機動戦士ガンダム ダブルバード   作:くろぷり

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操られし者19

「サイキッカー達が……命が散っていく……」

 

 スクイードの艦橋でモニターを見ながら、マリアは涙を流して蹲る。

 

「女王、彼らが我々を守ってくれているのです。スペースノイドを受け入れる事を拒み、自らの保身の為に戦う……我々は、ただ自治権を認めてもらいたいだけなのに、アースノイドは戦争を仕掛けてくる……」

 

 タシロはマリアの肩に手を添えながら、モニターでレシェフが散っていく様子を見て笑う。

 

「さぁ女王、悲しみの戦争も人類の闘争心を奪えば終わります。その為のクローン計画であり、天使の輪計画です。だが、エンジェル・ハイロゥの完成には時間が必要……今は犠牲を出してでも、時間を稼ぐしかありません。エンジェル・ハイロゥが完成しなければ、この犠牲も無駄になってしまいます」

 

「中佐! 敵のモビルスーツに、艦が狙われています!」

 

 管制担当の兵の声に再びモニターに目を向けたタシロは、弾幕を張るように指示するとマリアをフリッジから居住区に繋がる通路へ誘導した。

 

「ブリッジにいては危険です。後は我々が……女王のお身体は、戦争を終わらせる為に必ず必要なのです。安全な場所で待機していて下さい」

 

 何か言いたげなマリアだったが、タシロは言われる前に扉を閉じる。

 

「さて……エバンス中隊の出撃準備は出来ているか? あの機体……全身サイコフレームなら、サイキッカー達が混乱すれば乱れる筈だ。相手の脳波を読んで動くサイキッカーは、その逆も然りだからな」

 

「はい、エバンス中隊の出撃準備は整っています。しかし、この命令で本当に良いのですか? 味方を背後から撃つなんて……」

 

 ブリッジの座席に深く座ったタシロは、口角を少し上げて笑った。

 

「なに……その為のエバンス中隊だろ? 傭兵のやる事に、我々の命令が通ってるかなぞ調べる事は出来んさ。それにカイラスギリーが破壊されては、将軍もマズイだろ? 利害の一致というヤツだ」

 

「分かりました……エバンス中隊はサイコジャマーを使用し、レシェフの背後からリガ・ミリティアのモビルスーツを叩け。その際、レシェフ破壊の有無は問わない!」

 

 指示を受けたエバンス中隊のリグ・ラングが出撃を開始する。

 

「さて……無敵のズガン艦隊の主力モビルスーツが消え、リガ・ミリティアが消え、マリアを手中に収めてしまえば、後は私の天下だな……厄介なハエの始末が残るが、まぁ些細な事だろう」

 

 タシロは、込み上げてくる笑いを抑える事が出来なかった……

 

 

「リースティーア、後ろだ!」

 

 ジュンコの声が耳に飛び込んで来て、リースティーアは慌てて後方を確認する。

 

 気配を経っていたレシェフが、アマネセル・フェネクスの背後からビームサーベルを突き立てようと迫った。

 

「あら……サイコミュの感覚に頼り過ぎたかしら? でも、このタイミングなら、アマネセルが墜とされる前にスクイードを撃てる! 私達の勝ちだわ」

 

 背後のレシェフを気にも留めず、リースティーアはビームマグナムの照準をスクイードの艦橋に合わせる。

 

 が……その決意は、レシェフとアマネセル・フェネクスの間に飛び込んで来たガンイージによって吹き飛んだ。

 

 レシェフのビームサーベルが、飛び込んで来たガンイージの首と胸部……コクピット・ブロックの上に深々と突き刺さる。

 

 リースティーアの頭に、ジュンコとレシェフのパイロットであるサイキッカーの思いが流れ込んだ。

 

「ジュンコさん! 今なら……間に合う!」

 

 ジュンコのリースティーアを守ろうとする思い……そしてガンイージのコクピットを斬り裂き、アマネセル・フェネクスへ攻撃を仕掛けようとするサイキッカーの意思……

 

 リースティーアはビームマグナムを手放し、アマネセル・フェネクスを素早く反転させると、ガンイージの胸元に突き刺さったレシェフのビームサーベルを下から支えるように自らのビームサーベルを付ける。

 

 そのままレシェフのビームサーベルを上方向……ガンイージの頭側へ押し上げると、フェネクス・パーツに装備されたメガ・キャノンを放つ。

 

 至近距離でメガ・キャノンを直撃させたアマネセル・フェネクスは、ガンイージを抱いた状態で爆発寸前のレシェフを蹴った。

 

「リースティーア、なんで助けた! 制御艦を墜とす絶好のチャンスを失ったぞ!」

 

「あら、これからのリガ・ミリティアにジュンコさんは必要よ。それに、まだ時間はあるわ!」

 

 胸から頭までを斬り裂かれたガンイージは、戦闘には耐えられないだろう。

 

 しかし、蹴られたレシェフのように爆発するような危険は少なそうだ。

 

「あらあら……ジュンコさんは、そこら辺に隠れていて。その機体では足手まといだわ」

 

「ふん……まだ、盾にならなれる! 今度こそ、デカイ横っ腹に風穴を開けてやれっ!」

 

 宙に漂うビームマグナムを再び手に取り、スクイードに照準を合わせる。

 

 その時、不意にリースティーアの頭に衝撃が走る……と、同時にアマネセル・フェネクスを襲おうとしていたレシェフが爆発した。

 

「あら……何、今の?」

 

 動きが止まったアマネセル・フェネクスに、リグ・ラングが強襲する。

 

「何だ……コイツら?」

 

 リグ・ラングから放たれるビームはアマネセル・フェネクスの機体に当たるまえに湾曲するが、漂うジュンコのガンイージはIフィールドも耐ビーム・コーティングも無い。

 

「リースティーア、私に構うな! スクイードを撃て!」

 

 自分を守っていたら、デストロイ・モードの制限時間が来てしまう。

 

 ビームの雨に晒される覚悟は出来ている……それよりも、本当に足手まといにだけはなりたくない。

 

 ジュンコは叫んだ後に、瞳を閉じた。


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