カイラスギリーが、地球に向けてビームを発射する前……
レジア達がビッグキャノンに攻撃を仕掛ける為に出撃準備を始めた頃、ニコル達は港町であるバルセロナにいた。
「じゃあ、オレ達はここで……戻る前に連絡を入れるよ」
「シャクティさん、気をつけて下さいね」
シャクティが所有していたカミオンにゼータガンダム・リファインをウェーブ・ライダー形態にして乗せ、小高い丘の上に停車させた。
「ええ……2人も気をつけて。ヨーロッパ・エリアの居住権を持ってるにしても、宇宙から戻ってない事になってるんだから……」
「まぁ、そのぐらいなら何とかなるよ!!」
シャクティに手を振りながら、ニコルとマイは小高い丘から町の方に歩き始める。
向かう場所は、ニコルの母の家だ。
父と離婚した母は、バルセロナに住んでいる。
故郷のマンダリアンに近い事もあり、離婚した後もニコルは母の元に年に1回は遊びに行っていた。
マイの両親と仲が良い事もあり、今日は母の家に来ている筈である。
「両親に会うの、久しぶり……でも、何の感情も湧かない……ニコル、やっぱり怖いよ……」
「辛いけど、マイの両親なら分かってくれるさ……そして、元に戻す方法は必ずオレが見つける。行こうぜ!!もう待ってる筈だからさ」
マイの手を引いて、ニコルは丘を小走りに駆け下りた。
ニコルの母の家の前に着いた頃には2人とも息が上がり、玄関の前で深呼吸をする。
呼吸が整い顔を見合わせた2人は、その汗だくの顔に思わず笑ってしまった。
「こんなに笑ったの、いつ以来だろう………あーあ、せっかく頑張ってきた化粧が全部溶けちゃうよ」
「親に会うのに、顔を気にしても仕方ないだろ??」
感情で表現出来ない分、化粧で頑張って来たのに……頬を膨らませるマイを横目に、ニコルはチャイムを押す。
「ニコル??入ってらっしゃい。暑いでしょ??」
懐かしい母の声に、ニコルは玄関のドアを慌ただしく開けた。
クーラーから流れている涼しい風に乗って、母の家の嗅ぎ慣れた香いが鼻を通る。
懐かしい母の姿に、ニコルはその胸に飛び込みたかった。
しかし両親と対面したマイの姿を見て、思い止まる。
「マイ、心配していたんだぞ……」
涙ぐむ父親の姿とは対照的に、マイの顔は無表情だ。
電話でマイの状態を話していたとはいえ、やはり両親にはマイの無表情にはショックが強かった様子で、その姿にマイの母親は泣き崩れる。
「すいません……オレが戦場に出てしまった為に……」
「いや、ニコルの責任ではないよ。リガ・ミリティアのファクトリーで働く事を決めた時に、戦争に巻き込まれる事を想定して私達が止めなければいけなかった……」
マイの父親はニコルの頭を軽く撫でると、再びマイの顔を覗き込む。
「感情を無くそうが、マイは私達の大切な子だ。そして、戦争の火の粉が地球に降り注がないように、必死に戦ってきた結果だろ??とても辛いが、私は誇りに思う……」
マイの父は泣き崩れている妻を抱き起こし、ソファーに腰を下ろす。
「それでニコル、これからどうするの??もうリガ・ミリティアには戻らないのでしょう??」
「うん、そのつもり。とりあえずマイは、マンダリアンの実家に戻るのが良いと思うんだ。オレも一度親父に会ってから、カーシーで修業を続けようと思う。マイの感情を取り戻す手懸かりが掴めるかもしれないし……」
その後ニコル達は、宇宙であった出来事を話した。
モビルスーツでザンスカールと戦った事、マイがレジアに恋した事、マイがザンスカールに捕まった事、そしてニコルがニュータイプである事……
ひとしきり話した所で、ニコルの携帯電話が鳴った。
「ニコル、アシリア様が……」
その電話を切った瞬間、家の上空からプロペラの音が近付いてくる。
「ニコル、どうしたの??」
「シャクティさんがヤバそうだ……ちょっと行って来る!!」
ニコルは、慌てて外に飛び出す。
一緒に飛び出して来たマイと共に、ニコルは小高い丘に今度は駆け上がっていった……