「流石はリガ・ミリティアのエース、レジア・アグナールと言ったところか。高出力のボレアス・キャノンでは照準が定められない。だが……そっちの二匹の蝿には当たるぞ!」
アネモ・ボレアスが、ジェネレーターに直結した粒子加速器を展開する。
両肩に輝くドーナツ・リング……20メートルはあろうロングバレルに、力が蓄えられていく。
ロングバレル……ボレアス・キャノンの射線の先では、アネモ・ノートスのバックエンジンユニットから放たれるマルチプル・ビームランチャーの雨を回避する3機のモビルスーツがいる。
ある程度の余裕を持って回避するトライバード・アサルトとは違い、2機のガンイージは余裕がない。
とは言え、並のパイロットでは無線誘導式……ファンネルの様に動く砲台から放たれるビームの雨を回避する事すら難しいだろう。
シュラク隊のパイロット達が、並以上の能力を有している事は明白だ。
それでも……対峙するパイロットはニュータイプと、ニュータイプをベースにしたクローン強化人間……
そして、彼女達の為にセッティングされた新型の機体では、さすがに分が悪い。
「まずは二匹……頂きだ!」
ボレアス・キャノンの銃口が輝き、トライバード・アサルトを中心にビームが吐き出される。
「トライバード・アサルトには、サナリィの技術の全てが詰まっているんだ! そして、ザンスカールに抗った人々の想いが籠もっている! 高出力だろうが、ビームの一撃で墜とされる訳にはいかない!」
可変速型ビーム・ライフルから放たれた高速の閃光は、威力は犠牲になっているが……正に高速でボレアス・キャノンの銃口付近のビームに干渉した。
レジアはヴェズバーのビームの行方を見る事もなく、直ぐに次の動作に移る。
トライバード・アサルトの放熱フィンが展開し、最大出力で発生する熱を逃がし始めた。
最大出力……オールドタイプでありながら……いや、オールドタイプだからこそ、モビルスーツの限界値を感覚ではなく知識で理解し、必要なタイミングで使う事が出来る。
必要な時に必要な力を引き出せる……それが、レジアの力であった。
手動でのリミッター解除……そして、身体への負荷を考えた最低限の解放……
その力が、マヘリアとクレナを救う。
ヴェスバーの一撃でバランスを崩したアネモ・ボレアスの放った高出力のビームは湾曲する。
その湾曲した反対側へ、トライバード・アサルトはガンイージを押し出した。
「爆発の規模が小さい……が、一番厄介なトライバードを……レジアを墜とせた。ファラの鈴に頼る事もなく終わったな。私のは、放出が出来ないからな……」
ティーヴァは、自分の耳にピアスの様に付けられた鈴を指で弾く。
「ティーヴァ! よく見ろ! 奴は墜ちてない! 接近を許すな!」
アネモ・ボレアスのコクピットに、アーシィの声が響く。
「な……確かに、トライバードは爆発した筈だ……何故、生きている? それに……3機……だと……」
確かに、爆発は確認した。
ガンイージ2機は墜とせなかったが、トライバード・アサルトはボレアス・キャノンのビームに巻き込めた筈だ……
しかし、センサーはトライバード・アサルトを3機として認識している。
連なって、アネモ・ボレアスに迫っていると……
「ちっ! ビームの干渉波で、モニターがイカれたか! 」
「違う! M.E.P.Eだ! サナリィの技術で造られた機体なのだから、搭載されてても不思議じゃないが……オールドタイプが使えるモノなのか?」
アーシィの言葉を聞いても、ティーヴァは分かっていない。
M.E.P.E……金属剥離効果と言われるソレは、装甲表面の塗装や金属が剥離し、それがセンサーにはモビルスーツとして認識してしまう現象である。
剥離した金属がビームによって破壊され、それがアネモ・ボレアスのセンサーはモビルスーツを破壊したと認識した。
質量を持った残像……そう言われる由縁である。
が……金属剥離効果は、高出力機がリミッターを解除し、最大出力で動いた時に発生する現象だ。
本来、ニュータイプでなければ、この現象を起こす事は不可能に近い。
オールドタイプでありながら、高出力機を自分の手足のように扱うレジアは、やはり驚異だ。
「ティーヴァ、モニターの情報を信じるな! 接近されてるぞ!」
「モニターを信じるな? だが、モニターには3機いる! ならば、全てを墜とす!」
アネモ・ボレアスの両肩に装備された粒子加速器が再び起動し、ビームを連射した。
ビームが当たり、トライバード・アサルトのパーツが破壊されていく。
……ように見える……
確かに、破壊されている……しかし次の瞬間には、どこも破壊されていないトライバード・アサルトが襲いかかってきた。
「くっ……何が……起こっている?」
「ティーヴァ、落ち着け! クローンじゃ、知識が無くても仕方ないか……」
トライバード・アサルトの動きに翻弄されるアネモ・ボレアスは、ついにビームサーベルの届く距離に機体を晒していた……