「撃たれてしまったか……だが、これではっきりした。ザンスカールに未練は無い。そして、リガ・ミリティアも連邦も帝国に対抗するには、もう少し時間が必要……か」
「そうだな……トップが雲隠れしているリガ・ミリティアは、後手に回っている。数機のモビルスーツで、カイラスギリーを討てる筈が無い。指揮官が不在な状況でよくやっているとは思うが……無謀過ぎる」
腕を組み考え込むマデアの横で、仮面を被った男がその言葉に答えた。
「やはり、我々が人柱になるしかないな……リガ・ミリティアと地球連邦の協力体制が整わなければ、この戦いに未来は無い。ベスパの地球降下作戦を少しでも遅らせる事が出来れば……」
「その為のザンスバインだろ??もうロールアウト目前だ。ザンスカールを陰で支える、お前の為の機体だ」
ザンスバイン……女王マリアやタシロやカガチ……それぞれの思惑でブレ始めているザンスカール帝国を支える為のモビルスーツ。
ザンスカールの膿を出す為に……マデアの為に造られた機体……
「ザンスバインか……しかし、タシロも厄介な奴を敵に回したな。お前が書き換えたデータで、ザンスカールはミノフスキー・ドライブ搭載機は当分の間は造れないだろうからな。タシロのザンスパイン計画は、確実に頓挫する……」
そう言うと、マデアは仮面の男に視線を向けて苦笑いをする。
リガ・ミリティアがミノフスキー・ドライブ搭載機の開発をしているように、ザンスカール帝国も当然開発を進めていた。
それが、ザンスパイン計画。
タシロがアーシィのクローン計画を進めていたのも、この機体開発の影響が大きい。
ザンスパインにはニュータイプ専用武装も装備される予定であったからであり、また開発中のミノフスキー・ドライブの加速Gがオリジナルのアーシィに与える影響も考え、ニュータイプのクローン計画も同時に進められていた。
タシロは自分がザンスカールの実権を握る為に水面下で様々な工作を行っていたが、そのうちの1つでもある。
マデアが名付けたザンスバイン……ザンスパインと一文字しか違わないこの機体は、バインの意味である茎の弱い植物が蔦で支える……グラついている帝国本体を支えたいというマデアの気持ちを名前に取り入れた。
そして一文字しか違わないモビルスーツを見たら、タシロは気付くだろう………そう、タシロの思惑を暴いてやろうという強い意思を持って名付けられたのが、ザンスバインである。
「俺は、お前に付いて行くと決めたからな。命を救われたのもそうだが、過ちを正す力がお前にはある。その力を使う為の剣と盾なら、いくらでも造ってやるさ。だが、仲間だった者達と戦う事になる………辛い戦いになるぞ??」
「それは、お互い様だろ??リガ・ミリティアでもザンスカールでもない。我々はあまりに小さい存在だが、それでも戦い抜く為の覚悟は出来ているつもりだ」
仮面の男はマデアの反応を見て、口元を緩ませた。
「さぁ……楔を打ち込みに行くぞ。俺達の後に続いてくれる者達が現れる事を信じてな……」
そしてこの数日後、マデアはザンスカール帝国を離反する。
ザンスカール帝国を正しい方向へ……その考えは、ザンスカール帝国とリガ・ミリティアを敵に回す苦しい選択だと言う事は、マデアも仮面の男も分かっていた……