レシェフのパイロットの悲痛な叫びが、サイコミュを介してリースティーアの脳に流れ込む。
「くっ……」
脳に直接流れ込むような衝撃に、どうしてもリースティーアの反応が鈍ってしまう。
それでもエバンス機のビームサーベルを間一髪で躱すと、バーニアを全開にして間合いをはかる。
「ちっ! 粘りやがる!」
リグ・ラングは腕を伸ばして、右手背に装備されたグレネード弾を放つ。
「あら……いい加減、諦めたら? 傭兵のあなた達には、ビッグキャノンを守る義理は無いでしょ?」
「ふん……俺達は、これで飯を食ってんだよ! ある意味、命懸けだ!」
再び、近くでレシェフが爆発した。
「くっ……この、脳に入り込んでくる感情のようなモノ……気持ち悪いわね。それに、ボヤけて見えるビジョンの様な映像は何なの?」
レシェフのパイロット……サイキッカーの命が散る度に、リースティーアの脳に意識が飛んでくる。
その意識の中に入っているビジョンが、リースティーアの脳内で再生されていた。
しかし朧気にしか感じないビジョンでは、何の映像かはっきりしない。
動きが止まったアマネセル・フェネクスに、エバンスのリグ・ラングが迫る。
「あら、しっかりしないと……またヘレンに怒られるわ。色々と気になるケド、隊長機を墜として、制御艦を叩いてから考えればいい……」
アマネセル・フェネクスの背部に装備されたディフェンス・エクステンションからIフィールドを発生し、リグ・ラングのビームサーベルを無効化……そして、距離をとった。
「ちぃ……レジスタンスの分際で、ハイコスト機を使いやがって! おい、俺の動きにレシェフを墜とすタイミングを合わせろ!」
なかなか墜とせないアマネセル・フェネクスに苛立ちを隠せないエバンスは、部下に命令するとモニターを睨む。
アマネセル・フェネクスの背後に、破損したガンイージが見える。
「なる程な……そいつを守ってやがるから、離れられんのか……」
弱点を見つけた時のエバンスの動きは早い。
バーニアを全開にして、ジュンコのガンイージに迫った。
「あら……やっぱり、そうくるわね。でも、お見通しよ!」
ディフェンス・エクステンションは多機能兵器であり、シールドのように腕に装備する事も出来る。
その先端に配されるメガキャノンで、エバンスのリグ・ラングを狙う……が、その直後にレシェフが破壊され、再びリースティーアの動きが鈍ってしまう。
今までボヤけていたビジョンが、リースティーアの脳に一瞬だけ鮮明に映しだす。
「あら……なんでニコルが、ビッグキャノンを操作していたの? それに、ザンスカールの艦隊に向けて撃っているようにも見えた……」
そのビジョンから解放されたリースティーアの視線の先では、エバンスのリグ・ラングがジュンコのガンイージを捕らえている瞬間だった。
「あらあら……どうしたモノかしらね? 動きが制限されている機体なんて、ただの的よ」
「どうかな? 昔の貴様は戦士だったが、どうやら今は違う様だからな。仲間に当たる可能性のある状況で、撃てやしまい!」
メガキャノンの射線上にジュンコのガンイージを押し出し、リグ・ラングはビームライフルを構える。
「さて……武器を捨てて、投降してもらおうか。貴様が撃った瞬間に、お仲間の命も無くなるぞ」
エバンスはそう言うと、ビームを放つ。
光の閃光は、ガンイージの右足を貫く。
「ぐっ! リースティーア、奴の言葉は聞くな! 私だって、まだ戦える! メイン・カメラが無いってだけだ!」
頭と右足の失ったガンイージが、エバンスのリグ・ラングに挑みかかる。
「おいおい……冗談だろ? 目を失っている状態ってのは、戦場じゃあ致命的だ。それで、どうにかなるかよ!」
ガンイージが放ったビームはリグ・ラングに躱され、逆に右腕を斬り落とされた。
「リースティーア、私に構うな! 私だって戦士だ! こんな奴に命を握られるぐらいなら死を選ぶ! あんたは、制御艦を撃つんだ!」
叫ぶジュンコだが、ガンイージには余力がある筈もない。
遊ばれる様に左腕も斬り落とされ、ガンイージのコクピットにビームライフルの銃口が突きつけられた。
「リースティーア、武器を捨てて投降しろって言ってんだ! その機体は高く売れる。無傷で持って帰りたいんでな」
為す術がなかったリースティーアは、その様子を見ながら力無くシートに身を委ねていた……