「援軍……いえ、違うわね。あれは……」
シャクティは、感覚で戦闘機が援軍ではない事を確認する。
しかし、敵ではない。
戦闘機は、ゾロに対してビームを放ち始めた。
「ふん……今更、戦闘機が1機増えたところで……」
「だが、あの戦闘機にアシリアを持って行かれたら厄介だ。1機は戦闘機を墜としに行け!」
6機いるゾロのうちの1機は、戦闘機に向けてビームを撃ち始める。
不安定にビームを避ける戦闘機は、明らかに素人が操っているように見えた。
「戦闘機のパイロットは雑魚だっ! せっかく希望が持てたのに、残念だったな!」
5機のゾロが、ゼータガンダム・リファインを取り囲む。
「囲まれた……それに、不安定な機体に1機向かった?」
シャクティは、感覚を全周囲に飛ばす。
「動きが止まった? チャンスだっ!」
動きを止めたゼータガンダム・リファインに、ビームサーベルを構えて1機のゾロが飛び込んだ。
バシュュュゥゥゥ!
不用意に飛び込んだゾロのコクピットを、ゼータガンダム・リファインのロング・ビームサーベルが貫いた。
「迂闊よ! でも、おかげで穴が開いたわ」
前方のゾロに向かってクレネード・ランチャーを放ったゼータガンダム・リファインは、爆煙に紛れてウェーブ・ライダーに変形する。
「ちっ、行かせるかよっ!」
ゾロから放たれるビームを尽く躱し、ウェーブ・ライダーを戦場に入って来た戦闘機に向けて飛ばす。
「あの機体……戦いに来たと言うより、何か……ニコル達を探しに来たのね!」
戦闘機に近付くにつれ、そのパイロットから感じる感覚をシャクティは捉える。
「そう……その機体は、ニコル達の希望になるのね……なら、墜とさせる訳にはいかない! ニコル、マイ、アシリア様をよろしくね!」
シャクティは、ウェーブ・ライダーの後方からビームローターを展開して追って来るゾロにビームで牽制しながら、戦闘機に迫って行くゾロに神経を集中させた。
「おいおい……5機もいて、何突破されてんだよ……まぁ、この素人の乗る戦闘機を墜とすのは訳無い。それから、じっくり料理してやるぜ!」
先行して戦闘機を追っていたゾロは、ビームライフルを構える。
「間に合わない……ごめんなさい、アシリア様……こんな方法しか思いつかなくて……」
シャクティはそう言うと、見えない瞳を閉じた。
「シャクティさん! モビルアーマーを助けに行ってる場合じゃないだろ! 自分の身を守ってくれよっ!」
ニコルは戦闘区域から出る為に林の中を走りながら、ウェーブ・ライダーの動きに歯痒さを感じる。
ウェーブ・ライダーに変形する前は、攻撃に転じたゼータガンダム・リファインの動きに希望を見た。
しかし、敵か味方かも分からない……それも、戦力にならなそうな戦闘機を助けようとする動きのウェーブ・ライダーに、ニコルは疑問を抱く。
自分の命が危険な状況で、無防備に戦場に入って来た戦闘機を守る必要があるのか……
走りながら上空を……戦闘を見るニコルの裾が、突然引っ張られた。
「ニコルさんっ! お母さんを助けてっ!」
「お母さんって……そうか……オレだって助けてあげれるなら、助けたいけど……」
懇願する瞳で見上げるアシリアに、ニコルは思わず視線をズラしてしまう。
「くそっ……せめて、あのモビルアーマーでも使えれば……素人パイロットじゃ、シャクティさんの邪魔してるだけだ!」
ニコルは悔しそうに、空を……ウェーブ・ライダーの軌道を目で追った。
「って……シャクティさん、何してんだ! 背後のモビルスーツへの牽制を止めたら、簡単に墜とされるぞ!」
「ニコル……シャクティさんは、戦闘機を守るつもりだよ! 前にいるモビルスーツに攻撃する為に……」
そう……明らかにウェーブ・ライダーは後方へ攻撃しなくなり、次々と撃たれるビームを回避しながら、戦闘機を撃とうとしているモビルスーツに迫っていく。
「くそっ! こんな時、映画とかならモビルスーツが都合よく転がってるんだろうに……何か……何か無いのかよっ!」
「ニコル……それより頭に……頭に、何か入ってくる……」
空を見上げるしかないニコル達の頭に電撃のようなものが走り、マイは頭を抱えながらも空を見上げる。
「お母さんの……声?」
アシリアの瞳もまた、ウェーブ・ライダーの描く軌跡を眺めていた……