機動戦士ガンダム ダブルバード   作:くろぷり

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操られし者16

「リースティーア、何をボーッとしているんだ? 敵地のど真ん中なんだ……しっかりしてくれよ!」

 

 ヘレンの声で我に返ったリースティーアは、黒いマグナ・マーレイの姿を無意識に目で追っていた。

 

「あら……ごめんなさい。少し、サナリィでの事を思い出してしまっていたわ……もう大丈夫」

 

「全機、ここからが正念場だぞ! レシェフ部隊に風穴を開けて、ビッグ・キャノンに取り付く。フォーメーションを立て直すぞ!」

 

 リースティーアはオリファーの大声によって、意識は完全にクリアになり、戦況を確かめる。

 

 シュラク隊は、前方のレシェフ隊に突入する為に隊列を整えていた。

 

 そのシュラク隊と改良されたリグ・グリフの間に入ったマデアのザンスバイン。

 

 そして、タイタニア・リッテンフリッカと対峙するリファリアのマグナ・マーレイ・ツヴァイ。

 

 白いモビルスーツ……タイタニア・リッテンフリッカとマグナ・マーレイ・ツヴァイでは、性能に差があり過ぎる……リースティーアは、F96アマネセルで援護に向かおうとした。

 

「リースティーア、来るな。こいつは、私が抑える。レシェフも強敵だが、カイラスギリーまでの道を作ってくれ」

 

「頼むぜ、リガ・ミリティアのエース部隊。後ろの事は、気にせず戦え! 前だけに集中するんだ!」

 

 敵だか味方だかすら分からない、その2機の後ろ姿に、ジュンコとリースティーアは頼もしさを感じてしまう。

 

「まったく……嫌になるね。得体の知れないモビルスーツに、背中を預けなきゃいけないなんてさっ!」

 

「あら……でも、何故か安心感があるわ……あの2機なら、なんとかしてくれるかもしれない……って。ね、リファリア……」 

 

 ジュンコの言葉に少し笑いながら……リースティーアはマグナ・マーレイの……リファリアの背中を名残惜しそうに見ながらも、F96アマネセルをオリファー機の後方に付ける。

 

 シュラク隊は、オリファーのガンイージを先頭にレシェフ部隊に飛び込んで行く。

 

「おいおい、お仲間が離れて行くぞ……ま、私はアンタを倒せと命令を受けてるだけだからね……好都合だよ!」

 

 紫色の髪に大きな鈴……妖艶な雰囲気の女性は、紫色の口紅の上から唇を舐める。

 

 ファラ・グリフォン……アーシィ・ベースのクローン、グリフォン・タイプ4人目の成功者。

 

 気性は荒く、性格も歪んでいる。

 

 しかしパイロットとしての能力は異様に高く、サイコミュ増幅装置による増幅値を上乗せすると、オリジナルのアーシィを上回る程のニュータイプ能力を発揮した。

 

 後にザンネック・キャノンと呼ばれる高出力ビーム・キャノンをバランスの悪い機体で射撃出来る事で、その能力値の高さを証明している。

 

「バランスの悪い機体でオレと戦う……嘗められたモノだな! リファリア、リグ・グリフはタシロ艦隊から出ている筈だ」

 

「分かっている。レシェフと連携出来るのは、白いヤツだけだ。リグ・グリフは、高出力ビームだけ気をつければいい。だが、シュラク隊が固まっている所に撃たれるとマズイ。先に墜とした方がいい」

 

 マデアは頷くとMDUを展開し、その翼に火を入れた。

 

「ザンスバインとミノフスキー・ドライブ相手に、大味な武装では捉えられんぞ!」

 

 MDUを展開したザンスバインの動きは、例えニュータイプであろうと捉えられるスピードではない。

 

「ふふ……スピードで勝てないなんて、百も承知なんだよ。けどね、この鈴が私の頭に敵の姿をイメージさせてくれる……心眼の前に、スピードが意味の無いモノだと分からせてやる!」

 

 リグ・グリフから展開されたインコムから、ビームが放たれる。

 

 インコムから放たれるビームが、ザンスバインの動きの先に置かれていく。

 

「このパイロット……オレの動きが読めるのか? しかし、火力不足だ!」

 

 マントのように展開されるビームシールドによって、ザンスバインに向かってくるビームは全て弾かれる。

 

「墜ちろっ!」

 

 高速の動きの中で、ビームサーベルが光の羽を作り出す。

 

 リグ・グリフのコクピットを斬り裂いた……そう思ったが、光の羽はコクピットの上を浅く斬っただけで通り過ぎる。

 

「イメージ出来ると、言っているだろ! 全員、纏めて地獄に行きな!」

 

 リグ・グリフがボレアス・キャノンを、ザンスバインとその後方に見えるシュラク隊とレシェフ隊を照準に捉えた。

 

「なっ……味方ごと撃つつもりか!」

 

「タシロの奴! リガ・ミリティアを討てれば、何をしてもイイってクローンにプログラムでもしてんじゃないの? ふざけんなっ!」

 

 バーニアを吹かしたタイタニア・リッテンフリッカは、マグナ・マーレイ・ツヴァイの横を高速で通り越す。

 

「クローンの分際で、木星の同胞に手を出すな! 死んでろっ!」

 

「へぇ……同士撃ちをしようってのかい? 軍法会議モノだぞ?」

 

 タイタニア・リッテンフリッカが放ったビームを躱し、リグ・グリフのコクピットでファラが笑う。

 

「馬鹿にすんなー! 作り物の強化人間がっ!」

 

「味方にも敵がいるんじゃ、厄介だね。タシロ……ズガンに言って、この馬鹿を止めてくれ。リガ・ミリティアとマデアを同時に討つチャンスを失ったよ」

 

 アルテミスは、怒りの形相でリグ・グリフに襲いかかる。

 

「これは、チャンスと見るべきか? タイタニアの動きに合わせて、コチラも仕掛ける!」

 

「待て……リグ・グリフは、ザンスバインとシュラク隊を同時に撃てる場所を維持しようとしている。タイタニアを上手く使えれば楽にはなるが、リスクは冒せん」

 

 リファリアの言葉に頷くと、マデアはザンスバインを旋回させた。

 

「お子様……レシェフを狙わなければ、突っ掛かる理由も無いだろ? 離れな!」

 

「覚えときなさいよっ! リガ・ミリティアの連中を墜としたら、次はアンタを墜とす!」

 

 アルテミスの怒りの声が聞こえるが、ファラは鈴を鳴らしながら口元を緩める。

 

「はっ、やってみな。マデアやリガ・ミリティアの連中にヤられなければ、相手してやるよ」

 

 アルテミスは怒りを堪えながら、マグナ・マーレイ・ツヴァイに向けてデュアルビームガンを構えた……


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