ホラズム基地は、自分達の作ったモビルスーツが戦果を上げた事に沸き上がっていた。
ガンイージは使い物にならなくなったが、意識を失っただけのマヘリアは、モビルスーツの損傷状態から考えれば軽傷ですんだ。
ザンスカール軍にモビルスーツ17機大破という損害を与えた事を考えれば、リガ・ミリティアの圧勝と言っていいだろう。
更にニュータイプ専用機であるガンスナイパーが凄まじい活躍をした事に、ミューラを中心とした技術者達のテンションは上がっていた。
お祭り騒ぎのようなホラズム基地の宴の中心にいるのは、まるでヒーローのような扱いを受けるニコルだった。
「基地を守ってくれて、ありがとう!!」
「伝説のニュータイプ、再来ってとこだな!!」
「神も我々のレジスタンス活動を応援してくれてるぞ!!ザンスカールの圧政から人々を救えと言っている!!」
「レジアの初陣も凄かったけど、まったくの素人がザンスカールのモビルスーツを蹴散らしてく姿は圧巻だったな!!」
次々に労いの言葉を受けるニコルは顔が綻び、だらしのない表情になっている。
そんなニコルに、嬉しそうな表情をしたミューラが近付いてきた。
「お疲れ様。ガンスナイパーをあんなに上手く操ってくれるとは、正直思わなかったわ!!」
ニコルと握手するミューラの顔は、まるで子供が宝物を見つけた時のような、そんな表情で目を輝かしている。
「ねぇ、ニコル。私達が今開発しているモビルスーツのテスト・パイロットになってもらえない?リガ・ミリティアの勝利の為には、あなたの力が必要だわ」
今までの人生の中で人に頼られる事などあまり無かったニコルは、年上の綺麗な女性に頼られて悪い気はしなかった。
「おい!!ミューラさん正気か?こいつは、たまたまモビルスーツに乗って、戦争の事なんかまるで分からずに闘ってきたんだ!!これがどういう事か分かるだろ!!」
2人の間に、神妙な面持ちで割って入ったのはレジアだった。
「私もニコルにパイロットをさせるのは反対だな。こいつは、うちの工場に入ったのも最近だ。リガ・ミリティアの活動のなんたるかを、まだ理解して闘ってる訳じゃない。そんな奴を命のやり取りをする戦場に出す訳にはいかんだろ」
ミューラの隣にいたボイズンも、レジアの考えに同意する。
その言葉に、レジアも強く頷いた。
「2人とも、どうしたんだよ?オレはセンサーもまともに作動しないモビルスーツで、生きて帰ったんだよ!!充分、パイロットの素質あるでしょ!!」
ニコルは今回の戦いで、多少は自信をつけた。
そして基地での労いは、その自信を増長させるのには充分だった。
「あのなぁ…………ニコル。確かに、お前のパイロットの素質はオレ以上かもしれない。だが、お前はリガ・ミリティアの理念や理想の為に戦ってる訳じゃないだろ。戦うって事は、それなりの心構えが必要なんだ」
「そうだぞ。うちの工場に来たのも、ただ仕事が無かっただけだろ。幼馴染みに声かけてもらって、取り敢えず働いてるだけなんだから、パイロットなんてのは…………」
レジアもボイズンも、リガ・ミリティアの理念や戦争する意味も分からずに、人を殺す戦場にニコルを出したくなかった。
「なんだよ!!オレのパイロット・センスに嫉妬してんのか!!別に、大切な人を守る…………それだけで戦う理由なんか充分だろ!!」
マヘリアの事を守りたい………その思いだけで戦ったニコルは、しかし、その思いが一番大切な事だと思っていた。
そんなニコルの軽い言葉に、それまで冷静だったレジアの顔が怒りの表情に変わる。
「てめぇ!!今の戦闘で、人が17人死んだんだぞ!!敵とはいえ、17人の人生を奪ったんだっ!!モビルスーツに乗ってるから人を殺した感覚なんて無いかもしれないが、お前もオレも…………今、人を殺してきたんだぞ!!」
レジアの感情の籠った声に一瞬躊躇したニコルだったが、すぐにレジアを睨み付けるほどの眼光を取り戻す。
「お前がマヘリアさんを守りたいって思った気持ち…………俺達が殺した人達の家族にもあったかもしれない。だからこそ、何故戦争が起きてるかも分からない奴に、モビルスーツに乗る資格はない!!」
その睨む瞳をお構いなしに、レジアの声はボリュームを上げていく。
それでもニコルは、基地を自分が救ったという自信があり、全く怯まない。
「はっ!!リガ・ミリティアのエースの座が、オレに奪われるのが恐いの?オレが新型のテスト・パイロットになるのが、そんなに嫌かよ!!敵の事を考えて戦えるかよ!!だいたい、今は戦争中だろ!!人殺して、何が悪いんだ!!」
ニコルが言葉を発し終わった瞬間、ボイズンの右の鉄拳がニコルの頬に突き刺さっていた…………