「父さん……すまない。母さんも、マイの両親も助けられなかった……」
「何を言っているんだ。ニコルが悪いんじゃないだろ……戦争が全て悪いんだ。それで……これから、どうするんだ?」
ニコルは、父であるロブ・オレスケスの住むマンダリアン近郊まで足を運んでいた。
離婚しているとはいえニコルは母の死を伝えたかったし、モビルスーツに乗って戦う決意をした事を報告したかった。
「しかし……お前は、ただの搬送の仕事で宇宙に上がったんだろ? それがどうして、モビルスーツで戦う事になってるんだ?」
「最初は、ただ仲間を救いたくてモビルスーツにのったんだ……いや、好奇心もあったんだと思う。けど、マイが心を失ったり、敵にも心を通じ合える人がいたりして、戦う事を避けるようになってしまったんだ……」
ニコルは宇宙に上がってからの経緯を父に詳しく話し、ロブも静かに耳を傾けている。
「大変だったんだな……だが、地球に戻ってこれて良かった。これからは漁師として働きながら、将来の事を決めればいい。とは言え、ここの辺りも物騒になってきたが……」
ロブはそう言うと、近くに積んであるガラクタ……モビルスーツの外板に目を移す。
「こんなにガラクタを集めて、どうするのさ? リガ・ミリティアや連邦が買い取ってくれるのか?」
「そうだとしても、戦争に加担する気は無いな。私の戦争嫌いは知っているだろ? コイツは、魚礁になるのさ……最近、気付いたんだがな。以前よりは魚が捕れるようになったし、生活するだけなら漁師で充分やっていける」
そんな父の言葉に、ニコルは発しそうになった言葉を飲み込み、口を閉ざした。
再び、モビルスーツで戦う……それを言っていいのか、迷ってしまう。
バラバラバラ……
しばらく黙って、モビルスーツのガラクタ……外板を眺めていたニコルの耳に、ヘリコプターの音が飛び込んできた。
その音は、少しずつ近付いて来る……
「なんだ? ヘリコプターとは、珍しいな……」
「父さん……バルセロナに移住してくれないか? この辺りの町は、多分ベスパが襲って来る……人探しの為に、虐殺して来る可能性もある。だが、津波で全滅したバルセロナの町なら、生き残れる可能性がある!」
そう言うと、ニコルは走り出した。
父の声を背中に受けながら、ニコルの瞳からは涙が零れる。
そして林の中に隠していたダブルバード・ガンダムのコクピットに滑り込んだニコルは、コンソールを叩く。
「ニコル、お父さんとの話は済んだの?」
「それどころじゃない! ベスパのヘリコプターが飛んで来やがった! これから迎撃する!」
ミューラに通信で戦う事を伝えたニコルは、操縦管を握る。
「ニコル……ダブルバードは、重力下の戦闘を想定して造ってないわ! 無理に戦闘しなくても……」
「いや……多分、シャクティを探している部隊だ。だとしたら、マンダリアンの住人達を殺戮しても探そうとする……ミューラさん、オレが戦っている間に、マンダリアンの人達を避難させてくれっ!」
独り言のように呟いた後、ニコルは叫んだ。
「はぁ……仕方ないか……ペギー、カミオン隊を護衛しながらニコルと合流して」
「はいよ。虎の子のダブルバードが墜とされちゃ大変だし、ニコルが危険と感じているなら、動いておいて損は無い」
ミューラとの通信を終えると、綺麗な金髪を靡かせながら、ペギー・リーはガンイージに向かって歩き出す。
「ニコル、マンダリアンの近くにペギーの隊がいるわ! マンダリアンの人達も、カミオンで搬送する。だから、無理しないで!」
「ペギーさんが来てくれる? なら、安心だ! ミノフスキー・ドライブとエボリューション・ファンネルが使えなくても、ダブルバードならやれる!」
モビルアーマー形態で浮き上がったダブルバード・ガンダムは、迫って来るゾロのトップターミナルに向けてバルカンを放つ。
ピンポイントで放たれたバルカンは、ヘリコプターの様な形態のトップターミナルに付けられたプロペラ……ビーム・ローターを破壊した。
「まさか……あれに、ニコルが乗っとるのか……帰って来い、ニコル! お前は、戦争なんかしちゃいかん!」
叫んだロブの横に、大型のトレーラーが止まる。
「オッサン! ここの辺りは、モビルスーツ戦が始まる。危険だから、離れろ! とりあえず、一緒に来い!」
大型トレーラー……カミオンから飛び出した若者が、ロブを抱えると運転席のシートの後ろに押し込む。
「くそっ! 貴様ら、ニコルを戦争に巻き込むな! 私の大事な息子なんだぞ! 引き返せ!」
ロブの叫び声は、カミオンのエンジン音に掻き消されていった……