機動戦士ガンダム ダブルバード   作:くろぷり

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宇宙と地球と

「カイラスギリー………ビッグキャノンか………ザンスカールは、なんでそんな物を造ったのかね??」

 

「それは………抑止力の為ではないのでしょうか??帝国とは言え、サイド2コロニー群の一国家に過ぎません。力を見せなければ、逆に押さえ付けられてしまいますから………」

 

 頭の後ろで腕を組み、ミリティアン・ヴァヴのブリッジの椅子に腰をかけたジュンコに、その傍らに立っていたクレナが答える。

 

「あらあら、ジュンコさん。地球の静止衛星軌道の外からでも、地球を直接狙える兵器は脅威だわ。コロニーレーザーやコロニー落としの悲劇は、地球の人達の恐怖を煽るには最適じゃないかしら??」

 

「それに地球に住む人達は恐怖と戦うというより、なんとか恐怖を取り除けるように動くだろう………戦わずして、ザンスカールに屈するという事態になりかねない。だからこそ、今回の作戦は成功させないとな」

 

 ブリッジのモニターに映し出されるカイラスギリー艦隊との距離を見ながら、リースティーアとレジアもジュンコに声をかけた。

 

「そもそも今回の作戦が失敗すれば、リガ・ミリティアの活動自体が地球から圧力を受ける事になるかもしれん。レジアも言っていたが、地球の人達は自分達に害が無ければ、外で何をしていてもお構いなしだ。そして害が出そうになれば、本質を叩くという発想ではなく、そこに刺激を与えた者を排除しようとするだろう………」

 

「はぁ………もし私達の攻撃中にビッグキャノンが撃たれて地球に被害が出たら、撃ったザンスカールじゃなくて、攻撃した私達が悪くなるのかぁ………問題を先延ばしにしても、結局は自分達が不利になるのにねぇ………」

 

 オリファーの話を聞いたマヘリアが、ウンザリといった表情で両手を広げる。

 

「そんな腐った地球の奴の中でも、オイニュング伯爵やボイスンとか、イイ奴達もいるからな。なんとかしねーと」

 

 ヘレンの言葉に、オリファーが頷く。

 

「今回の作戦は、結構無謀だ………無理はせず、とにかくビームを撃たせない事が1番大切だ。その上で、どこかを破壊させれればいい」

 

「あら………そうね。時間さえ稼げれば、地球連邦と協力する事も出来るかもしれないし、ダブルバードも間に合うかもしれない。とにかく、地球にビームが撃たれないように、少しでも壊して時間稼ぎするしかないわね」

 

 ジュンコは、少し穏やかで何を考えてるか分からないけど、やる時はやってくれるリースティーアの魅力がわ分かり始めていた。

 

 

「ニコル、マイの感情は取り戻せそう??」

 

 カーシーで修行中のニコルは、シャクティの言葉に首を横に振る。

 

「駄目だね。やっぱり、人に好意を持つって感情が失われてる。他は普通なんだけどね………なんで、ベスパはマイの感情を奪ったんだろうな………」

 

 ニコルは前髪に息を吹きかけると、カーシーの上空に広がる青い空を仰ぎ見た。

 

「焦っても仕方ないわ。少しずつ………ゆっくりでも、良くしてくしかないわね。一番辛いのは、マイなんだから………」

 

「まぁ………そうだな。それで、話ってなんだい??シャクティさん」

 

 ニコルは陽射しの強いカーシーに来てから、帽子を被っている。

 

 その帽子のツバを後ろにして、シャクティに呼び出された理由を聞いた。

 

「アシリア様に会う為に、今度バルセロナの町まで行く予定なの。ニコル達も、一緒にどうかなと思ったんだけど………」

 

「バルセロナか………故郷のマンダリアンの近くだな………マイの事を考えても、故郷に戻るのもアリかな??」

 

 ニコルはマイの心の療養の為にも、故郷に一度帰りたいとは考えており、シャクティの申し出はありがたい。

 

「そう。私は身体が不自由だから、一緒に来てくれると何かと助かるわ。リガ・ミリティアに戻るにしても、ヨーロッパの方へ行かなきゃいけないんでしょ??」

 

「うーん………マイの事もあるし、リガ・ミリティアに戻るかは決めてないんだよね………」

 

 シャクティはニコルの返事に、穏やかな表情で頷く。

 

「そうね、無理に戻る必要はないわ。私も色々考えて、地球に残る決心をした………ニコルも、自分が信じた道を進みなさい。でも………戦うにしても戦わないにしても、ニュータイプとして戦ってしまったからには、責任が付き纏うわ」

 

「分かってるつもりだよ。自分が戦わない事で、信じてくれていた人達を裏切る事も分かってる………でも………」

 

 ニコルは、ダブルバード・ガンダムを托そうとしてくれているレジアとミューラの顔が、真っ先に頭に浮かんだ。

 

 それでも、マイの感情の喪失や自分が戦う事で失われていく命に、ニコルは戦場に出る事に恐怖を覚え始めている。

 

「故郷に戻って、何か変わると良いわね。どうなるにしても………」

 

「ああ………でも、カーシーでの修行も有意義だった。人と分かり合う為にはどうすればいいのか………少し見えて来た気がするしね。それがニュータイプとしての能力なのか、人として当たり前の事かは分からないけど」

 

 そう………戦うにしても戦わないにしても、人と分かり合う事で争いが避けれるなら、それが一番良いとニコルは考えていた………


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