「我々の目的は、何が何でもビッグキャノンを墜とす事にある! 誰かがやられても、立ち止まるな!」
謎の機体同士が戦う戦場に、ジュンコのガンイージを先頭にシュラク隊が飛び込んで行く。
「リガ・ミリティアも動いてくれたな……ズガン艦隊から出ているモビルスーツを、このままタシロのスクイード1の方に押し込んで行けば、なんとかなるかもしれん」
「ああ……だが、スーパーサイコ研究所で造られた2機のモビルスーツの動き……気になるな。リガ・ミリティアのモビルスーツがカイラスギリーを叩きに動いているのに、それを追っていない……むしろ、素通りさせたようにも見えた。トライバードを墜としておきたいという気持ちは分かるが……」
タイタニア・リッテンフリッカをタシロのスクイード1の方に押し込みながらも、マデアはアモネ・シリーズの動きが気になっていた。
とはいえ、マデア達の目的もカイラスギリーを墜とす事にある為、それを確かめに行く訳にもいかない。
「あの2機をレジアが抑えてくれていると、良い様に考えるしかない。新型がいないだけでも、だいぶ助かる。ただでさえ、我々は戦力的に劣っているのだから……な」
仮面の男……リファリアは、レシェフに牽制攻撃を仕掛けながらガンイージの部隊に寄っていく。
「おい……あのバタフライ野郎、コッチに寄って来てないか?」
「あらあら……白い奴じゃないケド……サナリィでは、散々お世話になったわね! 仲間の敵、とらせてもらうわっ!」
近付いてきたマグナ・マーレイ・ツヴァイにいち早く反応したのは、サナリィでの激戦を最初から経験していたヘレンとリースティーアだった。
正面から迫るレシェフの部隊を無視して、マグナ・マーレイ・ツヴァイに狙いを定める。
「あの2人……まぁ、仕方ないか……ケド、状況は混乱しているんだ! 気をつけなよ! 前から来る黄色いのは、私達で叩く!」
ジュンコ、オリファー、ケイトのガンイージは、レシェフに向かって動き出す。
「へっ、大丈夫だろ! あの蝶々は、ビットをどこかに置いてきたみたいだしな! 弱体化した機体なら、2人で充分だぜ!」
ヘレンのガンイージが放ったビームは、フレキシブル・バインダーからパージされたビームシールドによって防がれる。
「ちっ、やっぱりサイコミュは装備してんのかっ!」
「あらあら……あれに乗っているのはニュータイプじゃないわ……それに、あの動きは?」
リースティーアのアマネセルも、ピンポイントでマグナ・マーレイ・ツヴァイにビームを浴びせた。
黒のマグナ・マーレイは、そのビームを無駄な動きなく躱し、直撃されるビームだけをビームシールドで防御する。
その戦い方を……無駄の無い戦闘スタイルをリースティーアは知っていた。
忘れられる訳もない……大切な戦友の……慕っていた上官の戦い方……
「あら……まさか、リファリアが生きていたなんて……そんなドラマみたいな展開、あるわけないわ!」
ビーム・マグナムを構えたF96アマネセルに、ワイヤーが取り付く。
「リースティーア、無駄玉を撃つんじゃない。マグナムは、カイラスギリーを破壊する為に必要な兵器だ。モビルスーツ相手なら、ビーム・ガトリングで充分だろう?」
「あらあら……私の動揺でも誘うつもりかしら? お生憎様だけど、私はリアリストなのよ。こういう事は、ロマンチストのお嬢様にする事をお勧めするわ!」
リースティーアは、アマネセルの装甲に取り付いたワイヤーをビームサーベルで斬り裂くと、シールドの内側に装備されたビーム・ガトリングガンでマグナ・マーレイ・ツヴァイを狙う。
「ふっ……リアリストか……確かに、マグナムを温存したのは冷静な判断だ。しかし、ユニコーン・タイプを持ち出すとは……そんな事にコストを費やしていては、完成形のミノフスキー・ドライブの開発が遅れるだけだ。ミューラは、一体何をしているんだ……」
ビーム・ガトリングガンのビームを巧に躱すマグナ・マーレイ・ツヴァイに、ヘレンのガンイージがビームサーベルを握って近付く。
「なんだか、知り合いの戦い方に似ちゃいるが……いちいち腹が立つんだよ! 墜ちやがれっ!」
不意を付いた一撃……アマネセルのビーム・ガトリングガンを躱す事で手一杯であろうマグナ・マーレイ・ツヴァイの死角からの攻撃……
しかしワイヤーで繋がれたビームシールドが、まるでサイコミュを使っているかのようにビームサーベルを受け止めた。
「くそっ! なんだ!」
「ヘレン……パイロット・センスは相変わらず高いが、感情で動くところは変わってないな……冷静になれ。今は私達と戦う事より、カイラスギリー……ビッグキャノンを叩く事が先だ。我々が敵ならば、ビッグキャノンを墜としてから決着をつければいい」
ヘレンは唇を噛み締めると、無言でマグナ・マーレイ・ツヴァイから離れる。
「あの野郎……正論を言いやがって……そういうところも、リファリアそっくりだ。だが、確かに小競り合いをしている場合じゃねぇ! また地球を撃たれたら、私らの面目が丸潰れだ!」
ヘレンはアマネセルに本隊に合流するように指示を出し、攻撃対象をレシェフに変更した。
「あらあら……ヘレンにしては冷静な判断ね……あの機体にリファリアの偽物が乗っていたとしても、まずはビッグキャノンを叩かないと……少し落ち着いてよ、私の心臓」
リースティーアは息を大きく吐き、自分の胸を軽く叩く。
黒のマグナ・マーレイに乗っているのは、リファリアかもしれない……
自分の名前を知っていた事、声に電子音の様な物が混じっていた事……重症を負った身体を、機械で補えば生きている可能性だってある。
そこまで考えた後、リースティーアは首を大きく横に振った。
何をロマンチストの様な事を……私はリアリストなんだ……
そう自分に言い聞かせ、リースティーアはレシェフ部隊に飛び込んでいく。
ビッグキャノンの射撃のタイミングは、刻一刻と迫っていた……