鈴の音が頭に響く……
その音を、まるで遠くで聞いているような……何かをしている時に、遠くで風鈴が鳴っているのを無意識で聞いているような……そんな感覚。
その音を聞いていると、昔の事が思い出されてくる。
私は、戦っていた。
父にギロチンを振り落とした相手に、小さな身体にマシンガンを抱え戦う。
贈収賄事件の首謀者である……そう言われて、ギロチン台に立たされた父の姿が鮮明に思い出される。
否定し助けを懇願する父の姿は、あまりに滑稽で情けなかった。
だけど、私は知っている。
父が、スペースコロニーの為に必死に働いていた事を……
戦争をしては駄目だ……争いは、悲劇しか生まない……そして、最終的には利権争いにしかならないと……
その動きを、ガチ党は嫌った。
そして、父は隙を見せてしまう。
力を借りる為に権力者と会食し、ガチ党に付け入る隙を与えてしまった。
ギロチン台の上の父の姿に、力無き正義は何も生み出さないと感じる。
救おうとしていた人々にも相手にされず、犯罪者の汚名を背負って死んでいった。
残された私は、ガチ党に追われている。
犯罪者の子として……いなくなっても、誰も見向きもしない子として……
軍隊相手に、ただの女の子が出来る事なんて多くない。
捕まった私は、実験のモルモットにされた……
負の感情が、どんどん強くなる……
その時、鈴の音に同期して声が聞こえてきた。
かつてジン・ジャハナムを守った時に流れ込んできた、嫌な感覚に似ている。
そして、私の感情は……感覚は、深い闇に堕ちていく……
どんなに手を伸ばしても、救いの手は現れない。
沈んでいく私の視線の先には、嫌な笑いを浮かべる、もう一人の私がいた……
「クレナ、大丈夫? しっかりして!」
「敵のパイロットの動きも一瞬止まっていた……一体、何をしたんだ?」
意識を失っているクレナのガンイージを守るように、マヘリアとレジアがファラ・グリフォンの前に立ち塞がる。
「お仲間を庇って止まってんなら、ボレアス・キャノンの的になるだけだよ! 死にな!」
「撃たせるかよ! スピードなら、ヴェスバーの方が早い!」
仲間を守りながらでも、レジアの……トライバード・アサルトの動きは俊敏だ。
ボレアス・ベースを撃ち抜く為に放たれたヴェスバーは、ファラに回避行動を促すには充分である。
「ちっ、流石はレジア・アグナール! でも、そうでなくちゃ……ねぇ!」
粒子加速器に内蔵された小型ビームを連射しながら、再度ボレアス・キャノンの射撃シークエンスに入るファラ。
「マヘリアさん、奴は危険な気がする……味方でも躊躇いなく殺す、非情な奴だ。出し惜しみしていたら、全滅するかもしれない……だから、サポートしてくれ! 全員で……帰る為に!」
レジアの言葉に、一瞬マヘリアは何かを言葉にしようとした……しかし、その言葉を一回飲み込む。
そして、頷いた。
「レジア、約束して! 無理はしない……深追いはしない……私達全員が、無事に帰る事を優先するって!」
「もちろんだ! クレナの事も気になる。とっとと終わらせて、帰るぞ! 俺達の艦に!」
トライバード・アサルトから、放熱フィンが展開していく。
警告音が鳴るコクピット……数分で、トライバード・アサルトは使い物にならなくなるだろう……
それでも、動かないクレナと、頑固なマヘリアを守るには、もうこれしない……
「トライバード……いつも無理させて、すまないな……だが、これで最後だ……もう少しだけ、オレに付き合ってくれ……」
閃光となって、アネモ・ボレアスへ迫るトライバード・アサルト……
その後方で、クレナのガンイージが動き始める……
宇宙が、狂気で埋め尽くされようとしていた……