「ティーヴァ、止まるな! 動け!」
叫んだアーシィは、バックエンジンユニットに装備されるマルチプル・ビームランチャーをトライバード・アサルトに向けて放った。
上空……宇宙に上下の概念はないが、トライバード・アサルトの頭側から降ってくるビームに、レジアは後退を余儀なくされる。
それでも、振り抜いたビームサーベルはアネモ・ボレアスの右肩を焼く。
「当たらない……新型で戦っても、レジア・アグナールは墜とせないのか……それでも、母の為……マリア様の為に、倒さなければいけないんだ!」
高速で動くトライバード・アサルトを追うバックエンジンユニットは、アーチ状から水平に近いフォルムに変形している。
大推力スラスターによる機動力に加え、15門あるビームランチャーは時間差で偏向射撃をする事で的を絞らせない。
疑似オールレンジ攻撃と言うべきか……
モニター上では、トライバード・アサルトのパーツは飛び散っている様に見える。
それでも……
次の瞬間には、五体満足なトライバード・アサルトが復活してくるのだ。
右肩を焼かれたアネモ・ボレアスも援護射撃をしているが、当たる気がしない。
「くそっ! 本当にオールドタイプなのか! このままじゃ……」
焦るアーシィ……
しかし、トライバード・アサルトのコクピットで操縦するレジアも、余裕な表情ではなかった。
飛び散る汗を拭う事も出来ず、変則的に襲ってくる加速Gに意識を持っていかれそうになりながら、必死にトライバード・アサルトを操る。
止まらないビームの嵐……Iフィールドでは防ぐ事が出来ないであろう高出力ビームが、変則的にトライバード・アサルトに降り注ぐ。
ファンネルなら、とっくにエネルギー切れを起こしているだろう……
だが、止まらない……
放熱フィンでは逃がしきれない程の熱が、トライバード・アサルトの機体内部には溜まり始めていた。
「このままでは、トライバードもオレも持たない……」
「レジア、こっち!」
コクピットに響くマヘリアの声に、レジアは無意識にガンイージの方へ機体を寄せる。
「量産機が射程に入った! 仲間ごと墜ちろ! レジア・アグナール!」
ビームシールドを全開にしてトライバード・アサルトを守るように前に出たガンイージに狙いを定めて、放たれるビームランチャー……
が、そうはならなかった。
突然の爆発音の後に、バックエンジンユニットがバランスを崩す。
確実にビームを当てようとして動きを固定したバックエンジンユニットに、ビームが直撃したのだ。
「ナイス、クレナ! レジア、一旦距離をとって体制を立て直すよ!」
マヘリアのガンイージは無理矢理にトライバード・アサルトを押して、アネモ・シリーズから距離をとる。
マヘリアのガンイージを囮役にして、バックエンジンユニットの動きを予測したクレナのガンイージがビームを放ったのだ。
「すまない、助かった!」
「レジア、私達はチームで戦っているのよ! 一人で突っ込み過ぎないで!」
「分かっている……だが……」
マヘリアの言葉に頷いたレジアだったが、それ程の猶予もなかった。
出来れば短期決戦で終わらせたい……
アサルト・パーツで補った装甲は限界を向かえているのだろう……トライバード・アサルトのコクピットは、異常を知らせる警告音が鳴り響いている。
「レジアさん、私達は無理せずにいきましょう。新型の足止めでいいんですから……そして、皆を信じましょ。信頼出来る仲間達を……必ず、ビッグ・キャノンを破壊してくれる……だから私達は、この新型を足止めする。それだけです」
クレナの静かな口調に、レジアの気持ちも落ち着いていく。
「そうだな……足止めだけだ……だが、それだけでも……」
大きく溜息をついたレジアは、気持ちを入れ替える。
攻撃を捨て、防御に徹する覚悟……
しかし、その覚悟は尽く潰される事になる。
ファラ・グリフォンの乗るリグ・グリフから放たれた高出力ビームが、レジア達に迫っていた……