「さぁ、隠し技を使っちゃうぞー。6本腕の近接攻撃、受けれるかしら?」
両腕と肩から生えた4本の腕の全てに、ビーム・ソードが握られている。
タイタニア・リッテンフリッカと鍔迫り合いを演じていたザンスバインに、5本のビーム・ソードが迫った。
「奇をてらった攻撃など、ザンスバインには通用しない!」
ザンスバインの肘に仕込まれた小型のビーム・ストリングスが、5本のビーム・ソードを振り回そうとしていたタイタニア・リッテンフリッカを絡めとる。
「その網、まだ出るの? もー、ウザったいなー」
アルテミスはタイタニア・リッテンフリッカを回転させ、ビーム・ソードでビーム・ストリングスを切り裂いていく。
「隙が出来たな……リファリア、ビーム・ファンを使ってみる!」
「分かった。だが、まだ完成された技術じゃない。出力は絞って使えよ」
マデアは、ザンスバインの背部に取り付けられたMDU(ミノフスキー・ドライブ・ユニット)を外し、その手に持たせる。
MDUから放出される荷電粒子を武器に転用した、ザンスバイン専用の武装だ。
扇のように放出された荷電粒子は、通常のビーム兵器の破壊力を遥に超える。
「きゃっ! なんて威力なの? 推進装置が外れて武器になるなんて……ズガン将軍、こんな兵器があるなんて聞いてないわっ!」
予想外の攻撃であったが、アルテミスの反応も早い。
6本全てのビーム・ソードを防御に回し、扇状に拡がるビーム・ファンの攻撃を受け止めた。
「アルテミス、一度戻って来い! 奴の武装……下手したらカイラスギリーにダメージを与える程の力があるかもしれん! タシロの部隊がリガ・ミリティアに釣り出されているのだから、我々でカイラスギリーの防御を受け持つしかない」
「了解、ここは無理する必要ないってコトね。レシェフ隊はカイラスギリーの防衛に回って。私は機体の損傷を確かめる為に、一度戻るわ」
アルテミスはレシェフの部隊に指示を送ると、素早く後退していく。
「引き際も早いな……そして、やはりと言うべきか……ズガン艦隊は、タシロの部隊を守る気は無そうだ」
「ああ……厄介なレシェフの部隊は、ビッグキャノンの防衛に入ったようだな……後方に警戒しながら、リガ・ミリティアの援護に回ろう」
ザンスバインの隣に、レシェフからの猛攻を凌ぎきったマグナ・マーレイ・ツヴァイが飛んできた。
20機のレシェフに囲まれながら無傷で切り抜けたリファリアの腕も然る事ながら、モデファイされたマグナ・マーレイ相手に1機も欠ける事がなかったレシェフの力も相当である。
「ズガン艦隊……無敵と言われるだけの事はある……これだけのモビルスーツとパイロットを集めているとは……」
「レシェフだけでも厄介だと思っていたが……天使の輪計画の中枢を担っている部隊だけの事はある」
リファリアの言葉に頷いたマデアは、レシェフ隊が動かない事を確認してから、リガ・ミリティアとタシロの部隊が戦っている戦場へと向かって動き始めた。
「アネモ・ボレアス、出撃準備よしっ! ティーヴァに鈴は付けているな?」
「はい、サイコミュの増幅は問題なさそうです! ボレアス・ベースは、まだ使えませんが……」
アネモ・ボレアスは、アーシィのクローン用に造られたモビルスーツである。
ボレアス・キャノンと呼ばれる超長距離射撃を可能にした兵器を装備し、その機体を保持する為のボレアス・ベースも開発されていた。
ニュータイプのクローンであり、強化人間でもあるグリフォン・タイプだが、それでもニュータイプ程の力は発揮出来ていない。
それを克服する為に造られた物が、ピアスの様に耳に付ける鈴型のサイコミュ増幅装置である。
サイコミュ増幅装置による感知能力の拡大で、超長距離射撃が可能になるのか……その実験機でもあった。
試作モビルスーツではあるが、カイラスギリーの技術も盛り込まれており、両肩の粒子加速装置がボレアス・キャノンの超長距離射撃を可能にしている。
しかし発展途上の技術であり、連発は出来ない。
その機体に、鈴を付けたティーヴァ・グリフォンが乗り込んだ。
「ティーヴァ、リガ・ミリティアの部隊に高精度の射撃を続けている奴がいる。そいつを叩け!」
「了解しました。タシロ様の為に、全力で戦ってまいります」
ティーヴァの返事に、タシロは満足気に頷く。
マイから奪い取った人を愛する感情を埋め込まれたティーヴァ・グリフォンは、その対象をタシロとされている。
タシロは全てのグリフォン・タイプに、自分の事を愛させようとした。
しかし後期型のファラはメッチェに助けられたデータも組み込んだ為に、メッチェに好意を寄せてしまっている。
ノルは初期型の為に、愛情はあるのかもしれないがタシロの思い通りには動かない。
結果、タシロは言う事を聞くエットとティーヴァがお気に入りであった。
人を愛する感情がある方が、愛した人を助ける為に限界値以上の力が出るのではないか……タシロは実験を行う為に、そうプレゼンしたが、言いなりになる女性を側に置いておきたかっただけかもしれない。
「頼むぞティーヴァ。作戦を成功させたら、また愛してやるからな」
そう言うタシロの顔は、気持ち悪くなる程の下卑た笑みを浮かべていた……