機動戦士ガンダム ダブルバード   作:くろぷり

184 / 237
操られし者33

「速いねぇ……生身の身体で、その加速Gにどれだけ堪えれると思ってるんだい?」

 

 粒子加速器から放たれるビームを連射し、アネモ・ボレアスは残像を発生させながら迫るトライバード・アサルトをいなしていく。

 

「おい、オリジナル。いつまで休んでるつもりだい! もう戻っている筈だろう? 少しは手伝いな!」

 

「私のクローン……何を考えている?」

 

 近付くアネモ・ボレアスを警戒しながら、アーシィはバックエンジン・ユニットを機体から外し、臨戦態勢をとる。

 

「コッチを疑ってるのかい? 状況を臨機応変に把握出来ない奴だな……本当にニュータイプなのかい? あんな奴のクローンとは、自分が嫌になるよ」

 

 ファラは更に加速するトライバード・アサルトを牽制しながら、アネモ・ノートスの後方にアネモ・ボレアスを隠す。

 

「な……私を盾に使う気?」

 

「あんたは、レジアの相手をしていな! 間違っても、私の仕掛けの邪魔すんじゃないよ!」

 

 レジアの発するプレッシャーに晒され、後退を試みようとしたアーシィの背中に悪寒が走る。

 

「この感じ……さっきの……」

 

「だから、黙ってレジアの相手をしていろ! コッチに来たら、また動けなくなるよ……まぁ、私はそれでも別にいいけどねぇ……」

 

 アネモ・ボレアスがサイコ・ウェーブを放射し、アーシィのアネモ・ノートスは前に出るしかなくなった。

 

 ビームサーベルを構えたアネモ・ノートスに、閃光が激突する。

 

「今は、アンタに構ってる時間はない! あのヤバイ奴を墜とさないと……分かってるだろ?」

 

「私は……ザンスカールの軍人なんだ……ザンスカールの勝利の為に、戦うしかない!」

 

「馬鹿な事を! 仲間を平気で殺すような奴と一緒に戦う事が、アンタの正義なのか? そんなんじゃ、ゲルダさんが浮かばれないぞ!」

 

 トライバード・アサルトとアネモ・ノートスが弾け飛ぶ。

 

 その瞬間、バックエンジン・ユニットに搭載されたマルチプルランチャーが、トライバード・アサルトに向けて火を吹く。

 

「止まれ! レジア・アグナール!」

 

「構っている時間はないと言った! 戦場を混乱させる奴……奴さえ倒せれば!」

 

 マルチプルランチャーから放たれるビームに晒され、機体のパーツを飛び散らす残像を残しながら、トライバード・アサルトはアネモ・ボレアスに迫る。

 

「墜ちろ!」

 

「残念……少し遅かったねぇ……時間稼ぎ、ご苦労だった」

 

 トライバード・アサルトが突き出したビームサーベルの先……アネモ・ボレアスに突き刺さっている筈のビームサーベルは、ガンイージの右肩に突き刺っていた。

 

「なん……だと? これは、クレナ機か!」

 

「ごめん、レジア! クレナが急に目を覚ましたと思ったら……」

 

 レジアとマヘリアが会話をする時間もなく、クレナ機は行動を開始する。

 

 ビームサーベルを引き抜くと、左腕に装備されたビームシールドを展開し振り回す。

 

 間一髪で躱したレジアは、何が起きているか分からずにガンイージ……クレナ機と距離をとる。

 

「そんな……クレナが裏切ったなんて……」

 

「いや……マヘリアさん、クレナが裏切ると思うか? 今回の戦闘中だけでも、オレはクレナに助けられた。裏切るなら、あのタイミングでオレを後ろから撃てばよかっただけだ。そうすれば、マヘリアさん一人に3機で戦える。だが、そうしなかった……」

 

 レジアの視線の先では、動かなくなった右腕を斬り落とし、荒々しくビーム・ライフルを左手に持ちかえるガンイージの姿が見えた。

 

 普段のクレナの操縦からは、想像出来ない程の荒々しさだ。

 

「確かに……あんなの、クレナじゃないわ……」

 

「操られている……そう考えた方が良さそうだ。何故そんな事が出来るのか分からないが、正気に戻さないと……」

 

 レジアは、言葉を止めた。

 

 クレナを正気に戻し、新型2機から逃げ切る……そんな事が可能なのか? 

 

 トライバード・アサルトはボロボロ……マヘリアも連戦での疲労が溜まっているだろう……

 

 そして敵は、クレナを操るという切り札を使っている……簡単に逃がしてくれる筈はない……

 

「私達2人だけになると、いつも苦戦しちゃうね。レジアと始めて一緒に戦った時もそうだった……本気で死ぬかと思った……でも……」

 

 言葉を詰まらせたレジアに気を使って、マヘリアが声をかける。

 

 その声に、レジアは勇気が湧いてきた。

 

「そう……だったな……あの時は、ニコルに殺されるかもしれんと思ったもんだが、助けられた。そうだな……ニコルは来てくれる! 今は、クレナを正気に戻す事だけを考えよう。あの狂気のパイロットの思い通りには……させない!」

 

 傷ついたトライバード・アサルトは、翼を広げる。

 

 あと何回飛べるか分からない……ボロボロの筈の翼は、それでも気高く、力強く……レジアの命を吸い取りながら、光り輝いた……


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。