「タシロの奴、カイラスギリーは私達に丸投げって感じだね。ズガンのM字がタシロに、リガ・ミリティアに集中しろっ! とか言ってたけど、露骨だねー。まぁ、いいけど……」
アネモ・シリーズのカイラスギリーの防衛に回る気のない動きを見て、アルテミスは溜息をつく。
アネモ・シリーズの援護が無くても、リガ・ミリティアのガンイージと所属不明の新型2機如き、タイタニア・リッテンフリッカとレシェフの敵ではない。
とは言え、所属不明の2機の動きを抑えるのは容易ではなさそうだ……ちょっと面倒臭いと、アルテミスは思う。
リガ・ミリティアの部隊では、レシェフの部隊を抜けられないだろう……しかし目の前の敵は、自由にしたらカイラスギリーまで届きそうだ。
「仕方ないなぁー! 本当は面倒臭い事、嫌いなのよねー!」
タイタニア・リッテンフリッカは、デュアルビームガンを高速で動くザンスバインに照準を合わせる。
「タシロの盗まれたザンスパインもどきなら、Iフィールドは無いでしょ? 当たって墜ちろっ!」
「そんな単発の攻撃に当たるかっ! リファリアがリガ・ミリティアを巻き込んでくれたなら、カイラスギリーの宙域まで戦場を移動させる! ミノフスキー・ドライブならっ!」
デュアルビームガンを連射するタイタニア・リッテンフリッカに向かって、ザンスバインはミノフスキー・ドライブで最短距離を駆け抜けた。
が……タイタニア・リッテンフリッカに食いついたと思った矢先、ザンスバインに全方位からビームが襲いかかる。
「Iフィールド無しで、ファンネルの攻撃はキツイでしょ? さっ、楽にしてあげるわっ!」
「本気で……この程度で、ザンスバインを墜とせると思っているのか? ニュータイプ相手に、全方位攻撃は通用しないっ!」
ザンスバインはビームシールドをマントのように展開し、更に加速しタイタニア・リッテンフリッカに迫った。
その動きを予測していたかのように、アルテミスはタイタニア・リッテンフリッカの4本の隠しアームにビームサーベルを握らせて、近付くザンスバインに振り下ろす。
「隠しアームがある事は、さっきの戦闘で予習済みだっ!」
マデアの駆るザンスバインは、高速に動きながらビームサーベルの攻撃を躱し、タイタニアの懐にビームサーベルを突き立てる。
いや……突き刺さったと思われたビームサーベルの先に、タイタニアの姿は消えていた。
隠しアームと腕に合計6本のビームサーベルを握らせて、回転しながらビームサーベルを躱し、更にザンスバインに襲いかかる。
「コイツ……やはり厄介だ……動きが読み辛い!」
マデアは、そう言いながらも連続して襲いかかる変則のビームサーベルの攻撃を躱しきった。
そして、カイラスギリー……ビッグ・キャノンに向けて、ミノフスキー・ドライブに火を入れた。
「なっ……逃げる気!」
「子供と遊んでいる時間はないんでね……カイラスギリーを破壊したら、もう一度だけ遊んでやる!」
ザンスバインは、カイラスギリーの前方に展開するレシェフの部隊を目掛けて加速する。
「このままでは、リガ・ミリティアの部隊が押し込んで来るレシェフの部隊と、カイラスギリーの前に展開するレシェフの部隊の間に入ってしまうか……ならば、先に押し込まれて来るレシェフを叩く! 急がば回れってな!」
リガ・ミリティアのシュラク隊の動きに合わせて挟撃しようと動くザンスバインの動きを察したのか、レシェフ隊はザンスバインを避けるようにカイラスギリーの前に戻って行く。
「サイキッカーか……やはり、やりづらい相手だ……」
戦う相手を逸したマデアの元に、シュラク隊とリファリアが合流する。
「あんた、私達の味方か? それとも敵か? どちらにしても、随分と戦場を混乱させてくれたもんだね」
「女性のパイロットか……いや、すまない。ニコルが居てくれれば話が早いんだがな……今は、ゆっくり話をしている暇はない。少なくとも、あの大量殺戮兵器を叩くまではリガ・ミリティアと争うつもりはない」
ガンイージから向けられるビーム・ライフルの銃口を見ながら、マデアは落ち着いた声で話す。
「抵抗する気はない……って事かい? だが、それだけで信用出来ると思うのか? 私達は、戦争をしているんだ!」
抵抗する様子を見せないザンスバインに向かって、ヘレンのガンイージはビームサーベルを握って今にも襲いかかろうとしている。
「あらあら、ヘレン。先程までの冷静さは何処にいったのかしら? この方々が味方だろうが敵だろうが、あの砲台を破壊しなければいけない。この戦いは、勝てば良いって訳ではないわ。撃たれたら、私達の負け……もう胸を張ってレジスタンスをやってるなんて、言えなくなる……」
「話が分かる方がいて、助かる。我々が協力すれば、ビッグ・キャノンを破壊できる可能性が上がるのは間違いない……」
マデアは押し潰されそうなプレッシャーを突然感じ、言葉を止めた。
そして、そのプレッシャーの発信源を見つけようとモニターを注視する。
宇宙の闇を切り裂いて来る光点を発見したマデアは、MDUを外して扇状のビームを発生させた。
高出力のビームの閃光がビームファンと交錯し、スパークを起こす。
「はっ! やるねぇ……私の撃ったビームを防ぐ奴がいるなんてね。タシロが嫌っているザンスカール最強のニュータイプ……楽しませてくれそうじゃないか!」
「このプレッシャー……異常だ! もはや、アーシィの力を超えている! それにリグ・グリフで、こんな高出力のビームを撃っていては、機体が持たないぞっ!」
マデアの心配など、お構いなし……上唇を舌で舐め、目尻を緩ませながら、リグ・グリフに大型のビーム・キャノンを構えさせる。
額と耳から、大きな鈴が見え隠れしていた……