機動戦士ガンダム ダブルバード   作:くろぷり

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操られし者11

「さーて、どうするかな? ベスパってのに入隊してもいいし、サナリィでテスト・パイロットを続けてもいい……あのイエローのジャケットはダサイが、金は貰えそうだしな……」

 

 プロシュエールは独り言をブツブツと言いながら、手を後頭部に回して歩いていた。

 

 どうやら、既にサナリィはベスパ……ザンスカール帝国の部隊に制圧され始めているようだ。

 

 テスト・パイロットはサナリィに雇われているだけ……なので、どうとでもなる。

 

 プロシュエールは楽観的に、今後の事を考えていた。

 

 しかし何があるか分からない御時世だから、モビルスーツを1機は確保しておきたい。

 

 そう考えたプロシュエールは、研究所の2階に位置する格納庫に足を向けていた。

 

 テスト・パイロット達が使っていたモビルスーツは、ほぼ2階の格納庫に収容されている。

 

 フォルブリエとリースティーアの機体だけ整備の為に1階の格納庫にあった。

 

 その為、フォルブリエとリースティーアは、他のテスト・パイロットと離れて作業をしていたのだ。

 

「しかしなぁ……この中、騒がしいよなぁ……面倒な事になってるなら、入らないって手もあるぞ」

 

 格納庫の中から伝わる喧騒を感じ、プロシュエールは格納庫の扉の前で考え込む。

 

 普段より、明らかに騒がしい……巻き込まれたら、今後の身の振り方の選択は出来なくなる可能性が高い。

 

 だが……外は、ベスパのモビルスーツと連邦のモビルスーツが激突している区域もある。

 

 モビルスーツ無しで出歩くのは、危険な状況でもあった。

 

「仕方なし……誰とも話さず、モビルスーツだけ貰ってトンズラするか……」

 

 プロシュエールは、意を決して格納庫の扉を開く。

 

 そこで、言葉を失った。

 

 格納庫の中は複数の同じ顔の女性に占拠され、抵抗したのだろうか……知っている顔の遺体も、何体か床に転がっている。

 

「なんだ……こりゃ? って……お前ら、ちょっと待て! オレはテスト・パイロットをしているだけで、リガ・ミリティアでも連邦でもない! あんた達の敵ではないんだ! だから、銃を下ろしてくれ!」

 

 手を頭の上に挙げ、同じ顔をした無表情の女性の顔と、自分に向けられている銃口を交互に見ながら、プロシュエールは後退りをした。

 

「伏せて! その子達に、説得は通じないわっ!」

 

 プロシュエールは背後から女性の声を聞いた……その直後、頭を掴まれ頭が床に叩きつけられる。

 

 その瞬間、プロシュエールの身体があった場所に、銃弾の雨が降り注いだ。

 

「まじか……って、あんたも同じ顔しているな……」

 

「今は、頭を低くして動かないで下さい。彼女達は、精密な動きは出来ません。物陰にさえ隠れていれば……」

 

 プロシュエールを床に叩きつけた女性は、確かに銃を持って格納庫を占拠している女性達と顔は同じ……だが表情もあって、その柔らかい雰囲気に安堵感すら感じる。

 

「あいつ達と、あんたは……何者なんだ?」

 

「あの子達は……いえ、私も……クローンです。私だけが感情を持つ事を許されて……この部隊を指揮していたのですが……もう……」

 

 戦場では、なかなか聞けない柔らかい口調……その女性の優しさが伝わって来た。

 

 かなりの重要機密であろう事を、見ず知らずの自分に教えてしまっている……自分と同じ顔をした人間が殺戮する姿は、見ていられなかったのかもしれない。

 

 その事で、精神的に追い詰められているのではないか? と、プロシュエールは感じた。

 

「このままオレを助けて作戦を放棄したら、あんたの立場はヤバイんじゃないか?」

 

「そう……ですね……でも、私はもぅ……死んでしまいたい……」

 

 その言葉で、プロシュエールは確信した……この女性は、このままでは死を選ぶだろう。

 

 今、命を助けられたからか……その女性が美しかったからか……プロシュエールは、何故か守りたいと思った。

 

「通信機は、持ってるか?」

 

「はい……サナリィを制圧したら、連絡をする事になってます」

 

 プロシュエールは頷くと、自分のモビルスーツ……リゼル改を視界に入れる。

 

「あのモビルスーツを取って来る……いや、F90も1機残ってんな……ありゃ、リファリアって奴のか? 腕の悪いパイロットが使うより、オレが使った方がいいか……」

 

 プロシュエールは呟くと、直ぐに行動を開始した。

 

 物陰を這って行けば、なんとかリゼル改の足元へは辿り着けそうだ。

 

 モビルスーツさえゲット出来れば、後は逃げるだけ……そして、プロシュエールは決意していた。

 

 あの女性を守って戦う事を……何故だかは分からないが、守りたいと思う。

 

 いや、決めかねていた自分の今後の道が開けたように感じ、その事を自分の使命だと思いたかったのかもしれない。

 

 女性と共にリガ・ミリティアに参加し、ザンスカール帝国のスパイとして活動する……サナリィのテスト・パイロットと結託し、上手く潜入できた事にすれば、ザンスカール帝国に戻らなくて済むだろう。

 

「顔がニヤけているぞ。これだけの銃声の中、よくも変な妄想が出来るな……まぁいい、早く乗れ!」

 

 考え事をしている間に、リゼル改の足元に到達したプロシュエールは、上からの声に驚いた。

 

「てめぇ……人の機体で何やってんだ?」

 

「モデファイしといてやったんだよ。この状況、使えるモビルスーツは、1機でも欲しい。プロシュエール……だったな? 君は格闘戦に特化しているのだろう?」

 

 リゼル改のコクピットから頭を出した男……リファリアはリゼル改を動かすと、プロシュエールをその手に乗せる。

 

「このまま、代わってくれ。そして、オレをF90のコクピットまで送ってくれ」

 

「ちっ、一体何なんだよ……」

 

 そう言いながらも、プロシュエールは隠れている女性が気になっていた為、リゼル改のコクピットに滑り込むとリファリアをF90のコクピットまで運ぶ。

 

「よし……恐らく、サナリィはザンスカール帝国に完全に接収される。君も、自分の身の振り方を考えた方がいい。まぁ、これからザンスカールに入隊するのは難しいかもしれんがな……」

 

 リファリアはF90のコクピットに座ると、キャノピーを閉じる。

 

「先に行く。リゼル改の調整が気に入ったら、付いて来てくれ。私1人で切り抜けるのは骨が折れそうなんでな……」

 

「ああ……あんたがザンスカール帝国に刃向かうなら、無条件で付いて行ってやるよ。直ぐに追い付く」

 

 リファリアは頷くと、F90を格納庫から飛び出させた。

 

 F90のバーニアの光を目で追いながら、プロシュエールはリゼル改を隠れている女性の元へ移動させる。

 

「無事か? 狭いが、とりあえずコクピットに入ってくれ」

 

「いえ……私が付いて行っては、迷惑がかかります。行って下さい」

 

 プロシュエールは首を横に振ると、激しくなる銃弾から女性を守るようにリゼル改を深く屈ませた。

 

「ここで死にたいのか? 自分のやってた事が許せないなら、オレを利用してでも逃げろ! 早く、リゼルの手に乗れ!」

 

 プロシュエールの大きな声にビクッとした女性は、思わず差し出されていたモビルスーツの手に飛び乗ってしまう。

 

「よし……行くぞ! とりあえず、目を閉じてろ! コイツ達には悪いが、殲滅しなくちゃマズイんでね」

 

 コクピットに女性を移すと、プロシュエールはリゼル改を飛行モードに変形させ、ビーム・トンファーを展開する。

 

 そして、低空を飛びながらクローン達をビームの刃で焼いていく。

 

「これで、テスト・パイロットに拉致られたって言っても信じてもらえるだろ! しかし……この機体、本当にリゼルか? F90より動く気がするぜ!」

 

 サナリィの格納庫から飛び出したリゼル改は、先行していたF90に追い付いた。

 

「遅かったな……」

 

「悪い、野暮用があってね。それよりも、このモビルスーツ……とんでもなく良くなっているが、何をしたんだ?」

 

 高ぶっている気持ちが抑え切れないような、プロシュエールの興奮している声を聞いて、リファリアはため息をつく。

 

「オレがお前の事の癖を理解して、時間をかけて調整すれば、もっと良くなる。そんな事より、前方にモビルスーツが2機……」

 

「F90タイプか……サナリィを制圧する為に、サナリィ所属のテスト・パイロットを使ってんのか? くそっ!」

 

 リファリアとプロシュエールは、気持ちを整える。

 

「指揮能力を特化したF90と格闘特化のリゼル改で、あの2機に勝てるのか……」

 

「よりにもよって、うちのトップ・パイロットか……だが、やるしかねぇ! オレには、それしか道は無いんだ!」

 

 何故、プロシュエールは自分の為にそこまで……

 

 女性は心配そうな顔で、プロシュエールを見詰めていた……


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