「ビームが弾けた? Iフィールドがまだ生きているのか? いや、高出力ビームをIフィールドで防げる筈がない……」
身動きのとれないトライバード・アサルトの目の前で四散したビームに、アーシィは驚きを隠せないでいた。
バック・エンジン・ユニットに搭載されているマルチプル・ビームランチャーは3門が1セットになり、それが5基装備されている。
そのビーム全てが、ボロボロのトライバード・アサルトの目の前で弾けた……とても信じられる状況ではない。
「ファンネルから発生したIフィールドか……さっきのガンダム・タイプの置き土産といったところか……いや、しかし……この距離でファンネルを操れる訳がない」
アネモ・ノートスのモニターが、エボリューション・ファンネルの存在をアーシィに告げた。
「トライバードが動けないから、ファンネルを置いて熱量に反応してIフィールドを展開させているだけか……カラクリさえ分かれば、怖がる必要もない。墜とさせてもらうぞ、レジア・アグナール!」
アネモ・ノートスはバック・エンジン・ユニットを背中に戻すと、バーニアを全開にしてトライバード・アサルトに迫る。
「レジア、敵が行ったわ! せめて牽制だけでもして! 直ぐに助けに行くから!」
トライバード・アサルトとアネモ・ノートスの動きが気になるマヘリアは、どうしても注意力が散漫になってしまう。
振り下ろされるビームサーベルに反応が遅れるが、ペギーのガンイージがクレナ機に体当たりして事なきを得る。
「マヘリア、アンタはレジアの援護に回ってやれ! こっちは私がなんとかする!」
放たれるビームにビームシールドで防御しながら、ペギーは叫ぶ。
「でも……」
「防御に徹していれば、やられる事はない! だが、レジアを守る盾はエボリューション・ファンネルしかない! 奴を……レジアを失う訳にはいかないだろ!」
ペギーの言葉にマヘリアは頷くと、クレア機を見ずにアネモ・ノートスの後を追う。
その動きを察知したクレナは、ペギー機にビームの雨を降らせつつ、2連マルチランチャーをマヘリア機に向けて放つ!
ビームに晒されつつも、ペギーの操るガンイージはビームライフルでビームを放ち、辛うじてマルチランチャーを1基破壊する。
「マヘリア、ランチャーがいった! 撃ち墜とせ!」
「そんな事をしていたら、レジアがやられる! 背後からなら、敵の新型を墜とせるかもしれない……レジアを守る為には、これしか……」
マヘリアは、アネモ・ノートスのバーニアにロックオンした照準を解除しない選択をした。
自分を犠牲にしても、レジアを救う選択を……
しかし……
ボロボロのトライバード・アサルトの右手が動く。
ペギーから受けとったビームライフルで、ビームを2発だけ放つ。
一射目は、マヘリアに迫るマルチランチャー目掛けて……
二射目は、マヘリア機とアネモ・ノートスの間……まるで、マヘリアの攻撃を邪魔するかのように……
「そんな……レジア、なんで……」
そのビームで、アーシィはマヘリア機の存在を認識した。
「誤射か? いや、あの状態で仲間を守る為にピンポイントでランチャーを撃ち落とした……私より仲間を守る為にビームを撃ったか……」
アーシィはアネモ・ノートスを振り向かせ、マヘリア機と対面する。
「狙いがマデアから外れた? なら、私が新型を墜とせばいい。相打ちだろうが、自爆だろうが、何だってやってやる! それでレジアを守れるなら!」
「量産機で私とやるつもりか? 舐めるな! リガ・ミリティアの蚊蜻蛉が!」
覚悟を決めて叫ぶマヘリア。
自分の迷いを振り切る為に叫ぶアーシィ。
その時、アーシィは妙な空間に包まれている感覚を覚える。
アーシィは、その感覚を覚えていた。
サナリィで、ニコルと戦場で出会った時の感覚に似ている。
そして脳内に、レジアの声が響く。
「マヘリアさんもアーシィも、こんな所で死んじゃダメだ……こんな戦い、望んでいる訳じゃないだろ……」
すぐ隣でレジアに言われているような感覚……しかし、アーシィは理解する。
これは、先程ビームを撃った時のレジアの叫びだと……
自分のクローンが自分のクローンを殺し、自分のクローンがリガ・ミリティアに寝返ったクローンを操って仲間同士で戦わせている……
そして敵として戦っている相手は、強制的とはいえ裏切った仲間を救う為に自分を犠牲にして戦っている……
母を救う為……マリア主義を広め、人類を救う為……
その為に、手を汚す覚悟はしていた。
だが……この戦いに正義はあるのか?
レジアの放ったビームは、誤射なんかではなかった。
仲間を……そして自分を守る為に撃ったビームだと気付く。
アーシィが失った時間は一瞬だったが、その間にマヘリアはアネモ・ノートスにビームを放つ。
回避が遅れたアネモ・ノートスは、そのビームで左足を貫かれる。
ビームが貫いた場所を中心にスパークする左足をビームサーベルで斬り落としたアネモ・ノートスは、その動作の途中でバック・エンジン・ユニットをパージした。
アネモ・ノートスは足側、バック・エンジン・ユニットは頭側に移動し、ガンイージを上下で挟み込む。
そして放ったのはビーム……ではなく、ワイヤーだった。
ワイヤーがマヘリア機のコクピットのパーツに張り付き、お互いの息遣いが聞こえてくる。
音声が届く事を確認したアーシィは、口を開く。
トライバード・アサルトとアネモ・ノートスとの間の宇宙に、エボリューション・ファンネルが光り輝いていた……