「リガ・ミリティアの戦艦が見えてきたな。こっちに来てくれて、有り難い事だ。ズガン艦隊に墜とされでもしたら、また奴に大きな顔をされてしまうからな………」
タシロは独り言のように呟くと、スクイード1に作られたクローンのファクトリーを眺める。
「グリフォン・タイプは、もう少し調整が必要だな。アーシィの能力を最大限に活かし、更に私の意のままに動く人形になって貰わんとな………やはり今回は、カネーシャ・タイプをメインで使うしかないか………」
タシロは怪しく微笑むと、1人の女性のクローンを見つめた。
黒髪にアジア系の顔立ち………そして物腰の穏やかそうな女性は、タシロでなくても気になる男性は多いだろう。
「カネーシャ・タイプは、能力は微妙ですね。腕の良いパイロットのクローンなのに、元々の性格なのか………味方を庇う動きを行ってしまう為に、倒せる相手でも倒しきれない………」
「まぁ、そう言うな。味方を庇うのも、使いようだ。それに、命令には従順だしな。感情が欠落してるから、その辺りが面白みに欠けるが………」
顎に指を当てて考え込む仕草をするピピニーデンに、タシロは笑いながらその肩を叩く。
「そういえば、感情を持たせたクローンが一体いましたね??確か、強化人間の失敗作でしたか………奴は今どこに??」
「感情を持たせた為に、自由気ままに動いている奴が確かにいるな。強化してやった恩を忘れ、我々に反旗を翻した愚かな奴が………だが、それも含めて使いようって事だ。次の戦闘で、少々実験してみるか………自分の大切な場所が自分のせいで壊れていく様を見た時、奴はどうなるかな??」
タシロの気持ちの悪い笑みは、更に大きくなった。
「アーシィ大尉、今回はベスパの指揮下で戦うんですね!!私にも勉強させて下さい!!」
パイロット・スーツに着替えたアーシィが、マグナ・マーレイのコクピットに入ろうとしている姿を見たメッチェが、大きな声を出す。
「准尉か………少し声が大きいぞ………今回はマリア様の命令で、ベスパに協力する事になった。タシロ中佐に采配を委ねているから、准尉が私の指揮下に入るかは分からんぞ??」
「モビルスーツ戦になれば、マグナ・マーレイの動きは目立ちます。それを見て勉強しますよ!!」
メッチェはアーシィに敬礼すると、その場を離れて行く。
「全く………コッチは、モチベーション低めなんだがな………ニコルが無事にリガ・ミリティアに戻れたかは分からないが、ここの場所が分かってるって事は、ケイトとは戦わなくてはいけない………まさかクローン計画が、人の血を流さないで戦争を終わらせる要だったなんて………」
サイキッカーによる、人から闘争心という感情を抜き取る………天使の輪計画の準備が、クローンを実験体にして行われていた。
マリアもアーシィも、血が流れないで分かり合える事が一番良いと思う。
闘争心を失わせれば、戦争は起きない。
その計画を成功させる為には、嫌でもタシロの作戦を協力する必要がある。
「ふぅ………」
マグナ・マーレイのコクピットに収まったアーシィは、軽く溜息をついた。
それでも、それが本当に正しい事なのかアーシィは判断出来ないでいる。
しかしタシロに反発しなければ、母親の薬の支給が止まる事はない。
それを理由に、タシロの計画を自分の中で正当化しているだけではないのか??
「アーシィ大尉、マグナ・マーレイの出撃準備整いました!!いつでもいけます!!」
「了解した………マグナ・マーレイ、アーシィ・リレーン出る!!」
自分の迷いを振り切るように首を横に振ると、アーシィはマグナ・マーレイを飛び立たせる。
「後続のカネーシャ・タイプは、ゾロアットでアーシィ大尉の援護にあたれ!!」
スクイード1から次々とゾロアットが出撃し、カイラスギリーを背に防衛戦の陣形をとり始めた。
カイラスギリー防衛戦の火蓋が、切って落とされようとしていた………