「こいつ……動きは雑だが、強い!」
ファラのリグ・グリフと対峙するマデアは、焦りを感じていた。
タイタニア・リッテンフリッカを引き連れてビッグ・キャノンに近付いていったリファリアの事も気掛かりだし、ザンスカールの新型を相手にしているレジアの部隊も気になる。
おそらく、自分が相手をしているリグ・グリフが一番弱い……
だが……
頭の中で、何故か流れる鈴の音……その音が、マデアの集中力を奪っていた。
「はっ! ザンスカール最強のニュータイプも、底が知れてるねぇ……この程度なら、私が墜としちまうよ!」
リグ・グリフから放たれるビームを躱し、インコムの網を抜ける。
確かに、マデアの集中力は奪われていた。
機体性能は圧倒的にザンスバインが上である為、リグ・グリフの攻撃は当たらない。
しかし、集中力の欠いたマデアの攻撃も当たらなかった。
リグ・グリフの攻撃に誘導されるように……マデアの思いとは逆に、ザンスバインはビッグ・キャノンから離されていく。
「一度、リガ・ミリティアの部隊と合流するか? この感覚……ニュータイプだけに反応している可能性がある。なら、レジアの方が適任だ!」
マデアはレジア達が戦っている宙域……トライバード・アサルトとザンスカールの新型モビルスーツを視野に入れると、牽制のビームを放つ。
今度はマデアのザンスバインに誘導されるように、リグ・グリフがレジア達の戦う戦場に近付いていく。
そこで、マデアは気付く……何かがおかしい……
今の状況なら、ザンスバインとトライバード・アサルトを同一射線に入れる事は容易いように思える。
こちらの戦闘に関与する余裕もないレジア達が、高出力ビームの強襲を受ければ、ただでは済まないだろう。
「こいつ……誘導させてるように見せかけて、わざと……」
「残念だったね! ニュータイプなんて、先天性だけで優遇される時代は終わったのさ! 最早、創られし者の方が優れていると知りな!」
ファラは鈴を鳴らし、サイコ・ウェーブを放出する。
「また鈴の音が……ビームの来る方向は予測しやすいが、気分が悪くなる!」
ファラの額と耳に装着された鈴……サイコミュ補助具として機能するソレは、アクティブ・センサーの役割を果たすサイコ・ウェーブを放出する事が出来る。
敵意を抱いていない情報は認知出来ないが、戦場で敵意を抱かない者など存在しない。
そして放出されたサイコ・ウェーブは、ニュータイプの脳波に感知され、頭に直接鈴の音が響いているように聞こえる。
この為ファラの思考を読む事ができ、ロックオンの状況が読めるが、他者から一方的に発信されるサイコ・ウェーブに晒される脳は不快に感じてしまう。
そのサイコ・ウェーブから与えられる情報で、マデアはリグ・グリフが高出力ビームを放つ意思がない事に気付いた。
「気付くのが遅いんだよ! あんたの役目は、ここで終わりさっ!」
「この感覚……まさか、ビッグ・キャノンが起動しているのか!」
飛ばされてくるファラのサイコ・ウェーブの情報で、マデアはカイラスギリーが地球への射撃シークェンスを開始している事実を知る。
「ほら、私の相手をしていていいのかい? 地球が破壊されちまうよ?」
「ちっ! こいつ、何を考えている? だが……事実だとしたら、ビッグ・キャノンの射軸をズラさなければ!」
迷うマデアのザンスバインの横を、リグ・グリフがすり抜けていく。
「そこで一生迷ってな!」
「くそっ、嫌な予感がする! とりあえず、高出力ビームを撃つ土台だけでも!」
ビッグ・キャノンが気になりながらも、ザンスバインにリグ・グリフを攻撃させる。
無防備なリグ・グリフの背後からビームが迫り、直撃したように見えた。
「迂闊なんだよ! 中途半端な攻撃で、私は倒せないよ!」
サイコ・ウェーブによる状況把握……そしてファラのパイロットとしての能力の高さが、死角である筈の背後からの攻撃を易々と対応させる。
リグ・グリフのインコムがザンスバインから放たれたビームを吸収し、拡散して返す。
「なっ……」
焦りから、攻撃が単調になったのは間違いない。
それでも、拡散してくるビームに当たる程、マデアの能力は低くなかった。
だが……
加速してレジア達が戦う宙域に向かうリグ・グリフに、勢いが止めれたザンスバイン……
ミノフスキー・ドライブを使えば、捕まえられるだろう……
ただ、ビッグ・キャノンの射撃に間に合わないかもしれない……
そんなザンスバインの上空……頭部側からモビル・アーマーがバーニアを全開にして迫っていた……
そしてリグ・グリフは、リガ・ミリティアのモビルスーツを目掛けてサイコ・ウェーブを放出する。
その先には、薄緑のモビルスーツ……ガンイージの姿があった。