であるスフィアの指示でレジアの救助隊が編成され、急ピッチで救助の準備が行われる。
そんな中、艦橋でトライバード・アサルトの状態をモニタリングしていたミューラは、トライバード・アサルトの爆発時期が近い事を察していた。
「艦長、救助隊を出さないで下さい。全員、トライバード・アサルトの爆発に巻き込まれる事になります」
「ミューラさん、何を言っている? レジアは助け出さなければいけない。たとえ、どんな犠牲を払ってもだ! 私が犠牲になっても、レジアさえ生きていれば、リガ・ミリティアは走り続ける事が出来るんだ!」
スフィアの言葉に、ミューラは首を横に振る。
「艦長……艦長は、クルーの命に責任を持たないといけないでしょ? 私だって、レジアを失いたい訳じゃないわ。でも、コクピットから出れないレジアを救助していたら、確実に爆発に巻き込まれる。それにレジアがいなくなっても、今はニコルとダブルバードがある。何とかなる筈よ」
「本気で言ってるの? ミューラさんは、レジアを都合の良い道具と勘違いでもしているのか? 話にならない……黙って座っていてくれ! 今は技術屋が口を挟む場面じゃない!」
スフィアはミューラに対し嫌悪感を覚え、強く睨みつける。
が……今は、それどころではない。
直ぐにミューラから視線を外したスフィアは救助隊の状況を確認し、最短でレジアを助る為に指示を送る。
「艦長! もしトライバード・アサルトが爆発しても、ダブルバードで爆発を抑えてみせる! とにかく、急いでくれ!」
「分かっているわ。もう少しで救助隊が出せる。ニコルはレジアに声をかけ続けてあげて! 必ず助けるって!」
ミリティン・ヴァヴが近付いた事で、スフィアの言葉が鮮明に届く。
「レジア、聞いたか? もう少しで艦が来る! もうチョイ頑張れ!」
トライバード・アサルトの残っている右肩にダブルバード・ガンダムの手を添えて、ニコルは叫び続ける。
「ニコル……声がデカイぞ……それと、艦長に救助隊は出さないように言ってくれ……トライバードの最後が近い……オレには、分かるんだ……」
「そんなモン、分かってたまるかよ! ミリティアン・ヴァヴのメカニック達は優秀なんだ! レジアの足に乗っかってるデカ物なんて、秒で取り除いてくれるさ! 爆発前に作業は終わるから、心配すんな!」
少し声の震えてるニコルの声を聞きながら、レジアは少し笑う。
馴染んだトライバード・アサルトのシートに背中を深く沈ませると、レジアは赤い球体の舞うコクピットを眺める。
「ニコル……一つだけ頼みがあるんだ……マイの顔を、一目だけでいい……見せてくれないか?」
「何言ってやがる! そんなの、助かってからいくらでも見ればいいだろ! くそっ! 早くしてくれ!」
焦るニコルの声が、爆発の時間が近い事をレジアに告げた。
「艦長……マイをオレの元に……ひょっとしたら、戻せるかもしれない……心を失わせる事が、クレナの変化と同じなら……」
レジアは破壊されたコンソールを操作し、ミリティアン・ヴァヴと通話する。
「レジアさん、諦めちゃダメです! 私達が必ず……」
「レジア……諦めたくはないが、あの損傷では……間に合わないかもしれん……」
ニーナの悲痛の叫び……そして、元メカニックのマッシュには機体の状態が分かってしまう。
絶妙なバランスで爆発を免れているが、手が加わった瞬間……
バランスが崩れて爆発する可能性が高い。
勿論、ほっといても爆発してしまうのだろうが……
「くっ……だが、手を拱いて見ている訳にもいかん。とにかく、トライバード・アサルトの状態の把握を急げ! それから……」
信頼しているマッシュの言葉で、スフィアの頭に最悪の事態が過ぎる。
しかし、出来る事は全てやりたい。
か……当然、クルーの命も無駄には出来ない。
苦悩するスフィア、泣き叫ぶニーナ、唇を噛み締めるマッシュ……そんな中で、レジアの恋人である筈のマイは無表情でモニターを……スパークするトライバード・アサルトを眺めていた。
「マイ……危険だが、レジアの元へ行けるか? レジアの最後の頼みになるかもしれない」
「はい……レジアが死ぬかもしれないのに、私には何の感情も湧かない……正直、レジアが死ぬ悲しみより、自分が死ぬ恐怖の方が強いです。でも、私が愛した人の最後かもしれないなら……」
表情を変える訳でもなく、涙を流す訳でもなく……淡々と話すマイにスフィアは怒りを覚える。
マイに対してではなく、マイを通してザンスカールの行いに無性に腹が立った。
「マイ……それで充分だ。最悪の事態になったら、レジアの心だけでも救ってやってくれ。ニコル、今から救助隊とマイをそちらに向かわせる! 守ってやってくれ!」
「了解! マイ、必ずオレが守ってやる! レジアを救うぞ! 俺達で、必ず!」
マイは無表情で頷くと、格納庫へ向かって走り出す。
レジアの声では何も感じない……でも、ニコルの声は身体の中へ……頭ではなく心に直接語りかけられている気がする。
そしてレジアも信じていた。
ダブルバード・ガンダムとエボリューション・ファンネルに搭載されたサイコフレームが奇跡を起こしてくれる事を……
「親父……あの時の親父の気持ち……今なら分かる気がするよ。命懸けでダブルバード・ガンダムの図面を取りに行った親父の行動……馬鹿げてるって思ったけど……今なら分かる……分かる気がするんだ……」
レジアは最後の時が動き出している事を感じながら、決意を胸にした……