「助かった! とりあえずビッグ・キャノンを破壊するまでは、アンタを信用してみるよ! 皆も、2機の黒いモビルスーツは味方機としてマーカーしておくんだ!」
とてつもない程の高出力ビームを目の当たりにして……そもそも、黒いモビルスーツが防いでくれていなければ、部隊が全滅していた可能性がある……ジュンコに、シュラク隊だけでは突破は難しいと思わせる程、そのビームのプレッシャーは凄まじかった。
「リグ・グリフに、とんでもないビームを持たせたモノだ……だが、弱点もありそうだぞ。マデア、リグ・グリフが足場にしている円盤……アレが無いと、恐らく高出力ビームは撃てないだろう。それに、あと撃てても2発といったところか……」
冷静に伝えてくるリファリアの声に、マデアも落ち着きを取り戻す。
「そうだな……強いプレッシャーに驚いてしまったが、モビルスーツと武器のバランスは悪い。それに、リガ・ミリティアの信用は得られたようだ……結果オーライって事かな」
マデアは隊長機であろうジュンコのガンイージに向かって、回線を開く。
「高出力ビームを持った機体は、俺達で対応する。後ろから厄介な奴も追って来ているし、時間はかけたくない。リガ・ミリティアの部隊がカイラスギリーまでの道を切り開いたら、俺のザンスバインとユニコーン・タイプのビーム・マグナムでカイラスギリーを叩く。射軸さえズラせれば、地球への直撃は無くなる!」
「そしてカイラスギリーを制御しているのは、タシロのスクイードだ。そこまで叩ければ、かなりの時間を稼げる筈だ」
リファリアはそこまで言うと、迫って来たタイタニア・リッテンフリッカにビームを放つ。
「へぇー、自分達だけでは弱すぎるから、敵だったリガ・ミリティアと共闘するのね! ダサッ! プライドってモノは無いのかしら?」
「自分の考えも無く、操られるように戦っている奴に言われたくはない。それにタシロの援護などしたら、ズガン将軍に怒られるぞ」
タイタニア・リッテンフリッカから放たれるビームを巧に躱しながら、マグナ・マーレイ・ツヴァイのフレキシブル・バインダーからビーム・ウィングを展開する。
ビーム・ウィングから放たれるビームの羽は、シュラク隊にも迫るビームを尽く防いでいく。
「リガ・ミリティアの部隊はやらせんよ。そして、お前も部下との合流はさせん。こちらには、時間が無いんでな」
「あっそ! でも、コッチはオールド・タイプに用は無いんだよなー。マデア少佐と戦いたいのに……このままじゃ、タシロの子飼いに取られちゃうじゃんよ!」
ビームサーベルを握って突っ込んで来るタイタニア・リッテンフリッカの起動性は、マグナ・マーレイ・ツヴァイのソレを超えている。
が……その動きは、フレキシブル・バインダーから放たれたビームシールドによって防がれた。
「何度も言うが、リガ・ミリティアの部隊もマデアも、やらせる訳にはいかないのでな……用が無くても、相手をしてもらうぞ」
6本の腕にビームサーベルを持って襲いかかるタイタニア・リッテンフリッカに対して、マグナ・マーレイ・ツヴァイは誘導式のビームシールドを駆使して防いでいく。
性能では劣るマグナ・マーレイ・ツヴァイで味方を守る姿を見て、リースティーアはサナリィでリファリアに出会った頃を思い出していた。
サナリィの研究所で働いていたリファリアとリースティーアは、共に新開発された兵器を試すテスト・パイロットであった。
テスト・パイロットの特徴として、何かに秀でている者が選ばれる傾向にある。
リファリアは指揮能力、リースティーアは射撃、それぞれの長所を認められサナリィの門を潜る事を許されるが、リファリアは総合力でリースティーアどころか、他のテスト・パイロット達にも大きく水をあけられていた。
リファリアの方がパイロット歴は長かったが、それでもパイロットとしての腕はさほどでもない。
その為、リースティーアはテスト・パイロット時代のリファリアの事はよく知らない。
同じ職場で同じ仕事をしていたにも関わらず、リファリアの事はよく分からない……それぐらい、印象になかった。
しかしサナリィの研究員の間では、リファリアはちょっとした有名人であった。
テスト・パイロットにも関わらず、モビルスーツや武器の技術的なところに意見をしてくるのだ。
パイロットの技能が低いにも関わらず……である。
それでも、自分が使ったモビルスーツや武器に意見を言うならいいが、全く関係の無い技術にも意見を言っていた。
その内の1つが、ミノフスキー・ドライブである。
当時、ミノフスキー・ドライブを使用する時に生じる荷電粒子の余剰エネルギーを排出する為の機構が問題になっていた。
荷電粒子の余剰エネルギーを安定して排出する為には、どうしてもパーツが長くなってしまい、その為に生じる機体バランスの著しい低下は、パイロットに多大な負荷をかけてしまう。
かつてサナリィが独自開発したレコードブレイカーは、その問題を解決したと言われていたが、実際は荷電粒子の余剰エネルギーの排出過剰に陥った……つまりパワー・コントロールの難しい機体となっており、実戦投入出来る程の機体ではなかった。
リファリアは、荷電粒子の余剰エネルギーを兵器として使う事を前提にして、そのパーツを短くする事を提案する。
当然だが、サナリィの研究員達はパイロットの意見を聞く事も無く、ミノフスキー・ドライブを搭載したモビルスーツの完成系は開発出来なかった。
いや……レジアの父ブレスタ・アグナールと、ミューラ・ミゲルが設計図面を描いたダブルバード・ガンダムは、戦場での活躍を見せている。
だが機体バランスの問題は解決されておらず、ニュータイプのセンスとエボリューション・ファンネルというサポート兵器との併用が前提の機体の為、限られたパイロットしかコントロールできない。
リースティーアはザンスバインがビームファンを使った姿を見て、更にリファリアの事を思い出してしまっていた。
そしてリースティーアの記憶は、自然とリファリアの事を認識したサナリィでの事件……ザンスカール帝国によるサナリィ接収事件へと巻き戻る。
リファリアの能力の凄さと、内に秘めた優しさを……
レジア達がダブルバード・ガンダムの設計図面を守って戦っていた時、テスト・パイロット達も激しい戦いを繰り広げていた。
裏切りと殺戮が行われる戦場の記憶……サナリィの技術を守る為の戦いが、そこにはあった……