「うおおおおおぉぉぉぉ!」
アネモ・ノートスに向かっていたトライバード・アサルトは急激な方向転換を行い、クレナのガンイージを目掛けて飛ぶ。
トライバード・アサルトのデュアル・アイに映る映像……アネモ・ボレアスが構えるキャノン砲が怪しく輝く。
レジアが驚異的な感覚でアネモ・ボレアスの射撃に気付いた……訳ではない。
ニュータイプではないレジアに、そんな力は無かった。
だが、トライバード・アサルトにレジアの想いが込められていたからなのだろうか……
限界を超えて動くトライバード・アサルトは、内部に篭った熱によってパーツの一部が爆発した。
その衝撃でバランスを崩した時、射撃体勢に移行しているアネモ・ボレアスが目に入ったのである。
気付いてしまえば、レジアの行動は早い……いや、迷いが無いと言うべきか……
アラームが鳴るコクピットで、更にスロットルを開ける。
最後の咆哮の如く唸るバーニア。
全開の加速と揺さぶられるGに意識を持って行かれそうになりながら、レジアは意識を保つ事に集中する。
「うおおおぉぉぉぉ!」
叫ばずにはいられない。
広がって来る光に向かっていく恐怖……それでも、自分の意思で動けるだけ幸せだ。
レジアは、クレナが自分の意思で裏切っている訳ではないと確信していた。
まるで、自分が的になるように動いてる……それも、指示されて動く機械のように……
何らかの理由で、操られているのだろう……だとすれば、クレナは守るべき大切な仲間だ。
その思いで恐怖に打ち勝ち……全開のスピードでクレナ機に激突する。
「マヘリアさんっ! クレナを頼む!」
有無も言わさずマヘリア機の方へ飛ばされたクレナ機は、光の帯に下半身を巻き込まれた。
そして、トライバード・アサルトは……
頭から左肩までが消失し、宇宙を漂っていた。
レジアはトライバード・アサルトの特攻を避けようとバーニアを噴かせたクレナのガンイージが移動した方向に体当たりをし、その瞬間に逆方向へ全開でバーニアを噴かせて離脱を図る。
死を覚悟はしていたが、それでも諦めてはいない……迷い無く全力で行った行動で、絶望的な状況でも命を取り留める事が出来た。
が……
「ちっ! 往生際が悪いねぇ……でも、裏切り者をボロボロになりながら守ってどうするんだい? 助かったって、直ぐに死が待ってるよ!」
ファラの言う通りだった……
クレナは一瞬気を失っていたが、意識を取り戻すとマヘリア機に向かいビームライフルを構える。
そして、辛うじて爆発していないトライバード・アサルトには、アネモ・ノートスとアネモ・ボレアスが迫っていた。
サブモニターで、その状況を把握していたレジアだったが、もはや成す術が無い。
無理をし過ぎたトライバード・アサルトのコンソールパネルは、レジアの足の上にある。
もし、奇跡的にトライバード・アサルトが生きていても、それを操る術が無くなってしまった。
バーニアを使って逃げようにも、両足に力が入らない。
潰れた両足から、血の玉が浮かび上がる。
「マヘリアさん……クレナ……逃げてくれ……敵がまだ、オレを警戒しているうちに……」
そう呟くレジアの視線の先で、アネモ・ボレアスが止めを刺しに動く。
両肩にビームのリングを携え、ボレアス・キャノンを構える。
「用心には用心を重ねさせてもらうよ! 分身したって逃げられないように、文字通り消してやるよ!」
「逃げて、レジア! クレナ、どきなさい!」
レジアを助けに入ろうとするマヘリアだったが、仲間を撃つ事も出来ず、ただボレアス・キャノンが放たれる瞬間を見ているしかなかった……
「いやあぁぁ! レジア、動いて!」
動けないトライバード・アサルトに向けて放たれるボレアス・キャノン……
防ぐ事など出来ない……絶望の閃光……
だが、マヘリア機の遥か後方……
絶望の光があれば、希望の光もある。
漆黒の宇宙に、光の花が咲く。
開いた光の花の中央から加速した高出力のビームが迫っている事を、この時は誰も気付いていなかった……