機動戦士ガンダム ダブルバード   作:くろぷり

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操られし者27

「ちょっと、Mっパゲ! タシロの奴に文句を言ってよ! あいつ、私のレシェフ部隊を攻撃しやがった! 返答次第じゃ、ただじゃ置かないわ!」

 

 語気を強め、怒りの表情を浮かべながら、アルテミスはタイタニア・リッテンフリッカのコクピットから飛び出した。

 

 ズガンは自らの頭皮を掻きながら、険しい面持ちでアルテミスを出迎える。

 

「タシロが使っていたのは、傭兵部隊だ。傭兵が勝手にやったと言われたら、追求は難しい。それに、お前もリグ・ラングを何機か破壊しただろ? 喧嘩両成敗で処理されて終わりだ。怒りに任せてタシロの部隊を攻撃したのは、早計だったな……」

 

「は? 先に手を出したのは、タシロの部隊じゃん! そんな不公平ある? なら、今からタシロの戦艦をぶっ壊してくるわ!」

 

 再びタイタニア・リッテンフリッカのコクピットに戻ろうとするアルテミスの腕を、ズガンは慌てて引っ張る。

 

「うわっと! 何するのよ、Mっパゲ!」

 

「そんな事をしたら、ザンスカール帝国内での木星帰りの立場が弱くなる! せっかく築き上げた我々の立場を……多くの犠牲を払って得た立場を、失う訳にはいかんだろ?」

 

 不満そうに睨むアルテミスの視線を感じ、ズガンは大きな溜息をついた。

 

「カガチと私……出来れば、二人でザンスカール帝国を引っ張っていきたかった……だが、タシロのような狡猾な人間がいなくては戦争には勝てん。今回の作戦も、結局は敵の長距離射撃が出来るモビルスーツを潰している。それも使い捨ての傭兵でな……奴のような非道な作戦が出来る人間も必要なのだ……悔しいがな」

 

「けど、だからって……あんな暴挙、許す訳? 文句の一つぐらい言ってよ!」

 

 アルテミスの強い言葉に、ズガンは頷く。

 

「勿論、既に抗議はした。だが、タシロ艦隊は戦闘継続中だ。まぁ……傭兵が勝手にやった事だと突っぱねてきた。予想通りな……それに、戦闘中の艦隊と議論するなら、援護してやれと本国から打診も来ている」

 

「誰が! タシロ艦隊なんて、全滅しちゃえばいいんだわ!」

 

 アルテミスの敵意剥き出しの言葉に、ズガンは再び深い溜息をついた。

 

「タシロ艦隊からは、救援要請は出ていない。助けてやる義理も、流石に無いしな。それと今回の件で、ザンスパイン計画は一時凍結され、リング計画が優先される事になった。これで、少しは怒りが落ち着いたか?」

 

「じゃあ天使の輪は、私達がメインで防衛出来る訳だ! 木星のサイキッカー達を使うんだから当たり前なんだけど、タシロの奴が近付けないってだけで気が楽になるわ。レシェフの後継機になるリング系モビルスーツの開発が進めば、私達の力は更に強くなるわね!」

 

 まだアルテミスの怒りは落ち着いていない様子だが、それでもタシロ主導の計画が凍結される事に多少の溜飲は下がったようだ。

 

「虎の子のカイライスギリーも修復には時間がかかるようだし、タシロは地球への攻撃に労力を使う事になる。その間に、我々は力を蓄えなくてはな」

 

「天使の輪が動き出してしまえば、私達に負けはない。タシロのクローンのおかげで計画が実現する目処もたった。そこは、感謝してあげなきゃね」

 

 アルテミスの声を聞きながら、ズガンは窓の外の宇宙へ目を向ける。

 

「ザンスパインの計画が潰れても、スーパーサイコ研究所の研究は継続されている。クローン兵士とクローン専用モビルスーツか……まだタシロには裏がありそうだな……」

 

 ズガンはアルテミスには聞こえない声で、そう呟いていた。

 

 

「新型が2機……何かあると思っておいた方がいい! マヘリアさんとクレナは、距離を保って攻撃してくれ! オレが至近距離で撹乱する!」

 

 アネモ・ボレアスとアネモ・ノートス……

 

 風神の名を冠したモビルスーツは、タシロが推し進めるクローン計画のグリフォン・タイプ専用のモビルスーツである。

 

 時代に逆行した重モビルスーツでありながら、高い機動力と防御力、そして強力なサイコミュを搭載し、サイズによる不利を感じさせない。

 

 そんな強力なモビルスーツ2機を相手に、トライバード・アサルトとガンイージ2機では苦戦は必至だった。

 

 しかし強力なモビルスーツを足止め出来れば、ビッグ・キャノンを破壊出来る確率は高くなる。

 

「レジア! 一人で突っ込み過ぎないで! 近距離で戦ったって、あのドーナツ・リングを展開したら、こちらの攻撃が通らなくなる。高出力ビームを撃ってバランスを崩したところを狙った方がいい!」

 

「レジアさん、マヘリアさんの言う通りです。それに、もう一機のあの大きいバックパック……絶対に何かありますよ」

 

 レジアはマヘリアとクレナ……2人の言葉で、敵の懐に飛び込む気持ちを抑えた。

 

「とりあえず、2機の連携を見る事が先決か……2人とも、気をつけてくれっ! ドーナツが高出力ビームを撃った瞬間に仕掛けるぞ!」

 

 レジアのトライバード・アサルトがアネモ・ボレアスに向けてヴェズバーを放ち、戦いの幕が上がる。

 

 絶望へのカウントダウンが、始まろうとしていた……

 

 

 

 


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