「くそっ! まじで始まってんのかよ……皆は無事なのか……」
「ニコル、焦っちゃダメだよ。戦いが継続されてるって事は、まだ無事だよ。大丈夫……大丈夫だから……」
感情を失ったマイは、状況を冷静に分析出来る。
そんなマイの言葉は、今だけはニコルにとって心強かった。
「よし……行くぞ! ダブルバード、シャトルから切り離します!」
ニコルが操縦するダブルバード・ガンダムは、モビルアーマー形態でシャトルから離れる。
ガコン……
軽い衝撃の後、ダブルバード・ガンダムのコクピットにペギーの声が届く。
ペギーのガンイージが、ダブルバード・ガンダムを触っている。
「ニコル、先行してミリティアン・ヴァヴに纏わり付くモビルスーツを排除しろっ! 私も、直ぐに追いつく!」
「了解! でも、ツインテール・システムは初装備なんでしょ? 無理しないで下さいね」
ニコルはそう言うと、ダブルバード・ガンダムのバーニアを全開にして飛び立つ。
「ツインテール・システムか……リファリアって奴がいれば、もう実用段階になってたって話だな。ミューラさんが頑張っても、今回のは戦闘宙域まで飛んでくのが精一杯か……我々は、とんでもない男を失ったな……」
ペギーは呟くと、閃光と火球が煌めく戦闘宙域に目線を向ける。
「ガンイージ・ツインテール。ペギー・リー、行くよ!」
以前の戦闘で、リースティーアのジェムズガンに与えられたブラスター・パッケージと呼ばれるバックパック……ツインテール・システ厶は、ミューラの手によって開発が再開された。
しかし、リファリアによってジェムズガンに装備されたソレに比べ、信頼性が格段に落ちている。
戦闘には対応出来ない……それでも、目的地までの高速移動ぐらいには使えるだろう……
まだ開発段階のツインテール・システムをペギーのガンイージに装備させたのは、そんな理由からだ。
「私は、リファリアさんの足元にも及ばない……でも、やるしかない。ミノフスキー・ドライブ搭載型の量産と、ブラスター・パッケージ……必ず完成させてみせる」
離れていくガンイージのバーニアの光をシャトルの中から見送るミューラは、そう心に誓った……
「ニコル、ミリティアン・ヴァヴが見えてきた! まだ健在だよ」
「よし……頼むぞ、ダブルバード。ミノフスキー・ドライブ・ユニット、展開! サイコミュ・システム起動!」
ダブルバード・ガンダムがモビルスーツ形態に変形し、二つ折りに畳まれているパーツが展開し始める。
ダブルバード・ガンダムに搭載されたミノフスキー・ドライブ・ユニットは、上下に開いたパーツの上が長く、バランスが悪い。
その為、ミノフスキー・ドライブを使用しない時は折り畳まれている。
折り畳まれている時のミノフスキー・ドライブ・ユニットは、エボリューション・ファンネルのチャージをする事が可能だ。
エボリューション・ファンネルは、フィン・ファンネルのシステムを元に開発されている。
小型ながら大容量のジェネレーターを搭載し、メガ粒子のビームを放つだけでなく、Iフィールドを作りだせる……そして真ん中から分離し、ファンネルの外装にビームを纏わせ、ビームサーベルのような攻撃も可能。
また擬似大気を作り出し、外装に粒子を走らせプラズマを発生させる事によるプラズマ・ブースターとしてダブルバード・ガンダムに推進力を与え、高速移動させる事も出来る。
1機での局面打開……そしてミノフスキー・ドライブのデータを取る為に、生き残る事を最優先させたいが為の装備だ。
モビルスーツ形態となったダブルバード・ガンダムは、その全てのシステムを稼動させる。
ニコルの声に呼応するかのように、ダブルバード・ガンダムの背部に与えられたミノフスキー・ドライブ・ユニットが動き出した。
二つ折りになったパーツを覆うように装着された部品が分離し、腰の辺りまで下がってくる。
そして、二つ折りになっていたパーツが開いていく。
展開された翼に火が灯ると、ダブルバード・ガンダムの姿は光の翼を残して消えた……いや、そう見間違える程の加速で、ミリティアン・ヴァヴに迫る。
「エボリューション・ファンネル! 応えろ!」
ダブルバード・ガンダムのサイコミュ・システムが、ミリティアン・ヴァヴの格納庫に置いてあるエボリューション・ファンネルに働きかけた。
6本のエボリューション・ファンネルが、ダブルバード・ガンダムのシステムに反応する。
格納庫の扉を内側から破壊すると、ミリティアン・ヴァヴに纏わり付くモビルスーツを一瞬で6機破壊した。
「とりあえず、ミリティアン・ヴァヴのブリッジを守る! ファンネル!」
3本のエボリューション・ファンネルが、ミリティアン・ヴァヴのブリッジの周囲にIフィールドを作り出す。
ゾロアットの放ったビームは、Iフィールドに触れて消失した。
「よし……次! ミリティアン・ヴァヴに近付くモビルスーツを破壊する!」
エボリューション・ファンネルは分離すると、その身にビームを纏わせて回転する。
そのまま高速で動きだし、ゾロアットの頭を……腕を……足を斬り裂いていく。
「それで帰れるだろっ! もう、戦場に出て来るなっ!」
「ニコル……あれ、敵の新型じゃない? もうミリティアン・ヴァヴに取り付いちゃってる!」
マイが指差す方を確認すると、ゾロアットとは違うモビルスーツがミリティアン・ヴァヴのブリッジに向かって動いているのが見えた。
「くそっ! 死角になってたのか……まだ距離があるから、正確にモニター出来てなかった! けど、エボリューション・ファンネルならっ!」
回転するビームサーベルの様に動くエボリューション・ファンネルは、ブリッジを破壊する為に放たれたインコムのワイヤーを切っていく。
後方から、危険な機体が迫っている……そう感じたティーヴァの判断は早い。
ミリティアン・ヴァヴへの攻撃を諦め、リグ・グリフはダブルバード・ガンダムに牽制攻撃をしながら距離を取る。
「あっさり諦めた? 攻撃を継続していれば、エボリューション・ファンネルで墜とせていたのに……」
ニコルは呟くと、ヘルメットを外して汗を拭う。
「うーん……なんか、汚いなぁ……」
シャボン玉のように漂う汗の玉を見たマイは、自らのヘルメットを外そうとする手を止める。
ダブルバード・ガンダムは、窮地を脱したミリティアン・ヴァヴへと近付いていた……