「シャクティさんは、カーシーに住んでいるんですか??確か、住居禁止だった気がするんですが…………」
マイの言葉に、シャクティは笑顔で頷く。
「そうね。基本は住居禁止なんだけど、教祖だったり修業中だったりで申請すれば、住む事は可能なのよ」
そう言うと、シャクティは煉瓦が積み上げられた作られた小さい家に、ニコル達を案内する。
「ここが私の家。家と言っても、借家だけどね。コーヒーでも持って来るから、寛いでいて」
シャクティはそう言うと、キッチンに消えていく。
「ニコル、さっきマデアさんの知り合いって言ってたケド、マデアさんって、私達を助けてくれたザンスカールの人だよね??」
「ああ、マリア・カウンターの将校の人だ。女王の娘を地球に隠した時に、シャクティさんは亡くなったって話をしていた…………生きてたなら、マデアさんに伝えてあげたいが…………」
そんな話をしていると、シャクティがキッチンからコーヒーを炒れて戻ってきた。
「ゴメンなさい。私、運ぶぐらいすればよかったですね!!気が利かなくて…………」
片手でお盆を持つシャクティを見て、マイが立ち上がる。
「気にしないで…………もう慣れてるから、大丈夫よ。ありがとう」
そう言うと、シャクティは片手で器用にコーヒーを机に並べていく。
「それで、ニコル達は何故カーシーに??」
シャクティは、人を安心させるような笑顔をニコルに向ける。
人の心にすんなりと入り込んで来る笑顔に、ニコルは安らぎを覚えた。
「大気圏付近で、ザンスカールの部隊と戦闘になって…………マデアさんから譲ってもらったモビルスーツで、大気圏を抜けて来たんだ」
「それで、着陸しても怪しまれなさそうな場所って考えたら…………カーシー付近がいいかなって」
ニコルとマイが、シャクティに簡単に経緯を説明する。
「そう…………大変だったわね。大気圏突入が可能なモビルスーツなら、ゼータガンダム・リファインかしら??」
「ビンゴ!!シャクティさん、よく知ってるね!!」
シャクティがモビルスーツの名前を正確に言い当てたのに、ニコルは少し驚く。
「私とマデアは、ダンディ・ライオンっていう艦で、一緒に暮らしていたの。その時に、ゼータとダブルゼータを造っているグレイ・ストークって言う物好きなおじさんがいてね…………楽しかったなぁ…………」
それほど昔の話ではないのだろうが、遥か過去を思い出すような表情をシャクティは浮かべた。
「シャクティさんは、女王マリアの娘さんを地球に連れて来る手伝いをしたんだろ??その娘さんは、どこに??」
「カサレリアって言う、東ヨーロッパの集落にいるわ。そこにいれば、ザンスカールの目から隠せる…………」
カサレリアと言う地名に、マイとニコルは顔を合わせる。
2人ともバルセロナ近郊の浜辺の町、マンダリアンで育った。
その為、東ヨーロッパの地名は詳しいが、カサレリアという地名は聞いた事がない。
「カサレリアは、とても小さな集落なの。知らなくても無理ないわ。だから、人を隠すのには丁度いいのよ」
2人の反応に察したシャクティが、カサレリアの説明をする。
「でもヨーロッパのエリアは、サイド2出身者や関係者が多いでしょ??ザンスカールの目から隠したいなら、ヨーロッパよりアジアとかに連れて来ちゃった方がいいんじゃない??」
「それは…………そうかもな。アーティ・ジブラルタルにあるマスドライバーも、サイド2への輸送がメインだし…………」
マイの言葉に、ニコルが同意した。
「本当は、そうしたいところなんだけどね…………ヨーロッパから出るのに、不法移民者だと取り調べを受けるし、その時にザンスカールに情報が流れてしまう可能性があるの。だから、ヨーロッパ地方に隠すしかなかった…………私は障害者でもあるし、サイキッカーの素養もあるからカーシーへは意外と自由に行き来が出来るのだけど…………」
「そっか…………ケド、そうまでして女王の娘を隠す必要あるのかな??女王の子供なら、ザンスカールでは不自由なく暮らせそうだけど…………」
マイは、当然の疑問を口にする。
「娘を人質にとられて、女王がいいように利用されない為って、マデアさんが言ってたな…………」
ニコルの言葉に、シャクティは頷く。
「そう…………あの日、私とマデアは地球に向かう事を決意した…………だけど地球は、外からやって来る者を排除する考えが根付いているの。だから、地球の人達とザンスカール帝国と…………両方からアシリア様を守るには、カサレリアに連れて行くしかなった…………」
その時の事を思い出しているのだろうか…………シャクティの瞳から、涙が1粒床に落ちた。
「それで…………最初の質問に戻ってしまうけど、シャクティさんは、どうしてカーシーに住んでいるんですか??その…………アシリアさんと一緒に住んでいる方が、守れるんじゃないかな??」
「私も、出来ればそうしたい。でもアシリア様は、私が倒れた時にショックで記憶障害が起きているの。けど、私の名前だけは忘れずに覚えていた…………私がアシリア様の前に出て行ってしまったら、記憶が戻ってしまうかもしれない。今のアシリア様は、自分の名前と疑わずに、私の名前…………シャクティを名乗っているの。だから私は、遠くから見守る事に決めたのよ」
地球に来た時、一体何があったのだろうか…………
女王の娘、アシリアの記憶が失われる程の…………シャクティの身体がボロボロになる程の事があったのだろう。
「アシリアさんは、シャクティさんの事が好きだったんだろうな…………だから、自分の名前を忘れてもシャクティさんの名前は忘れなかった。で、そのアシリアさんを守る為に、カーシーで修行中ってトコかな??」
シャクティはニコルの鋭さに、内心驚いた。
「凄いわね…………マデアがペラペラと喋ってしまう訳だ……………ニコルの言う通り、この身体でアシリア様を守るには、サイキッカーやニュータイプの能力を高めるしかない…………地球の衛星軌道上までベスパが迫っているなら、尚更ね」
シャクティの戦う理由を感じたニコルは、自分の心に問う。
自分は、一体何の為に戦っているのか…………
幼なじみのマイを助け、今は地球にいる。
2人で故郷に帰って、平和に暮らす事も出来るかもしれない。
ニコルは、リガ・ミリティアに戻るのか否か…………真剣に考えはじめていた。