「どうでもいいが、メイン・カメラがペイント弾でやられちまってる。これで戦えってのかよ!」
「プロシュエール、文句を言うな。リースティーアがペイント弾を使ってくれたから、我々は生きていられる……来たぞ! プロシュエールは変形して上空へ! フォルブリエはサポートを頼む!」
リファリアの言葉が終わる前に、フォルブリエの機体は前衛に出ている。
「あらあら……まぁ、私を活かすなら、この戦術しかないわよねぇ……お嬢さん、ちょっとの間ジッとしててね」
リースティーアのF90Lタイプは、ロングレンジ・ライフルを構えて、近付いてくるモビルスーツ部隊に照準を合わせた。
「やはり、F89とGキャノンの混成部隊だ! 20機はいるぞ!」
「あらあら……Gキャノンがノーマル・タイプなら問題ないけど……換装した機体が数機混じってそうね」
フォルブリエとリースティーアの声が、リファリアのF90のコクピットに響く。
「相手は何であれ、2機で戦っているように見せかけてくれ! 奇襲で相手を撹乱する。機動力では、こちが上だ!」
リファリアの通信を聞きながら、フォルブリエはモニターを確認する。
「ナイトハルト・エバンスが部隊を仕切ってんのか? それとも、別の野郎が機体を乗っ取ってんのか……」
「あら……傭兵出身のエバンスさんねぇ……だとしたら、コロニーに穴を開けられかねないわ。敵を倒すのに、犠牲を厭わない人だからね」
ナイトハルト・エバンス……サナリィに来る前は傭兵として戦場を転々ときていた人物だ。
サナリィではF89のテスト・パイロットとして、リースティーア達とは何度も模擬戦を行っている。
部隊を勝たせる事に長けた人物であり、勝たせる為ならどんな手でも使う。
それが、卑怯でも非人道的であろうとも……だ。
「エバンスか……奴の部隊なら、金でザンスカールに付いても不思議じゃない。それに……」
敵、味方の確認なく撃ってくる……リファリアがそう言おうとした矢先、早速仕掛けてきた。
「ちっ、野郎……相手が俺達だと分かってて、先制してきやがった! だがなっ!」
フォルブリエの操るF90Sタイプに放たれたビームは、尽くメガ・ビームシールドに弾かれる。
「残念だが、コッチのSタイプは特別製だ! 貧弱な火器じゃ、相手にならんぞ!」
ミサイルで牽制しながら、エバンスの部隊に接近しようとするフォルブリエだったが、うまく距離をとりながら攻撃をしてくる。
「戦い方を分かってやがるな……リースティーアの射撃が届かない距離を保つか……」
「フォルブリエ、大丈夫だ。プロシュエール、ジャミングカット! 仕掛けるぞ!」
リファリアの指示で上空からリゼル改がGキャノンにビームを放ち、エバンスの部隊が一瞬混乱する。
その隙に乗じてリファリアのF90も、ジャミングをカットしてエバンスの部隊の横っ腹へビームを撃ち込む。
「このチマチマした作戦、敵の指揮をとってるのはリファリアだな。このコロニーは、我々にはもはや用は無い。貴様ら、遠慮なくぶっ放せ!」
エバンスの野太い声に呼応して、Gキャノンが1機……射撃の姿勢をとる。
「ヴェスバーだ! コロニーの中で、そんな高火力のビームをっ!」
「あらあら、でも相手が悪いわ……止まって撃ってくるビームに合わせるなんて、造作も無いわ。フォルブリエ、避けてよ」
リファリアの焦りも何のその……ヴェスバーのスピードに合わせてF90Lタイプのロングレンジ・ライフルからビームが放たれる。
高出力のビームとビームが重なり合い、光の飛沫を舞ながら消滅した。
「リースティーアか……厄介な奴も混じってるな」
「隊長! 同僚を倒して、ザンスカールから金貰えんのか? 無駄に命を懸けたくないんだが?」
敵にリースティーアとフォルブリエがいる……サナリィ所属のテスト・パイロットなら、戦いたくない相手である。
「あん? てめぇら、怖気づいたのか? リースティーアだろうが、フォルブリエだろうが、戦場で敵として会ったら倒すだけだろうが! コイツらをリガ・ミリティアの部隊と合流させなけりゃ、金なんて欲しいだけ貰えんだろ! なぁ?」
エバンスの言葉に無表情で頷いた女性は、搭乗しているF89のビームライフルをリゼル改に合わせた。
「けっ! メインカメラと左腕を失っていても、貴様らに倒される程弱っちゃいねーんだよ!」
F89から放たれるビームをモビルスーツ形態に変形しながら躱すと、不用意にマシンキャノンを撃ってきたGキャノンのコクピットにビーム・トンファーを突き刺す。
その間にもF90Lタイプから放たれるビームが、足の止まったエバンス隊のGキャノンのコクピットに面白いように突き刺っていく。
「リースティーアさん……気を付けて下さい。何か、嫌な予感がする……」
「あら……意外とアッサリ片付きそうよ。全滅させちゃえば、嫌な予感とやらも当たりようが無いでしょ?」
クレナと話ながらも、リースティーアの射撃は止まらない。
エバンス隊に吸収されながら戦うプロシュエールとリファリアの機体に当てないようにしながら、更にGキャノンのコクピットだけを貫いていく。
「リースティーア、躊躇いねぇな。一応、テスト・パイロット時代は同僚だったんだろうに……ま、戦士なら情けをかけるとしっぺ返しが来る事は当然知っているか……」
エバンスは部隊を後退させながら、時を待っていた。
「プロシュエール、このまま押し込め! エバンスの部隊を崩壊させて、そのままリガ・ミリティアの部隊と合流する!」
気付かれないようにリファリアの機体にワイヤーを伸ばしていたエバンスは、コクピットでほくそ笑む。
「頃合いだ……やってくれ!」
相変わらず無表情で頷いた女性は、F89で近くにいたGキャノンに発砲する。
「何だ? うわぁぁぁぁ!」
突然の味方機の裏切りに、為す術なく墜とされるGキャノン。
その牙は、エバンスのF89にも及ぶ。
ビームサーベルがF89の頭を焼き、更にコクピットを蹴り飛ばす。
「ぐおっ! クローンがっ……やり過ぎだ! だが、これでいい」
エバンスと僅かに残ったGキャノンは、女性の乗ったF89を残して後退していく。
残されたリファリア達も、混乱していた……