機動戦士ガンダム ダブルバード   作:くろぷり

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操られし者15

「で……なかなか不思議な編成になったモンだな。裏切り者が1人追加だ」

 

「クレナは裏切り者じゃねぇよ! 利用されてたって言ってんだろっ!」

 

 フォルブリエの言葉に、プロシュエールが食ってかかる。

 

「あらあら……あんな男に好かれるなんて、あなたも大変ね。それで、これからどうするの? リガ・ミリティアの部隊に当てでもあるのかしら?」

 

「ザンスカール帝国の式典様の戦艦をサナリィで造っているという噂……聞いた事は無いか? それを餌にしたら、大物が引っ掛かってくれたよ。リガ・ミリティアのトップ、ジン・ジャハナムだ」

 

 リファリアの言葉に、全員が言葉を失う。

 

「用意周到すぎるな……貴様、何を考えている? 俺達も餌にして、リガ・ミリティア内での地位を約束させるつもりか?」

 

「馬鹿な事を言うな。その気なら、このタイミングで話をしないさ。地位を約束させると言うなら、ここにいる全員の地位を約束させる必要がある。その為の戦艦の情報だ。リガ・ミリティアでも、利用される立場なら意味が無い。俺達が主導権を握って、この世界を変えるんだ」

 

 ビームライフルをリファリア機のコクピットに合わせていたフォルブリエは、その話の内容に頭を抱えた。

 

「ちくしょう! 俺は、楽して稼ぎたい人間なんだっ! 結局、ハメられたぜ!」

 

「あら、私は賛成だけどね。楽しそうじゃない?」

 

 笑い声と溜息が入り混じる中、武装を全て取り上げられたF89のコクピットで、照準の微調整を行う女性のパイロットの姿があった……

 

 

「見えた……あそこだな!」

 

 純白のモビルスーツを視界に捉え、プロシュエールはリゼル改をモビルスーツ形態に戻す。

 

「あら……綺麗な機体ね……あんなモビルスーツ、見たことないわ」

 

「LM11E01ガンダム・イージ。俺がリガ・ミリティアに提供した機体だ。アイツをベースに、リガ・ミリティアの秘密基地で量産機の開発が進められている筈さ。アナハイムの連中は、サナリィの技術を嫌がるかもしれないが……そんな事は言ってられんだろうしな」

 

 リファリアは、そう言うとガンダム・イージの横にF90を着地させる。

 

 F90より一回り小さいガンダム・イージは、まるで子供のように見えた。

 

「ほぅ……ジン・ジャハナム直々に来て頂けるとは……光栄だね」

 

「なに……アンタには、随分と世話になっているからな。それに、ガンダム・タイプを5機も連れて来てくれるとは、ありがたい」

 

 素直に喜ぶジン・ジャハナムに、リファリアはバツの悪い表情を浮かべる。

 

「それが……素直に喜べない状況なんだ。ザンスカールとサナリィの裏切り者を2人連れてきている。ザンスカールのパイロットは縛っているが、サナリィの裏切り者はF89の中だ。武装は解除させてはいるが……」

 

「アンタが武装解除させたなら、間違いないだろう。それに、護衛に付けているガンダム・イージの基本性能は高い。F89に遅れをとる事はないよ」

 

 リファリアとジン・ジャハナムが会話を続けていると、続々とモビルスーツからパイロット達が降りてきた。

 

 リースティーアとクレナ、プロシュエールとフォルブリエ……

 

 F89のコクピット・ハッチも開き、中から女性のパイロットが地面に降りようとした。

 

 ヘルメットを被っている為、その表情は分からない。

 

 しかし、コクピットから降りて来た事で全員の緊張が少し解けた。

 

 その時、F89の機体がバランスを崩しガンダム・イージに寄りかかる。

 

 機動性を重視し小型にしたガンダム・イージは、パワーでは旧世代のモビルスーツに敵わない。

 

「くっ! F89のパイロット、何をしている! 素人でもあるまいに……」

 

 崩れ落ちるモビルスーツのコクピット・ハッチから伸びるワイヤーを握って降りていたパイロットは、突然上昇に転じる。

 

 素早い動きでコクピットに収まると、ガンダム・イージを抑え込む。

 

「おいおい……こんなトコで暴れるって、何を考えているんだ。いや……エバンスの部下は頭の悪い奴が多かったしな……こんなのがいても、おかしくないか……」

 

 リゼル改に足を向け走り出そうとするプロシュエールの袖を、何かが引っ張る。

 

「なんだっ……!」

 

「プロシュエールさん……あの機体のパイロット、もしかしたら……」

 

 袖を引っ張ってきたクレナの表情を見て、プロシュエールも気付く。

 

「まさか……クローンかよ……」

 

 プロシュエールが小声で呟き、その呟きにクレナは頷いて答える。

 

「分かった……正体が晒される前に、コクピットを潰す。それしかねぇ……お前も、いざとなったら逃げろ」

 

 クレナを縛っている縄を切ってから、プロシュエールは走り出す。

 

 プロシュエールが息を切らしながらリゼル改のコクピットに辿り着いた時には、ガンダム・イージのコクピットを潰し、ビームライフルを奪って立ち上がろうとしているF89の姿が見えた。

 

「動きが早ぇっ! やれるのか?」

 

 リゼル改の放ったビームは、F89の右腕をビームライフルごと吹き飛ばす。

 

「プロシュエール、ナイスだっ! ジン・ジャハナムは逃げてくれ! この不始末は、自分達で解決する!」

 

「あらあら……面倒な事になったわね……最初の裏切り者が穏やかだった分、油断しすぎたわね。でも、武装の無いモビルスーツで私達には勝てないわ」

 

 フォルブリエとリースティーアも、モビルスーツに走る。

 

 だが……F89はモビルスーツに目もくれず、ジン・ジャハナムを狙う。

 

 腰の装甲が開き、そこからビーム・ダガーが飛びだし、F89の左手に収まる。

 

「あんな場所に、兵装のギミックは無かった筈だ! バランサーを犠牲にしているのかっ!」

 

 リファリアが叫んでいる間も、F89の動きは止まらない……

 

 無駄な動きを省いたスローイングが、ジン・ジャハナムを捉える。

 

「間に合って……」

 

 咄嗟にジン・ジャハナムを庇うように前に出たクレナは、両手を広げた。

 

 人の身体で庇える筈がない……外す筈のないビーム・ダガーは、しかしジン・ジャハナムの横に逸れる。

 

 次の瞬間には、リゼル改のビーム・トンファーがF89のコクピットを貫いていた。

 

 自分のクローンならば、波長を合わせる事で少しはコントロール出来る。

 

 クレナはF89のコクピットにいた自らのクローンに同期し、その身体をコントロールした。

 

 その結果、ジン・ジャハナムを守ったのだ。

 

「クレナ、大丈夫か?」

 

 走って駆け寄ったプロシュエールに笑顔を向けたクレナだったが、頭に少し違和感を感じていた。

 

 同期した時に流れ込んできた……何やら嫌な感じのモノ……

 

 一瞬陰った表情を見逃さなかったプロシュエールは、その身体を抱きしめていた。

 

 

 その後、廃棄されたサナリィの研究所をカモフラージュに、戦艦を守る為のリガ・ミリティアの基地が作られる。

 

 リファリア達サナリィのテスト・パイロットは、サナリィ基地でパイロットの任が与えられ、クレナは素性が不明過ぎる為に離れた地球へと送られる事となった。

 

 そしてリファリアは約束通り、リースティーア達にテスト・パイロットではなく、部隊のエースとしての役割を与える事になる。

 

 F90をアップグレードさせながら、常にパイロット達が生き残る可能性の高い戦術を練り続けた。

 

 リファリアの才能は、ここで大きく開花する。

 

 サナリィでは、意見を言う度に開発者達に嫌な顔をされていた……テスト・パイロットのクセに……と。

 

 しかしリガ・ミリティアの基地では、自分のやりたいように兵器を開発し、ついにミノフスキー・ドライブの余剰エネルギーの排出方法を見つける。

 

 いや、性格にはリファリアは言い続けて……そして、馬鹿にされ続けていた。

 

 荷電粒子の余剰エネルギーを武器として流用する事……

 

 余剰エネルギーは、ミノフスキー粒子の立体格子構造が崩れる事……そこが研究者達の悩み所であった。

 

 余剰エネルギーを排出する機構は、どうしても大きくなってしまい、著しく機体バランスを崩してしまう。

 

 サナリィでミノフスキー・ドライブ搭載機の試験を何度か行った事があったが、それは酷いモノだった……

 

 余剰粒子を放出する機構が長過ぎる為に、とても戦闘に耐えうるバランスの機体では無い……

 

 パイロットの負荷は関係ない……ミノフスキー・ドライブの推進力のみのデータで一喜一憂する研究者達。

 

 リファリアはF90Wでテストし、常に悩んでいた。

 

 パイロットに負荷の少ない機体にするには、どうすればよいか……

 

 その姿は、リースティーアに信頼をもたらした。

 

 パイロットの事を無視して開発する研究者とは違う……パイロットの事を考えて、パイロットの生存率を上げる為の開発をするリファリアの事を、いつしかリースティーアは目で追っていた……


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