「リガ・ミリティア……性懲りもなく攻めて来たか。グリフォン・タイプの準備は出来ているな?」
「はっ! ニュータイプとしての力は微妙ですが、感情のコントロールには成功しています。カネーシャ・タイプより、人間的に動ける筈です」
研究員の報告を笑顔で聞いたタシロは、満足そうに頷く。
「では、エットとティーヴァをリグ・グリフで出撃させろ。墜とされても構わん。戦闘データは必ず持ち帰り、ノルとファラにデータの上書きが出来れば、それでいい」
「ティーヴァも使うんですか? 感情が不安定なノルから使った方が……」
そう言う研究員の言葉を、タシロは手の平を広げて制する。
「ノルはプロトタイプな分、不安定だがニュータイプ能力は高い。1番安定しているファラと、能力の高いノルは切り札としてとっておく。アーシィの身体も、かなり疲弊している。これ以上の実験に耐えられそうにないんでね。マデアが離反した今、アーシィはザンスカールの貴重なニュータイプだ。私とて、もうアーシィの身体を自由に出来なくなってしまったからな……手元にあるクローンを有効利用しなくてはならない」
「分かりました。では、エットとティーヴァの出撃準備を行ってまいります」
研究員はタシロに敬礼すると、艦橋から出て行く。
「グリフォン・タイプも出すんですか? カネーシャ・タイプを使うと思っていましたが……」
「もちろん、使うさ。リガ・ミリティアのエースと、エース機を一気に葬る。その為には、カネーシャ・タイプの仕掛けも必要だからな……」
ピピニーデンの横で、タシロは嫌らしい笑みを浮かべる。
「リガ・ミリティアが攻めて来る大義名分を作る為に、わざわざ地球を撃ってやったんだ……反乱ゴッコは、ここで終わりにさせてもらう」
タシロはモニターに映る宇宙と戦闘の光を見て、ゆっくりと立ち上がった……
「左舷、弾幕薄いぞっ! メガ粒子砲で牽制っ! 狙わなくていい、艦に近付けさせるなっ!」
「左舷に弾幕を集中! 当てなくてもいいから、モビルスーツに牽制攻撃!」
ゾロアットとラングの大軍に囲まれながら、ミリティアン・ヴァヴは孤軍奮闘していた。
しかしモビルスーツの援護が無い状態では、牽制する事しか出来ない。
ザンスカールのモビルスーツ隊は減る事は無く、ミリティアン・ヴァヴのみが一方的に削られていく。
装甲は焼け、弾幕を張る弾数も減り続ける。
「我々が墜ちたら、皆の帰って来る場所が無くなる……なんとしても、生き残るんだっ!」
次から次へと襲い掛かるザンスカールのモビルスーツ隊に怯みそうになるクルー達を、艦長のスフィアは必死に鼓舞していた。
だが、自軍のモビルスーツがビッグキャノンの破壊出来たとしても、まだまだ時間はかかる。
その間、艦が生き残っている可能性は極めて低い……
クルーの全員が、そう感じていた。
モニターに映るモビルスーツの数は減るどころか、数は増えている。
そして……
「新たな機影を確認! ザンスカールの……新型です!」
その報告に、ミリティアン・ヴァヴのクルー達は沈黙した。
ラングとゾロアットだけで手一杯の状況で、敵の新型モビルスーツ……インコムによるオールレンジ攻撃と、ビームを吸収して拡散してくる機体が来る……
そんな機体を相手に出来る程、ミリティアン・ヴァヴに余力はない。
「モビルスーツ隊に、救援を要請しましょう! この作戦事態、無理だったんですよっ!」
ニーナは、瞳に涙を溜めながら叫んだ。
「今さら、モビルスーツ隊に救援を要請しても遅い! とにかく、全力で……少しでもコチラに敵のモビルスーツの意識を向けさせるんだっ! そうすれば、ビッグキャノンだけは破壊出来るチャンスが増える!」
生き残る事が出来なくても、ビッグキャノンだけは破壊しなければならない……
スフィアが覚悟を決めた……その時、ミリティアン・ヴァヴは大きな衝撃に襲われた。
「何が起きた?」
「モビルスーツの格納庫に直撃! 装甲が破壊されました!」
立ち上がって指揮をとっていたスフィアの腰が落ち、艦長席に座り込んでしまう。
「艦橋に直撃……来ます!」
その報告をボンヤリと聞きながらスフィアは唇を噛み締め、瞳から一雫の涙が零れた……