「ニコル……お父さんとは、しっかり話し合えたの?」
「いえ……ベスパの襲撃があって、それどころじゃ……戦争反対の父さんが、レジスタンスのモビルスーツ・パイロットになる事を賛成してくれるとも思えないですケド……」
ミューラの声で足を止めたニコルは、格納庫に収納されていくダブルバード・ガンダムを眺めながら言った。
「子供は、いずれ親の元を旅立つモンさ。戦争が終わったら、無事の報告をしに行けばいい。何があっても、私達が守ってやるよ。虎の子のダブルバード、墜とされる訳にもいかないしね」
ペギーはそう言いながら、ニコルの髪をクシャクシャっと掻き回す。
「ペギーさん……援護、ありがとうございました。そうですね……次に地球に下りた時に、胸を張って報告に行きます。ザンスカールを……ベスパを地球から追い出して、戦争を終わらせたら必ず……」
「そうだね……ヴィクトリー・タイプが量産体制に入って、オールド・タイプでも扱えるミノフスキー・ドライブ搭載機が開発されれば、一気に形勢は逆転する。アンタとレジアがリガ・ミリティアを牽引し続けてくれれば、必ず勝てる。私は、そう信じてるよ」
金髪の美女であるペギーに褒められて、ニコルの頬は赤くなる。
「それで、ダブルバードを宇宙へ飛ばす段取りは出来てるんだろうな? 宇宙引越し公社は、地球連邦軍でも干渉出来ない。どうするつもりだ?」
油の飛び散った作業着を来たガルドが、格納庫から出て来て話に加わった。
「引越し公社の局長、マンデラ・スーンに話は通ってるわ。ジン・ジャハナムが動いているから、問題ない筈よ」
「引越し公社のシャトル、2機使えるんだろ? ダブルバードと私のイージを上げちゃったら、地球の防衛は大丈夫かしら?」
ガルドの質問に答えたミューラに、今度はペギーが不安な表情で尋ねる。
「一応、彼女に地球に残ってもらうつもりなんだけど……少し不安かしら?」
「なによ! 皆して! 私だって、ヴィクトリー・タイプのテスト・パイロットに任命されているんだから、あなた達と同等ぐらいにはやってみせるわ! ミューラ先輩……さっきは腕が上がってるって、褒めてくれたばかりなのに……」
ミューラの横に歩み寄って来た褐色でボーイッシュな女性、マーベット・フィンガーハットが頬に空気を入れて膨らませ怒っていた。
ニコルはマーベットを見ると、シャクティの事を嫌でも思い出してしまう。
「ん? どうしたの、ニコル? 私の顔に、何か付いてる?」
「いえ……スイマセン! マーベットさんの実力は、皆分かってますよ。ただ、戦力的に厳しいってだけで……」
慌てて口を開いたニコルを見て、マーベットは笑った。
「大丈夫よ。あなた達が、これ以上のザンスカールの地球進攻を止めてくれれば、現有戦力だけで何とかなるわ。それに、コア・ファイターによるシュミレーションを何度もやってるんだから、ヴィクトリーさえ完成すればザンスカールを地球から追い出してやるわ」
力こぶを作ってみせるマーベットを見て、今度はニコルが笑ってしまう。
「お話中、スイマセン! ミリティアン・ヴァヴの艦長から、ミューラさんに通信が入ってます!」
「スフィアから? 何の用かしら……」
通信に出たミューラは、目を見開く。
「ビッグ・キャノンに、動きあり……ですって! シュラク隊とレジアが、もう一度攻撃に向かう……ダブルバードの合流は待てない……」
呟くようにスフィアの言う事を復唱するミューラは、顔が引き攣っていた。
「ミューラさん、どうしたの?」
「ミリティアン・ヴァヴが、ビッグ・キャノンの破壊に挑むみたいだわ……でも、今の戦力じゃ……」
顔が蒼ざめて行くミューラを見て、ただ事ではないとニコルは感じる。
「ニコルは、知らなかったね……前回、ビッグ・キャノンを攻撃した時は、完敗だったみたい。しかも、奇襲でね。今回は、身構えている相手に挑まなきゃならない。かなりヤバイね……」
ペギーの言葉を聞きながら、ニコルは思わず宇宙を見ていた。
さして、舞台は再び宇宙へ……
犠牲を覚悟した戦いが始まろうとしていた……