「今の爆発は何だ? カイラスギリーの各部チェック、急げよ!」
スクイード1のモニターに映った小さな爆発の光……カイラスギリーのサイズからすれば、問題になるサイズの爆発には思えない。
しかし、何故かタシロは気になっていた。
「中佐! カイラスギリーのエネルギー供給ユニットで爆発があったようです! エネルギー漏出の心配は無さそうですが……」
「エネルギー供給ユニットは、最重要のパーツだ! 整備は万全にしておけと、釘を刺しておいた筈だぞ! 復旧まで、どのぐらいかかる?」
「はっ……報告によると、内部の爆発ではなく、外部からの攻撃で破壊されたそうです! 射撃された場所は……エバンス隊が戦闘を行っていた宙域付近からです」
報告を聞きながら、タシロは指を顎に当てて考え込む。
エネルギー供給ユニットにピンポイントで攻撃するだけでも、ほぼ不可能に近い。
モビルスーツより小さいユニットを狙うのは、動きが無いとはいえ、宇宙のように広大なフィールドでは針の穴を通すより困難だ。
そしてエバンスからの報告では、遠距離射撃が出来るモビルスーツは破壊したと……
「エバンスめ……しくじったか! だが……損傷の激しいモビルスーツで、あんなに小さいユニットを狙えるモノか? それ以前に、エネルギー供給ユニットの位置情報が漏れない限り、ピンポイントで狙う事すら出来ない筈だ……」
タシロはブツブツと独り言を言いながら、可能性を導き出そうとしていた。
スパイか、エバンスの裏切りか、それ以外の要因か……
何にしても、問題を解決しなければならない。
カイラスギリーの存在は、ギロチンと合わせて、地球に住む人々をザンスカール帝国に屈服させる為に必要な物なのだ。
サイド2で、反対勢力を恫喝した時のように……
その為にも、カイラスギリーの情報を漏らした裏切り者を特定する必要がある。
「しかし……だ。傭兵であるエバンスが裏切るか? レジスタンス如きでは払えんぐらいの報酬を用意した。考えられるのは、マデア奴が情報を持ち出していたか……ザンスパインのデータを根こそぎ持って行ったからな……可能性はある……」
マデアがカイラスギリーの情報を持ち出し、レジスタンスに情報を渡していたのなら、かなり厄介だ。
「だが、奴が完全にザンスカールを裏切るとは思えん。女王マリアが、ザンスカール帝国に留まっている限りはな……だとすれば……」
ピンポイントのビームを放ったのは、射撃の天才としてザンスカールでも名が知られているリースティーアだろう。
リガ・ミリティアのエースであるレジアがアーシィ達に、ニュータイプのマデアがファラに足止めされている今、リースティーアが損傷したモビルスーツで狙ったとしか考えられない。
「エバンスの失態は間違いないが……サイキッカーの脳内の情報で、ユニットの位置を把握されたのか? だとしたら……マズイな」
タシロは立ち上がると、カイラスギリーのデータが送られてきている端末まで移動する。
「エネルギーは、何パーセント残っている?」
「75パーセント程度です。ユニットを修理する為に、一度放出する必要がありますが……」
「75か……」
タシロは腕を組み、再度考え込む。
「この状態で撃った場合、地球にビームは届くのか?」
「都市が壊滅する程度の破壊力はあると……あくまで、データ上では……ですが」
再び何かを考えたタシロは、指揮官席に戻ると声を張り上げた。
「カイラスギリー、射撃準備に入れ!」
と……
「この状況で、モビルアーマーだと! どこの所属か知らんが、これ以上戦場を混乱させられては……」
高速で迫るモビルアーマーに、ザンスバインはビームを放つが尽く回避される。
「ちっ! 気持ちが焦っているのか……掠りもしない!」
ビームに晒されながら……回避行動をとりながらも、モビル・アーマーはスピードを緩める事なくザンスバインに突っ込んで来た。
そして、ザンスバインの目の前でモビル・スーツ形態へ変形する。
「な……変形だと! しかも、ガンダム・タイプか!」
ビームサーベルが激突し、ザンスバインが後方に押されていく。
「その声、マデアさんか? ザンスカール側で戦ってるなら、やるしかない!」
「ニコルか! ちょっと待て! ビッグ・キャノンに火が入ってるらしい……リガ・ミリティアで止めれるか?」
「なんだって! でも、カイラスギリーの近くにはリースティーアさんとジュンコさんがいる! ビーム・マグナムで制御艦を撃てれば……」
ニコルが会話を止めた……いや、止めざるを得なかった。
「ニコル……これは……」
「そんな……リースティーアさんが……やられた……」
リースティーアの命が弾ける感覚……そして、消滅していく魂……
「ニコル……仲間が、命懸けでやってくれたんだな……」
「でも、残っているエネルギーで地球を狙ってる! リースティーアさんの命を無駄にする訳には……いかない! 泣いてる暇は……ないんだ……」
「ニコル、そのモビルスーツがダブルバード・ガンダムで、エボリューション・ファンネルを搭載しているなら、考えがある! 付いて来てくれ!」
マデアはファラが向かった宙域が気になっていたが、地球を狙うビームを止める事を優先し、バーニアを全開にして動き出した……